透明人間

野良

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透明人間9

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「ねえ、エリカ。好きな人、いる?」

 美穂ちゃんにそう言われた時、私の胸の奥で何かが音を立てた。


 好きな人。

 私は尚人さんも絋海ひろうみくんも美穂ちゃんも好きだけれど、そういう意味ではないのだろうか。

 家に帰ってひとりでしばらく考えていると、尚人さんが帰ってきた。

 私は尚人さんの顔をじっと見た。

「どうした?」尚人さんと目が合う。

 私はすぐに目をそらす。いつもと違ってどきどきした。

 しばらくして、紘海くんがやってきた。

「よ、エリカ」紘海くんとも目が合う。

 どきどきしなかった。


 人を好きになる、ってどういうことなんだろう。

 私も、いつか好きな人ができるのだろうか。

 そして、胸の奥で鳴る音は一体なんだろう。

**********

 その日の放課後、急に雨が降り出した。

 天気予報は曇りで、傘は置いてきてしまった。しかも、委員会活動で帰りが遅くなってしまい、美穂ちゃんはもう帰ったあとだった。


 ーー困ったなあ。


 昇降口で空を見上げたが、まだまだ雨は止みそうになかった。

 仕方がないから走って帰ろうかと思ったとき。


「二ノ宮さん」

 後ろから声をかけられて振り返る。同じクラスの室井くんが立っていた。

「傘忘れたの?」室井くんが言った。

 私は頷いた。

「よかったら一緒に帰る?同じ方向だよね」そう言って彼は、傘を広げて差し出してくれた。


 同じ傘で一緒に帰る。

 普通だったらどきどきしてしまうのだろうが、私はどきどきよりも緊張してしまった。

 クラスの男の子とはほとんど話したことがない。私と一緒のところを見られてもいいのだろうか。傘を持ってもらっているけれど、迷惑に思っていないだろうか…など余計なことが気になって、ますます話せなくなっていた。


「…俺の家、兄弟多くてさ」室井くんがぽつり、と言った。「同い年だけど、二ノ宮さんが妹みたいに見えて、声をかけたんだ」

「妹がいるの…ですか?」

 なんで敬語、と室井くんは笑ったあと答えてくれた。「5人兄弟で一番上に兄貴がいて、俺は二番目。下に2人妹がいて、一番下は弟なんだ」


 そして彼は、家のことを話してくれた。

 私は、最初の緊張が嘘のように、室井くんと楽しく話ができた。


 家に着いたのは夜の7時過ぎだった。いつもなら尚人さんは帰っているのだけれど、その日はまだ帰ってきていなかった。

 そして10時になっても、帰ってこなかった。

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