一なつの恋

環流 虹向

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昼休憩後に再開する愛海の大会が開催されている浜辺に集まったクラスメイトたちで愛海を応援する。

愛海はいつも通りやれば今度はオーストラリアの海に行けると、いつも通り自信満々な態度で父親と最後の調整と言って控え室に向かった。

奏「すごいなぁ。J ORICONNの提出も終えて今はサーフィンの大会って。」

一「俺と同じ時間を過ごしてる人間とは思えない。」

明「だねぇ…。突き進んでる感じ尊敬する。」

将「そんでもってファンがえぐいな。」

海斗「惚れる要素はたくさんあるからな。」

と、俺たちは愛海と愛海の父親の後ろをついていく女たちを眺めながら体を冷やすためにアイスクリームを食べ進める。

明「愛海って彼女いなんだっけ?」

一「デートはたくさんしてるけど、この人が恋人って人は聞いてないな。」

将「俺も選べる男になろう。」

奏「選ばれるのも大切だけどね。」

と、4人で一斉に海斗に目線がいくけれど、海斗はお構いなしに愛子ちゃんと2つのアイスを分け合いっこしている。

明「愛子ちゃん、今日も可愛い。RURU×TSUTYのリボンワンピ姿、あとで写真撮っていい?」

愛子「うん!後で一緒に写真撮ろう。」

愛子ちゃんは今この時の幸せを味わうように俺たちに笑顔を向けてくれる。

その笑顔が見れて海斗も嬉しそうだ。

昨日の悩みは時間が解決してくれる。
だからもう何も心配いらないな。

俺は2人の七夕物語のエンドロールを感じて心踊っていると、関係者以外立ち入り禁止で入れなかった海の向こうにある防波堤に麦わら帽子を被った1人の女がいる事に気がつく。

その人の視線の先は愛海が入って行った控え室があるように感じた俺は愛海の知り合いだと勝手に確信し、みんなに内緒で話しかけに行ってみることにした。

俺は近づくその女の雰囲気を眺めていると、愛海のファンとは思えないくらい落ち着きがあってどこかの雑誌から飛び出してきたんじゃないかと思うほど顔立ちが整い、細身のスタイルが際立つ真っ白なジャンプスーツを着ていた。

一「こんにちはー。華原 愛海の友達の日向 一って言います。」

俺はセキュリティ体制ガバガバの立て看板1つしかない道を通り抜けて、俺の自己紹介に驚く女に近づく。

一「暑くないですか?愛海から貰ったジンジャーエールあるんですけど飲みます?」

俺は来る途中に買った瓶のジンジャーエールを見せると、女は声も出さずに頷き俺が側に寄るのを許可してくれた。

俺は無口な女の分を瓶の蓋同士で開けて、自分の分を歯で開けて乾杯する。

一「愛海の応援しにきたんですか?」

「…はい。」

と、女はなんでか小さい声で喋る。

あんまりファンだということを公言したくないタイプなのか?

「私のこと、知ってます?」

突然、女は自分のことを聞いてきた。

今さっき見かけたばっかで何も知らないけど、さっき愛海の周りにいたファンたちとは別次元な人というのは確かだ。

一「すみません。愛海から名前聞き忘れました。」

そう言うと女は俺の前で初めて笑ってくれた。

別に笑わせようと思って発言したわけじゃないけど、少し心を開いてくれた様子で安心する。

美未みみって言います。愛海の…。」

と、美未さんが愛海との関係性を言おうとすると何故か口ごもってしまった。

俺はその場の状況を考えて自分の中で1番腑に落ちる答えを言ってみる。

一「彼女?」

美未「…そんな感じです。」

美未さんは少し視線を下に移してその言葉の違和感を海を見て洗い流そうとする。

たくさんの人とデートしてるとは聞いてたけど、こんなモデルみたいな人と付き合ってたなんてやるなぁと思っていると美未さんが向こうの浜辺に小さく手を振った。

俺はその先を見ると控え室のある施設の屋上で愛海が体いっぱい使ってこちらに手を振っている事に気付く。

一「仲良いですね。後でデートしたりするんですか?」

美未「いえ…。忙しいので。」

一「え?愛海は大会後、BBQするって暇人の極みみたいなこと言ってましたよ?」

俺がそう言うと美未さんは何か言いたげな顔をしながら笑顔を作った。

一「一緒に食べ…」

俺が美未さんを誘おうとすると愛海から電話がかかってきた。

愛海『なんで一がそこにいるんだ?』

一「あんな遠くても見えるんだ。」

俺は愛海のことをマリンスーツと雰囲気でしか把握していなかったから驚いた。

愛海『まあ視力2.5あるから。で、なんでそこにいるんだ?』

一「ん?愛海のファンと交流しようと思って。」

愛海『ファン…、ってか…』

一「まあ、美未さんは彼女って言ってたけど?」

愛海『え!?ちょ、ちょっと美未に変わって。』

愛海が珍しく焦った様子だったので俺は美未さんに携帯を渡し、愛海と話してもらうことにした。

愛海は何か長々と話しているけれど、美未さんは相槌と『うん。』しか言わない。

これで会話が成り立つってすごいなと思っていると美未さんに携帯を返される。

美未「ありがとう。」

そう言って美未さんは恋愛映画のラストシーンで流すような静かな涙を一粒、目頭から流した。

一「…はい。」

俺はその顔に驚きながら携帯を受け取り、自分の耳に電話を当てると鼻をすする音が聞こえる。

一「…愛海?」

愛海『ん…。あ、ありがとう。』

顔の汗を拭いているのか愛海の声が少し歪む。

愛海『俺、最高のパフォーマンスするからそこで見てて。』

一「…でも、ここだと波で見えなくない?」

愛海『そこにいてほしいんだ。俺が世界に行くために。』

その言葉はいつもふざけている愛海の声とは思えないほど、真剣でまっすぐに俺の心に伝わってくる。

一「分かった。美未さんと一緒にここで応援してる。」

愛海『…おう!やってくる!』

じゃあな!と元気よく電話が切られ、俺は携帯をポケットにしまい美未さんを見ると、美未さんは声を出さずに涙を溢れさせていた。

一「美未さ…」

俺が美未さんに声をかけようとすると、美未さんは何もしなくていいと首を振ってそのまま言葉を交わさずに愛海の出番が来た。

豆粒みたいなみんなが愛海に声援を送っているのが微かに聞こえ、愛海がそれを答えるようにみんなに手を振り海に向かう。

俺は隣にいる美未さんを横目でそっと見ると自分の両手を組み、目をしっかりと開いて少しでも愛海を見失わないようにこの海風に対しては少ない瞬きをして見つめ続けていた。

その目線の先にいる愛海は海に出て波のタイミングを見計らっているのか、一直線上に見える俺たちの真横を横切る波を真剣な表情で見つめる。

美未「愛海。」

と、絶対届きっこない愛海の耳に届けようと少しこもったシロフォンみたいな声で美未さんは俺が聞いた中で1番大きく音を発して愛海を呼ぶと、愛海は答えるように手を上げて微笑んだ。

…だから、ここにいてほしかったのか。

みんながいる砂浜は愛海にとっては背中を押す声援でしかなくて、1番応援していてほしい美未さんの口元や仕草を見るためにわざとこの防波堤にいさせたんだ。

俺は愛海の愛しい人に向ける笑顔を見て、夏風が新緑を煽るような強い風が脳内に舞った気がした。

その瞬間、愛海は波に乗り俺たちの方へ少しでも近づくようにボードを走らせる。

海の壁で愛海のパフォーマンスは白波越しにしか分からなかったけれど、時たま出てくる愛海の顔は美未さんを毎回捉えて離さなかった。

視線を合わすだけで会話出来ている2人を見て俺は胸を打たれていると、あっという間に愛海のパフォーマンスは終わってしまった。

一「…すごい。」

俺は愛海のパフォーマンスも2人の想いにも感激していると、美未さんは声を出して笑う。

その笑い声は奏と音己ねぇが大好きなマドレーヌを跳ねるような可愛いらしい声で若干好きになりかける。

美未「…じゃあ、私行かないと。」

そう言って美未さんはどこへでも行けてしまう道路がある道に向かってゆっくり歩き始めてしまう。

一「愛海に会いに行くんですか?」

美未「ううん。」

え?なんでだよ。
結果発表もまだだし、愛海も美未さんに会いたいだろ?

俺は美未さんの背中に駆け寄ろうとすると、美未さんの行く道に自転車を投げ捨ててその前に立ちはだかる夏がいた。

夏「美未さん!愛海、こっち来るから待っててほしいです!」

と、俺が20分かけて歩いてきた道を全力疾走したからか自転車でも息切れをしてる夏。

美未「…でも、約束だから。」

夏「事務所かなんだか分からないけど、2人のことは2人が決めるべきです。他人の言うことなんか無視してください!」

夏は何か事情を知っているのか美未さんにここに留まるように説得している。

一「とりあえず、俺たちとBBQしにいきましょ?」

俺は悩み込んでいる美未さんに側に寄り、片手に持っている飲み切った瓶を受け取って愛海がBBQを開くと言っていた店の方向を指す。

夏「行きましょう?…愛海にいい隠れ場所教えてもらったんです。」

夏は確実に愛海に会わせるためにそう言い、俯いている美未さんの顔を覗き込む。

美未「…マスク。髪ゴム。カーディガン。」

一「え?」

美未さんの突然発したリストに驚いていると、夏はリュックから愛海から預かったというビーチボールくらいの巾着袋渡した。

俺はそれを受け取った美未さんの手元を覗くと美未さんが言ったものやサングラス、日焼け止め、汗拭きシートと夏の神器が揃っていた。

夏「俺が美未さんの顔、誰にも見られないように自転車で送るので。ちゃんと愛海と会ってあげてください。」

美未「…うん。」

美未さんは涙をこらえながら準備して夏がまたがる自転車の後ろに乗った。

一「…夏!」

俺は朝のことを思い出し、一漕ぎして勢いをつけた夏に声をかける。

一「夜、江ノ島大橋待ち合わせ!」

そう言うと夏は驚いた様子で一瞬足元を狂わせるが、そのまま漕ぎ進めてしまう。

一「話がある!」

夏「…分かった。行く。」

なぜか夏はためらいながら俺と会うことを約束してくれた。

その少しの間に違和感を感じながらも、2人が去っていった道を1人で帰りみんなと合流してBBQの準備をしに行った。





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