一なつの恋

環流 虹向

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「一!たい焼きあるよ!あんこと芋にしよ!」

と、これで7軒目の腹持ちがいいお菓子を食べようとする音己ねぇに手を引かれて、食べたいと言われた2種類の味を買い半分こして食べる。

一「俺、しょっぱいの食いたいよ。」

音己「みたらし団子?」

一「いや…、あそこにあるうなぎとか。」

音己「いいね。うなぎ食うか。」

そう言って俺がなんとなく指したうなぎ屋に躊躇なく向かう音己ねぇの体が不思議でしょうがない。

一「そんなに食って太んないの不思議。」

音己「これでも鍛えてるから。筋肉でへこませてる。」

そんなの出来るわけねぇだろと思いつつ、歩き疲れた足を休めるために店に入り、うな重1つと1品料理数品を分け合って食べることにした。

音己「ここは何食っても美味いな。」

そう言ってうなぎより先に頼んだ白玉ぜんざいを美味そうに音己ねぇ。

俺は自分の手に届く範囲の金で買える食い物だけで、こんなに幸せそうにする音己ねぇが今まで出会ってきた女の中でやっぱり好きと思ってしまう。

一「音己ねぇは俺とのデート以外にどこ行った?」

俺はなるべく他の元彼とデート場所を被らせたくないから先に聞いとくことにした。

音己「…どこも行ってないけど。」

一「え?家デート?」

それはそれで嫉妬するけど、元彼が羨ましいと思ってしまう。

音己「デートしたことない…。」

一「え?」

音己「彼氏、一が初めてだよ。」

一「…えぇっ!?」

俺はその事実に驚き、落ち着いた店内で盛大に叫んでしまって思わず顔を伏せる。

一「…俺、初彼はつかれ?」

俺は伏せたまま、音己ねぇを見上げるように聞く。

音己「そうだよ。一途って言ったじゃん。」

音己ねぇはすごい恥ずかしそうに顔を赤らめて俺から目を逸らした。

一「…なんでもっと早く言ってくれないの?」

音己「だって誰かといつも付き合ってるし、遊んでるもん。」

一「教えてくれたら遊ぶのも、好きじゃない奴と付き合うの辞めたよ?」

音己「…言えないよ。会えなくなるの嫌だもん。」

そう話してくれた音己ねぇの前に頼んだ品物が届き、俺の前にうな重が置かれる。

一「俺も音己ねぇと会えなくなるのも話せなくなるのも嫌だった。」

俺は貰った取り皿に自分の分のうなぎを盛り、おぼんごと音己ねぇにうな重をあげる。

音己「…別れても会ってくれる?」

と、音己ねぇは目を潤ませて俺の目を見て聞いてきた。

一「別れる気ないし、音己ねぇともっといろんなとこ行きたいもん。」

音己「そっ…、か。」

音己ねぇは今日見た中で1番嬉しそうな顔をして俺に笑顔を見せてくれた。

けど、目は少し寂しそうにしていて俺の言葉を全て信じてはくれてないみたいだ。

…まあ、そうだよな。

姐さんのことを知ってて『別れる気ない』って言っても信じないのが当然だろう。

けど、俺の彼女ならちゃんと幸せにしたいって思うから、俺は音己ねぇが幸せと思えることをしていこうと思うよ。

一「玉子食っていい?」

俺は音己ねぇの前に置かれただし巻き玉子を指す。

音己「うん。食って太れっ。」

そう言って音己ねぇはだし巻き玉子が川の字に並んだ皿を俺に差し出してきた。

一「太るから音己ねぇが食わせてよ。」

音己「ずっと奢ってるじゃん。」

一「そういうことじゃない。」

俺は自分の口を指して空気を口に含み噛み砕く。

音己「…無理。恥ずかしい。」

一「夢衣はやってたけど?」

音己「それでもここは無理。」

一「家ならいいの?」

音己「え…。」

一「俺、自分で食うより食わせてもらう方が好き。」

音己「がちもんのヒモじゃん…。」

一「俺、ちゃんと働いてるからギリ麻のヒモだと思う。」

俺は口直しのうなぎを食べながら音己ねぇが前に言っていたシルクになるための1歩を踏み出したことを伝える。

音己「え?この間、仕事のない絵描きって…」

一「絵の仕事じゃないけどしてるよ。学費と引越し費用貯めて瑠愛くんの家から出る為にしてるよ。」

そうだったんだ、と音己ねぇは驚いて何も喉に通らない様子。

一「瑠愛くんのとこ、給料いいから学費は払えるし引越しも冬前には出来ると思うんだ。それが落ち着いたら旅行に行こうよ。」

音己「でも…」

一「姐さんのことは気にしなくていいよ。姐さんは姐さん、音己ねぇは音己ねぇで俺は大切に思ってるから楽しそうにしてるとこいっぱい見たいんだ。」

そう言うと音己ねぇの涙が溢れて頬に流れてしまうのを俺は手で拭き取る。

一「音己ねぇは人のことばっかり考えすぎで心配だよ。そういう音己ねぇも好きだけど、俺と一緒にいて楽しそうにしてる音己ねぇはもっと好き。」

音己「…ちょっと、恥ずかしいって。」

一「ずっと言えなかったから俺の中でたくさん音己ねぇの好きが溜まってるんだ。だからこのくらい言わせてよ。」

音己「言うのはいいけど…、2人だけの時にして…。」

相当恥ずかしいらしく、顔も耳も首も真っ赤にして目を瞑る音己ねぇ。

一「俺の前で目瞑ったら何するか分からないよ?ちゃんと見てないと変なことするかも。」

そう言うと音己ねぇは潤んだ目を開けてくれて、俺を見てくれる。

一「変なことされたくなかったらちゃんと目開けてて。」

音己「…分かった。」

音己ねぇは熱を引かせるためにメニュー表で顔を仰ぎ、俺はクーラー直当たりして少し冷えてしまった飯を食べ進めまた音己ねぇとデートを楽しんだ。





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