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慾求
感性
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恋は女の子を可愛くする。
そんなことをTVのCMで聞いたことがあるけど、本当だったっぽい。
自然と口角は上がるし、普段のメイクも丁寧にやるし、何より気持ちがずっとウッキウキ。
つまらなくて行くのが億劫だった朝会にも遅れずにしっかりと出て真面目に学校生活を送っているとどうしても気分が曇る時間がやってきた。
「佐々木 優愛さん、お嬢様の成績は今のところ第1志望の4年制大学に届く偏差値なのでこれ以上遅刻欠席を増やさないようにしましょう。」
そんなありきたりな事を私のお母さんに伝える春から新しく担任になった先生は私の1年生の時の出席日数を見て注意した。
母「…分かりました。私の方も起床時間と体調管理を見直そうと思います。」
と、お母さんは私が内緒で増やした欠席日数に静かに腹を立て、私の制服から出ている太ももをつねりながら怒りを鎮める。
「このくらいであれば受験には響かないですが、これ以上となると…。優愛さんも、もう少し登校時間を意識して来てくださいね。」
そう圧をかけてくる担任に私は無言で頷き、何の質問にも声で答えず自分の気持ちを全て隠し通した。
母「その人見知り、直さないとね…。」
と、お母さんは長くかかった三者面談で怒りがどこかへ行ったらしく、落ち着いた口ぶりで私と話してくれる。
優愛「友達作り以外に直す方法あるかなー。」
私は春休み中にケイさんが教えてくれた好きな歌を鼻歌で奏でながらお母さんの隣で軽くステップを踏む。
母「んー…。部活動で同級生以外の子と交流するのはどう?」
優愛「やだ。年下きらーい。私よりも頭悪い人無理。」
母「そういう事言わないの。じゃあ…、アルバイトとかは?」
お母さんの口から私の外出時間を伸ばす選択肢が出るとは思わず、驚きで私が軽くつまずいてしまうとたまたますれ違いで通りかかった同じ学校の生徒がとっさに私の肩を掴み、怪我を回避してくれた。
優愛「…ありがとうございます。」
「どーも。」
そう冷たい返事をした男子生徒は1人で校門から学校に入り、私とは一度も目を合わさずに去っていった。
母「…本当にぼーっとしてるわね。アルバイトはやっぱりやめた方がいいかも。」
お母さんは相変わらずコロコロと意見を変えるので私は思いっきり首を振り、社会経験と自分でお金を稼ぐ経験を早めにしたいと押し切ってカラオケのバイトをすることになった。
けれど学校帰りのついでに働くので夜が深まってからしか混まないこのカラオケ店は私にとって都合のいいダイエットジム。
今日も暇な受付で同期の七星ちゃんに店内BGMで流れていたアイドル曲に合わせてがっつりダンスを見せていると背を向けていたガラス張りの出入り口のドアが開いた音がした。
私は火照る顔を隠すためにメイク直ししているフリをしながらお客さんと目を合わせると、男性客5人の中に久しぶりに見た白波さんが今にも笑いそうな顔で私の案内を聞く。
優愛「では、プロジェクタールームの503号室にどうぞ。」
どうしても火照りが抑えきれない私の顔を唇を噛みながら笑いを耐えた白波さんは他の友達に気づかれないように私に手を振り、部屋に向かった。
七星「…ごめん。あの人たちずっとお店の前にあるコンビニでたむろってたから入ってくるとは思ってなかった。」
優愛「いいよ。私も自分で気づかなかったし。それより続き見てよ。」
私はラスサビ始めで強制終了させられた中途半端な気持ちを発散させるようにダンスを踊りきると七星ちゃんはいつものように拍手をしてくれた。
七星「優愛ちゃんはアイドルになれるね。」
優愛「坂系?」
七星「地下。」
そんな黒めな冗談を言っちゃう七星ちゃんに私は久しぶりに友達として心を開いていると、オーダーの電話が鳴り七星ちゃんがとってくれた。
七星「さっきの人たち。優愛ちゃん指名だったんだけど嫌?」
と、七星ちゃんはメニューをパッドに打ち込み、キッチンでながら休憩している店長にドリンクを作らせる。
優愛「大丈夫。1人知り合いいたからなんとかなると思う。」
私は春休みに一度も会わなかった白波さんに会いに5つのアルコールドリンクを持っていくと、部屋に入った瞬間知っている曲が流れた。
「佐々木ちゃん、踊ってー!」
「スタンドマイクもコードレスマイクもあるよ。」
そう煽ってくるお兄さんたちの中にひっそりと私を見ている白波さんは全く止めずに私の次の行動を楽しみしているのか、目だけで笑っていた。
「はいっ、マイク!」
私の手からトレイを奪ったお兄さんはマイクを押し付け、イントロが終わる事を伝えてくる。
それに意を決した私はさっき不完全燃焼で終わってしまった曲を1曲全力で踊って歌いきり、空になったトレイを持って部屋から出ると角を曲がった所で肩を引かれた。
優愛「…なに?」
私は宣言通り“あのこと”を辞めてくれた白波さんに少し冷たく言葉を渡す。
白波「バイト、何時に終わるの?」
優愛「…夜。」
白波「22時?俺もそのくらいにここ出るから少し話さない?」
優愛「何話すの?」
白波「会ってなかった時に思ったこと…、とか。」
なにそれ。
そう会話を続けたかったけれど、片耳につけていた無線からヘルプを呼ぶ七星ちゃんの声が届いた。
優愛「…後で。今はちょっと忙しいから行くね。」
私は足早に白波さんから離れ、いつもより忙しい勤務時間を過ごした。
環流 虹向/愛、焦がれ
そんなことをTVのCMで聞いたことがあるけど、本当だったっぽい。
自然と口角は上がるし、普段のメイクも丁寧にやるし、何より気持ちがずっとウッキウキ。
つまらなくて行くのが億劫だった朝会にも遅れずにしっかりと出て真面目に学校生活を送っているとどうしても気分が曇る時間がやってきた。
「佐々木 優愛さん、お嬢様の成績は今のところ第1志望の4年制大学に届く偏差値なのでこれ以上遅刻欠席を増やさないようにしましょう。」
そんなありきたりな事を私のお母さんに伝える春から新しく担任になった先生は私の1年生の時の出席日数を見て注意した。
母「…分かりました。私の方も起床時間と体調管理を見直そうと思います。」
と、お母さんは私が内緒で増やした欠席日数に静かに腹を立て、私の制服から出ている太ももをつねりながら怒りを鎮める。
「このくらいであれば受験には響かないですが、これ以上となると…。優愛さんも、もう少し登校時間を意識して来てくださいね。」
そう圧をかけてくる担任に私は無言で頷き、何の質問にも声で答えず自分の気持ちを全て隠し通した。
母「その人見知り、直さないとね…。」
と、お母さんは長くかかった三者面談で怒りがどこかへ行ったらしく、落ち着いた口ぶりで私と話してくれる。
優愛「友達作り以外に直す方法あるかなー。」
私は春休み中にケイさんが教えてくれた好きな歌を鼻歌で奏でながらお母さんの隣で軽くステップを踏む。
母「んー…。部活動で同級生以外の子と交流するのはどう?」
優愛「やだ。年下きらーい。私よりも頭悪い人無理。」
母「そういう事言わないの。じゃあ…、アルバイトとかは?」
お母さんの口から私の外出時間を伸ばす選択肢が出るとは思わず、驚きで私が軽くつまずいてしまうとたまたますれ違いで通りかかった同じ学校の生徒がとっさに私の肩を掴み、怪我を回避してくれた。
優愛「…ありがとうございます。」
「どーも。」
そう冷たい返事をした男子生徒は1人で校門から学校に入り、私とは一度も目を合わさずに去っていった。
母「…本当にぼーっとしてるわね。アルバイトはやっぱりやめた方がいいかも。」
お母さんは相変わらずコロコロと意見を変えるので私は思いっきり首を振り、社会経験と自分でお金を稼ぐ経験を早めにしたいと押し切ってカラオケのバイトをすることになった。
けれど学校帰りのついでに働くので夜が深まってからしか混まないこのカラオケ店は私にとって都合のいいダイエットジム。
今日も暇な受付で同期の七星ちゃんに店内BGMで流れていたアイドル曲に合わせてがっつりダンスを見せていると背を向けていたガラス張りの出入り口のドアが開いた音がした。
私は火照る顔を隠すためにメイク直ししているフリをしながらお客さんと目を合わせると、男性客5人の中に久しぶりに見た白波さんが今にも笑いそうな顔で私の案内を聞く。
優愛「では、プロジェクタールームの503号室にどうぞ。」
どうしても火照りが抑えきれない私の顔を唇を噛みながら笑いを耐えた白波さんは他の友達に気づかれないように私に手を振り、部屋に向かった。
七星「…ごめん。あの人たちずっとお店の前にあるコンビニでたむろってたから入ってくるとは思ってなかった。」
優愛「いいよ。私も自分で気づかなかったし。それより続き見てよ。」
私はラスサビ始めで強制終了させられた中途半端な気持ちを発散させるようにダンスを踊りきると七星ちゃんはいつものように拍手をしてくれた。
七星「優愛ちゃんはアイドルになれるね。」
優愛「坂系?」
七星「地下。」
そんな黒めな冗談を言っちゃう七星ちゃんに私は久しぶりに友達として心を開いていると、オーダーの電話が鳴り七星ちゃんがとってくれた。
七星「さっきの人たち。優愛ちゃん指名だったんだけど嫌?」
と、七星ちゃんはメニューをパッドに打ち込み、キッチンでながら休憩している店長にドリンクを作らせる。
優愛「大丈夫。1人知り合いいたからなんとかなると思う。」
私は春休みに一度も会わなかった白波さんに会いに5つのアルコールドリンクを持っていくと、部屋に入った瞬間知っている曲が流れた。
「佐々木ちゃん、踊ってー!」
「スタンドマイクもコードレスマイクもあるよ。」
そう煽ってくるお兄さんたちの中にひっそりと私を見ている白波さんは全く止めずに私の次の行動を楽しみしているのか、目だけで笑っていた。
「はいっ、マイク!」
私の手からトレイを奪ったお兄さんはマイクを押し付け、イントロが終わる事を伝えてくる。
それに意を決した私はさっき不完全燃焼で終わってしまった曲を1曲全力で踊って歌いきり、空になったトレイを持って部屋から出ると角を曲がった所で肩を引かれた。
優愛「…なに?」
私は宣言通り“あのこと”を辞めてくれた白波さんに少し冷たく言葉を渡す。
白波「バイト、何時に終わるの?」
優愛「…夜。」
白波「22時?俺もそのくらいにここ出るから少し話さない?」
優愛「何話すの?」
白波「会ってなかった時に思ったこと…、とか。」
なにそれ。
そう会話を続けたかったけれど、片耳につけていた無線からヘルプを呼ぶ七星ちゃんの声が届いた。
優愛「…後で。今はちょっと忙しいから行くね。」
私は足早に白波さんから離れ、いつもより忙しい勤務時間を過ごした。
環流 虹向/愛、焦がれ
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