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愛煩

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何度会っただろうか。

単調だけれど積み重なったメッセージは私たちがいつも行くホテルまでの距離分はあるんじゃないだろうか。

何度も変わる顔ぶれ。

コンビニスタッフはいつ来ても少しだるそうにして私たちが買ったハイボール缶2つとピスタチオを袋に入れるとおまけにお手拭きを入れてくれた。

何も変わらない外観。

レンガ調の古めかしいホテルはどのくらいの人たちの出会いを見てきたんだろうと小さな小窓から小粒の人間たちを見てるとバスルームが開く音が聞こえた。

「寒くない?」

バスローブ姿の彼は寒がりで春風が心地よいこの夜に肩をすくませて一緒に覗く。

「意外と暖かいよ。」

私は夜に手を伸ばして春を掴むように指先に風を滑らせると彼ははだけた私の胸元に手を滑らせてきた。

お風呂上がりだというのに冬を思い出す冷たくて大きな手が私の汗ばんだ肌に当たると、体温を吸い取るように優しく撫で始めた。

「ねえ。」

名前を呼んでくれない彼はまた私をそう呼んだ。

「ん?」

私は夜に夢中なフリをして伸ばしていた手をサッシに置き、そのまま出会いが始まりそうな男女を見つめる。

「そろそろさ…。」

ホテルに来て、お風呂で温まって、私で温まって。

お互い明日も仕事があるっていうのにわざわざ宿泊までして、一緒にいる意味って何?

自問自答して私の答えは出たけど貴方は?

「わた…」

自分から終わりを始めようとした。

けど、彼はそれを口で食べてなかったことにした。

またダメだった。

会っていた当初から言うか言わないかを悩んでいてやっと言葉に出す気持ちが固まったのに。

それ以上に彼は私を求めているような温かな仕草を見せてくるからもういいかなとも思ってしまうんだ。

日が昇る頃、彼はスーツを変えに空っぽの電車へ向かう。

私はそれをまた止められない。

「またメッセージ送るね。」

いつもの決まり文句。

それをいつも聞くのが嫌だった。

だけど、それを言ってくれるならまだ会ってくれるということ。

だから

「うん。」

そう言うしかない。

お互いの名前は呼ばない。

仕事先なんか知らない。

知らないことが多い方が彼がいない日常に彼を必要と感じないから。

だけど、私の家の数軒前にあるコインランドリーの乾いた柔軟剤の香りがいつも貴方を思い起こしてしまう。

だからいつも家に帰ると寂しくなる。

私は扉を閉め始めた彼に聞こえないようにぽつりと愛を零す。

まだ会いたいから愛は伝えない。

だけど身体に溢れかえっている愛は最後まで彼を捉えていた瞳から溢れ、手を添えているだけの動くドアノブに落ちた。

環流 虹向/愛しているという言葉さえ、煩わしい
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