9 / 11
透明人間9
しおりを挟む
「ねえ、エリカ。好きな人、いる?」
美穂ちゃんにそう言われた時、私の胸の奥で何かが音を立てた。
好きな人。
私は尚人さんも絋海くんも美穂ちゃんも好きだけれど、そういう意味ではないのだろうか。
家に帰ってひとりでしばらく考えていると、尚人さんが帰ってきた。
私は尚人さんの顔をじっと見た。
「どうした?」尚人さんと目が合う。
私はすぐに目をそらす。いつもと違ってどきどきした。
しばらくして、紘海くんがやってきた。
「よ、エリカ」紘海くんとも目が合う。
どきどきしなかった。
人を好きになる、ってどういうことなんだろう。
私も、いつか好きな人ができるのだろうか。
そして、胸の奥で鳴る音は一体なんだろう。
**********
その日の放課後、急に雨が降り出した。
天気予報は曇りで、傘は置いてきてしまった。しかも、委員会活動で帰りが遅くなってしまい、美穂ちゃんはもう帰ったあとだった。
ーー困ったなあ。
昇降口で空を見上げたが、まだまだ雨は止みそうになかった。
仕方がないから走って帰ろうかと思ったとき。
「二ノ宮さん」
後ろから声をかけられて振り返る。同じクラスの室井くんが立っていた。
「傘忘れたの?」室井くんが言った。
私は頷いた。
「よかったら一緒に帰る?同じ方向だよね」そう言って彼は、傘を広げて差し出してくれた。
同じ傘で一緒に帰る。
普通だったらどきどきしてしまうのだろうが、私はどきどきよりも緊張してしまった。
クラスの男の子とはほとんど話したことがない。私と一緒のところを見られてもいいのだろうか。傘を持ってもらっているけれど、迷惑に思っていないだろうか…など余計なことが気になって、ますます話せなくなっていた。
「…俺の家、兄弟多くてさ」室井くんがぽつり、と言った。「同い年だけど、二ノ宮さんが妹みたいに見えて、声をかけたんだ」
「妹がいるの…ですか?」
なんで敬語、と室井くんは笑ったあと答えてくれた。「5人兄弟で一番上に兄貴がいて、俺は二番目。下に2人妹がいて、一番下は弟なんだ」
そして彼は、家のことを話してくれた。
私は、最初の緊張が嘘のように、室井くんと楽しく話ができた。
家に着いたのは夜の7時過ぎだった。いつもなら尚人さんは帰っているのだけれど、その日はまだ帰ってきていなかった。
そして10時になっても、帰ってこなかった。
美穂ちゃんにそう言われた時、私の胸の奥で何かが音を立てた。
好きな人。
私は尚人さんも絋海くんも美穂ちゃんも好きだけれど、そういう意味ではないのだろうか。
家に帰ってひとりでしばらく考えていると、尚人さんが帰ってきた。
私は尚人さんの顔をじっと見た。
「どうした?」尚人さんと目が合う。
私はすぐに目をそらす。いつもと違ってどきどきした。
しばらくして、紘海くんがやってきた。
「よ、エリカ」紘海くんとも目が合う。
どきどきしなかった。
人を好きになる、ってどういうことなんだろう。
私も、いつか好きな人ができるのだろうか。
そして、胸の奥で鳴る音は一体なんだろう。
**********
その日の放課後、急に雨が降り出した。
天気予報は曇りで、傘は置いてきてしまった。しかも、委員会活動で帰りが遅くなってしまい、美穂ちゃんはもう帰ったあとだった。
ーー困ったなあ。
昇降口で空を見上げたが、まだまだ雨は止みそうになかった。
仕方がないから走って帰ろうかと思ったとき。
「二ノ宮さん」
後ろから声をかけられて振り返る。同じクラスの室井くんが立っていた。
「傘忘れたの?」室井くんが言った。
私は頷いた。
「よかったら一緒に帰る?同じ方向だよね」そう言って彼は、傘を広げて差し出してくれた。
同じ傘で一緒に帰る。
普通だったらどきどきしてしまうのだろうが、私はどきどきよりも緊張してしまった。
クラスの男の子とはほとんど話したことがない。私と一緒のところを見られてもいいのだろうか。傘を持ってもらっているけれど、迷惑に思っていないだろうか…など余計なことが気になって、ますます話せなくなっていた。
「…俺の家、兄弟多くてさ」室井くんがぽつり、と言った。「同い年だけど、二ノ宮さんが妹みたいに見えて、声をかけたんだ」
「妹がいるの…ですか?」
なんで敬語、と室井くんは笑ったあと答えてくれた。「5人兄弟で一番上に兄貴がいて、俺は二番目。下に2人妹がいて、一番下は弟なんだ」
そして彼は、家のことを話してくれた。
私は、最初の緊張が嘘のように、室井くんと楽しく話ができた。
家に着いたのは夜の7時過ぎだった。いつもなら尚人さんは帰っているのだけれど、その日はまだ帰ってきていなかった。
そして10時になっても、帰ってこなかった。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
この『異世界転移』は実行できません
霜條
ライト文芸
どこにでもいるサラリーマン、各務堂一司《かがみどうかずあき》。
仕事ばかりの日々から離れる瞬間だけは、元の自分を取り戻すようであった。
半年ぶりに会った友人と飲みに行くと、そいつは怪我をしていた。
話しを聞けば、最近流行りの『異世界転移』に興味があるらしい。
ニュースにもなっている行方不明事件の名だが、そんなことに興味を持つなんて――。
酔って言う話ならよかったのに、本気にしているから俺は友人を止めようとした。
それだけだったはずなんだ。
※転移しない人の話です。
※ファンタジー要素ほぼなし。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
宇宙に恋する夏休み
桜井 うどん
ライト文芸
大人の生活に疲れたみさきは、街の片隅でポストカードを売る奇妙な女の子、日向に出会う。
最初は日向の無邪気さに心のざわめき、居心地の悪さを覚えていたみさきだが、日向のストレートな好意に、いつしか心を開いていく。
二人を繋ぐのは夏の空。
ライト文芸賞に応募しています。
【完結】年収三百万円台のアラサー社畜と総資産三億円以上の仮想通貨「億り人」JKが湾岸タワーマンションで同棲したら
瀬々良木 清
ライト文芸
主人公・宮本剛は、都内で働くごく普通の営業系サラリーマン。いわゆる社畜。
タワーマンションの聖地・豊洲にあるオフィスへ通勤しながらも、自分の給料では絶対に買えない高級マンションたちを見上げながら、夢のない毎日を送っていた。
しかしある日、会社の近所で苦しそうにうずくまる女子高生・常磐理瀬と出会う。理瀬は女子高生ながら仮想通貨への投資で『億り人』となった天才少女だった。
剛の何百倍もの資産を持ち、しかし心はまだ未完成な女子高生である理瀬と、日に日に心が枯れてゆくと感じるアラサー社畜剛が織りなす、ちぐはぐなラブコメディ。
ブエン・ビアッヘ
三坂淳一
ライト文芸
タイトルのブエン・ビアッヘという言葉はスペイン語で『良い旅を!』という決まり文句です。英語なら、ハヴ・ア・ナイス・トリップ、仏語なら、ボン・ヴォアヤージュといった定型的表現です。この物語はアラカンの男とアラフォーの女との奇妙な夫婦偽装の長期旅行を描いています。二人はそれぞれ未婚の男女で、男は女の元上司、女は男の知人の娘という設定にしています。二人はスペインをほぼ一ヶ月にわたり、旅行をしたが、この間、性的な関係は一切無しで、これは読者の期待を裏切っているかも知れない。ただ、恋の芽生えはあり、二人は将来的に結ばれるということを暗示して、物語は終わる。筆者はかつて、スペインを一ヶ月にわたり、旅をした経験があり、この物語は訪れた場所、そこで感じた感興等、可能な限り、忠実に再現したつもりである。長い物語であるが、スペインという国を愛してやまない筆者の思い入れも加味して読破されんことを願う。
スパイスカレー洋燈堂 ~裏路地と兎と錆びた階段~
桜あげは
ライト文芸
入社早々に躓く気弱な新入社員の楓は、偶然訪れた店でおいしいカレーに心を奪われる。
彼女のカレー好きに目をつけた店主のお兄さんに「ここで働かない?」と勧誘され、アルバイトとして働き始めることに。
新たな人との出会いや、新たなカレーとの出会い。
一度挫折した楓は再び立ち上がり、様々なことをゆっくり学んでいく。
錆びた階段の先にあるカレー店で、のんびりスパイスライフ。
第3回ライト文芸大賞奨励賞いただきました。ありがとうございます。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる