一なつの恋

環流 虹向

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音己ねぇと触り合いっこした男が気になりすぎて俺は渡辺のショートムービーを流す映画会の準備に全く集中出来ない。

しかもなんでか夏はいるし、今日は散々な日らしい。

俺は自分の嫌なところを隠すように、渡辺のファンと言っていた海斗や暇だった奏、夢衣と天に会いに来てくれた明と将たちの中心でなるべく過ごしていくことにした。

俺たちはVHSを持ってる渡辺、家主の瑠愛くん、その妻の悠を待ってると、インターフォンが鳴り出ると渡辺が先にやってきた。

渡辺は思ってた人数よりも多い事に控えめに驚きながら、海斗と夢衣へのファンサービスをして俺の隣にやってきた。

渡辺「…あの人。あいつが呼んだ恩人いる。」

と、渡辺は天とずっと話している夏を見つけて少し驚いた顔をしながら、カバンに入れてたお菓子をテーブルに広げ始めた。

一「らしいな。あいつ、俺と同じ学校行ってる。」

渡辺「だから2人とも絵描いてるのか。」

渡辺は俺と夏の繋がりを聞いて納得した表情をすると、俺の隣に座り直した。

天「お茶。」

と、真顔の天はテーブルを挟んだ向こう側から手を伸ばし、渡辺にお茶を渡した。

渡辺「…ありがとう。」

渡辺は少し気まずそうにしながら天の手からお茶を貰い、喉を潤す。

一「天に衣装頼んだんだろ?もっと仲深めてたりしないのか?」

渡辺「…俺のこと嫌いじゃん。」

一「それはお前の責任だろ。自分の人生で起こったことは全部自己責任。」

渡辺「分かったって…。ちょっと話してみる。」

そう言って渡辺は天と夏の間に入り、会話に入り始めた。

俺はその様子を横目で見ながら過ごしていると、渡辺と天の自然な笑顔がその場には溢れていて、やっぱり夏はすごい奴だなと思っているとスーツ姿の瑠愛くんとこの間より荷物が多い悠が帰ってきた。

瑠愛「勢揃いだねー!今日は夜明けまでシネマパーティーするぞー!」

と、瑠愛くんはいつも通りはしゃいで笑顔をふりまく。

その隣にいた悠は気にすることなく、いつのまにか買ってきていたケーキ箱を冷蔵庫から取り出し、まだ口に入れていないのにとろけた顔をしながらカットし始めた。

俺たちは瑠愛くんが買ってきてくれたというケーキを食べながら当時5歳の渡辺と中学生の瑠愛くんが作ったショートムービーを見る。

そのショートムービーは一見ただのホームビデオのような物にも見えたけれど、それは渡辺の演技力ということが分かった。

そのショートムービーの内容は、風船やボトルメッセージ、タイムカプセルに主役の“琥太”が未来の自分に向けて手紙を何度も送るも、将来の自分から帰ってくる手紙は今の夢を諦めて違う道に進んでいるというなんとも夢殺しな内容。

この間、自分の親が夢を諦めさせるためにこのショートムービーを撮ったと言っていたけれど、本当に渡辺の夢を終わらせるために撮ったことが分かった。

それを見ていた渡辺のファンと今ファンになった奏たちは涙を流してこの作品に心を浸らせる。

俺は涙は出なかったけど、この“琥太”の気持ちは自分が幼い頃たくさん親に似たような事をされてきたから分かる。

けど、未来の自分にまで今の夢を否定されたらたまったもんじゃないよなと、俺は天と夏の隣にいる渡辺を見ると2人に抱きつかれていて、その中心にいる渡辺は天の頭に顔を埋めるようにして涙を隠していた。

こんなのを5歳児の時に撮ったけど、その後にちゃんと俳優の仕事を貰えた渡辺は当時選ばれた奴にはなれたんだ。

だから大丈夫。

容姿端麗、多種な特技なんかなくても芝居だけで人気になった俳優もTVで見るんだ。

今はただ芽摘みされた人が目立っているだけで、これからちゃんと育てれば瑠愛くんが言ってた通り綺麗な花は咲くし、朽ちる時も儚げに花びらを散らしてみんなを魅了してしまうんだろう。

俺はまだ蕾で花開いてない渡辺を知れてよかったなと思っていると、エンドロールが流れ始めた。

関わった人たちの名前がゆっくり下から上を流れていく中、その人たちのオフショット映像が写っていてその中に中学男児の脚の上に“琥太”が紙パックのココアを満面の笑みで飲んでいるオフショット映った。

悠「…瑠愛くん?」

瑠愛「うん。俺、今より顔立ち綺麗でしょ。」

と、みんなの中心にあるソファーのど真ん中に座っている2人は若くて楽しげにしていても少し疲れてるような顔つきの中学生の信二を見て、何を思ったのか愛情深いキスをし始めた。

俺たちはその夫婦を見ない聞かない口出さないでいると、あっという間にそのショートムービーは終わりみんなで余韻に浸る。

こうやっていいものを見た後は余韻に浸りたいけど、映画館では出来ないよなとふと思い出していると俺の横にいた奏が俺の肩に頭を置いてきた。

一「俺、枕じゃないけど。」

奏「ずっと一緒に絵描こって言われたの嬉しかったな。」

と、奏はこの間の事を話してくれる。

奏「俺、ちょっと待つから一緒に飛ばない…?」

一「…飛ぶ?」

奏「うん。俺と飛ぼうよ。俺の候補はマルタ。」

一「俺はアルザス行ってみたい。」

こうやって俺の何も見えない将来に灯をつけてくれるのはいつも奏で、俺は途絶えた線路をまた作れば始めればいいだけ。

こうやって素直に一緒に来てほしいと言われるのが嬉しくて、ショートムービーを見ても出なかった涙が今出てしまう。

俺はみんなにバレないように急いで拭いたけど隣にいる奏にはバレていて、それを見た奏も嬉しそうに目を潤ませちゃうから好きなんだよな。

俺は近い未来の目標を奏と一緒に果たすために、仕事もやりたい絵もしっかり手を抜かずに頑張ろうと思えた。

余韻に浸りきった俺たちはまた別の映画を見始めて、日が暮れても画面に映る世界に夢中になって過ごした。



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