一なつの恋

環流 虹向

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俺は夢衣と決断し、最速で瑠愛くんの家を出るために2人でまた動画を撮って金を稼ぐことにした。

けど、夢衣は俺を“ひーくん”と呼ぶことなく、ずっと“一”と呼ぶ。

それが俺と夢衣の距離感な気がして少し寂しくなってしまったけど、今は夢衣の体温を少し分けてもらえるから大丈夫。

俺たちは瑠愛くんたちが寝静まってる中、数本分の動画を撮り終えて少し寝ることにした。

夢衣「…お水飲みたーい。」

一「口から?」

夢衣「ちゅーはもうだめ。」

と、夢衣は唇を尖らせて仕草と真逆のことを言う。

一「分かったよ。今持ってくる。」

俺は自分で空にしてしまったグラスを持って水を取りに行くと、この時間は爆睡しているはずの天が起きていた。

一「聞こえてた…?」

俺は背中に汗をかきながら天に聞く。

けれど、天は頭を揺らしながらオムレツを1人分作り始めた。

一「…天?」

天「もーにぃむぅーっ。」

と、天はリズミカルに言葉を発し始めた。

俺は何がなんだか分からなくて困惑してると、天が少し汚れた手を洗いに1歩俺の近くに来た途端、顔を上げて叫んだ。

天「…っくりしたぁぁあああ!いるなら言ってよ!」

そう言いながら天は耳から黒豆みたいなワイヤレスイヤフォンを取り出した。

一「言ってた。天が全く気づかなかっただけ。」

俺は全く雑音が届いてなかったことに安心してグラスに水を注ぐ。

天「あーあ。心臓に悪ぅっ。」

一「そのイヤフォン買ったんだ?」

俺はまだ足りなかった水分を補給しながら気になったことを質問する。

天「ううん。貰った。」

一「瑠愛くん?」

天「渡辺。」

意外な人物に驚き、俺は口につけてた水をこぼす。

一「…え?なんで?」

天「衣装作ってほしいって頼まれたから逃げないように前払いしてもらった。」

一「賢いな。聞き心地どう?」

天「いい感じ!私が思ってたやつよりいいのくれた。」

そう言った天の手の平にあるイヤフォンのロゴを見ると、明が欲しいと言っていた万単位のワイヤレスイヤフォンだった。

一「え?あいつ中学生だろ?」

天「瑠愛さんと折半だって。私は3000円くらいの見せたはずなのに、これ買ってくれたってことはすごい気合い入ってんだと思うんだ。」

と、天は嬉しそうな顔をする。

天「ひぃ兄に私は応援してもらったから、次は私が応援する番!嫌いだけど、ちゃんと目標に向かってる人は好きだから私も頑張るんだ。」

一「なるほどな。俺にも手伝えそうなことあったら言って。」

天「とりあえず、私の部屋もある家に引っ越して!」

一「は?なんで住む気満々なの?」

天「環境が人を育てるって瑠愛さん言ってたから!自分の周りにいる5人が自分の平均なんだってー。」

一「へー。俺の場合、奏たち?」

天「あと、音己ねぇとかかな。」

一「ああ、そうだな。」

あ、そういえば天に音己ねぇと付き合ってること言ってないや。

一「俺、音己ねぇと付き合ってる。」

天「えっ!?」

「え!?」

と、俺たちの背後で驚く声が聞こえた方を見ると、少し服が乱れている夢衣が扉口で顔を出していた。

夢衣「ねねちゃんと付き合ってるの?」

一「…あ、うん。」

天「うわぁ!幼馴染で付き合うの憧れ!」

夢衣「…いいな。」

そう言って夢衣は部屋に静かに戻ってしまった。

天「私も羨ましいぃ。幼馴染いなくなったもん。」

一「そ、そうだな。」

俺は夢衣の悲しそうな顔を見てしまい、天との会話を急いで切り上げて夢衣がいる俺の部屋に戻った。

一「…黙っててごめん。」

『色々あって』と続けたかったけど、その色々は誰彼構わず言えることじゃないから口に出せない。

夢衣「おめでと。やっぱり好き同士じゃん。」

夢衣は布団に潜り、喉が乾いてるはずなのにそのまま寝ようとしてしまう。

夢衣「…私も、来虎の事好きだから頑張るね。」

その言葉が俺たちの関係を本当に終わらせる気がして、俺は今日行く最後のデートさえ夢衣を楽しませられないのかもしれないと思うと自分が嫌になる。

一「…来虎さんの好きなとこ、たくさん教えて。」

俺は夢衣側にあるベッド脇のテーブルに満杯の水を置き、子守唄のような夢衣の声から放たれる風船のようにどこかに飛んでいってしまう軽い好きを聞き、2人して抱き合いながら一緒に眠りについた。




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