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俺は朝早くに天を将の家に送り、次来るロマンスカーを待ちながら姐さんに電話をかけてみる。
前みたいに仕事が長引いて今から眠るかもしれないし、この間みたいに気まぐれで電話に出てくれるかもしれないから、その僅かな希望を座ったベンチに置いてあった空き缶の神さまに願いながらコールボタンを押す。
けれどすぐには出てくれないのは分かりきっているから、俺は空き缶をゴミ箱に優しく捨てて一善をしていると電話が繋がった。
一「姐さん、お疲れ様。」
さき『…ぅん。』
…ん?声遠い?
俺は耳を澄ませて姐さんを何度か呼ぶけれど、なんでか答えてくれない。
すると、布団が擦るような音がしてマイクに姐さんが近づいた音がすると寝息のようなものが聞こえ始める。
どうやら姐さんは寝ぼけて電話を出たらしい。
こんな偶然もあるんだなと思い、俺は伝えたかったことを眠り続ける姐さんに伝える。
一「姐さん、これから海に行って女と遊んでくるよ。もしかしたら彼女になるかもしれないからその時は姐さんに会いに行くね。」
俺は姐さんを起こさないように耳元で囁やくように言葉を発すると、急に寝息が途絶えた。
さき『…いってらっしゃい。』
一「え!?姐さ…」
俺が話しかけようとすると姐さんは電話を切ってしまった。
…起きているのを知ってたらこんなストレートに言わなかったのに。
俺は姐さんの名演技に騙されたことを反省しながらロマンスカーに乗って江ノ電に乗り継ぎ、永海と待ち合わせしていた由比ヶ浜駅に到着する。
すると6本見送った後に永海がやってきた。
永海「ごめん!フウカの電話付き合ってたら電車乗り遅れた!」
一「永海っていつも遅れるよな。」
永海「ごめん。飲み物奢るね。」
一「牛乳な。」
俺たちは近くのコンビニで飲み物を買って大会会場から少し離れた砂浜に行く。
多分、会場近くだとクラスの奴やもしかしたら夏が朝早くから愛海の応援に来てしまってるかもしれない。
その危険性も兼ねて俺は会場から離れた由比ヶ浜にしておいた。
永海は浜辺に着くと薄ピンクで桃のような丸い布生地のレジャーシートを敷いた。
永海「これは私のだから一はこれね。」
と、永海は自分だけそのレジャーシートに座り、カバンに入れていた大きめのハンカチを俺に渡す。
一「は?なんでこんなデカイのにダメなの?」
永海「一はダメですぅー。」
永海は昨日とは打って変わって自然な笑顔を見せるけれど、無理してないか心配になってしまう。
一「あっそ。波うるさいからもっと近く来て。」
永海「じゃあここ折るから側に来て。」
そう言って永海はレジャーシートを巻き折り、パーソナルスーペースを俺のために狭めてくれる。
俺はそのギリギリにハンカチを敷いて永海の隣に座り、奢ってもらった牛乳で喉を潤す。
一「夏の彼女って誰だと思ってんの?」
俺は昨日の続きになってしまった話をすぐさま振ってみることにした。
今日は昨日の夜のように時間が有り余ってるわけじゃないから、気持ちの整理の時間も兼ねてさっさと話してしまった方がいい。
永海「…悠。」
と、仲が良くていつも一緒にいる悠の名前を出してきた。
一「夏とそんなに仲良かったっけ?学校で一緒にいるのあんまり見てなかったけど。」
永海「今年の夏休み入る前に仲良くなってた。栄美先生に教えてもらったタッチペンを一緒に買いに行ったって言ってたけど、お昼なのに悠からお風呂上がりの匂いした…。」
一「…単純に持続するシャンプーとか?」
永海「合宿の時に悠が遅れたの心配したり、悠しか知らないバイトの愚痴を夏に知られてたし、夜2人でどこか出かけてたし…。」
永海はだんだんと声に元気がなくなっていく。
永海「沙樹も入れて4人で夏祭り行った時に悠と夏が少し離れて楽しんでたの。悠はこの間、彼氏と別れたけどまた別の人と付き合い始めたって言ってた。」
確か、昨日教室で話した時に彼氏いるとは聞いたな。
一「でも、夏って確定してなくない?」
永海「この間、合宿で班になったメンバーでピクニック行ったら夏と悠が手繋いでた。」
…これでカップルじゃないと断言出来る奴っているんだろうか。
俺はいろんな目線から2人を見るけれど、2人のことを知らなすぎて分からないことばかりだ。
永海「しかも悠は夏が新しく仕事始めたって知ってた。…私、知らなかった。」
そう言うと永海はまたまつ毛を濡らして登り始めた朝日で煌めく海を見つめる。
一「知らないってなんか、嫌だよな。」
永海「うん。…なんか、取り残されてる感じ。」
永海は膝を抱えて寂しさを溢れないようにしようとするけれど、人の感情を表す瞳がそうはさせてくれない。
永海「それでも、この間あった流星群を一緒に見に行ってくれたの嬉しかった。」
一「そうなんだ。まだ望みありじゃん。」
永海「ううん…。その時、夏がお星さまに絶対叶えてもらうようにって友達から教えてもらったおまじないみたいなの一緒にしたの。」
一「…まじない?」
永海「うん。コップの中のお水にお星さまが入ったら、お願い事を心の中で唱えながら一気飲みするっていうおまじない。」
…姐さんのだ。
本当に姐さんと夏は俺が入り込めない繋がりが出来てる。
悔しい。
けど、どうにも出来ない。
永海「私より先に夏のコップにお星さまが入ったみたいでね、一気飲みしたの。それで夏が『俺が今1番好きな人とずっと側にいれますように。』って言ったの。」
一「…え?それ告白じゃん。」
永海「私もそうだと思ってすごく嬉しくなった。けどね、ずっと私と目を合わせないで何もないコップの中を見てるの。」
永海はそのあとを話そうとするけれど、涙と息の波長が合わず言葉が出てこない。
一「ずっと目が合わないの辛いね…。」
永海の気持ちよく分かる。
好きな人が目の前にいるのに、相手は自分を見てくれない寂しさは俺もずっと感じてた。
永海「うん…。私が期待した夏の笑顔はずっとそこにはなくて、笑顔を作って自分の手元にある星空を見ながら泣いちゃった。…それでも夏は気づいてくれなかった。」
そう言って、永海は自分の持っていたカフェラテをその夜と同じように優しく持ち上げて覗き込む。
永海「私、強がってお願い事は言っちゃダメだよって言ったけど、夏は『言葉に出さないと叶わない』って言ったんだ。」
あの日、そうしたかのようにカフェラテの蓋の上に永海は涙をこぼしていく。
永海「どっちが正解なんだろうねって思い切って聞いてみたら、『きっと俺のだよ。』って。その時に私の涙が流れ星みたいにカップに入ったから、もういいやって思ってその時思ったお願い事しながら一気飲みしたんだ。」
一「…どんな?」
聞いていいのか分からない。
2人が言う願い事の叶え方はこの世でどちらが正しいとも言えないから。
俺は口に出し続けて今の絵を守ってきたし、心の中で唱えて好きを取り戻したことがある。
どちらも正しいし、間違いかもしれない。
だったらどっちもしてしまえばいい。
永海「今、私の隣にいてくれた人を幸せにしてくださいってお願いした。」
一「…最高の願いだね。」
永海「私をいっぱい幸せにしてくれて救ってくれたから。」
そう言うと永海はその時の事を思い出し、笑顔になるが夏への想いは流れたままだった。
永海「入学式に罵倒された私を救ってくれたし、1年生の時、校外学習があった日にお母さんの誕生日だったんだけど、なんだか参加したくなくてそのまま鎌倉を1人でふらついてたら夕日を見て涙を流しながら写真を撮ってるまだ無口な夏を見てまた好きって思った。」
ひとりでいた永海を夏は知らない間に救ってたんだ。
夏はその場にいるだけで誰かのためになるって羨ましい生き方してるな。
永海「流星群を一緒に見てくれるのも、風鈴を一緒に作りに行ってくれた時も、朝活のピクニックも、いつもする暇電やショッピングを1度も嫌な顔せずに付き合ってくれるの。
いつも忙しそうにしててコンシーラーでクマを隠してるのも知ってるけど、私の約束を必ず守ろうとしてくれる夏が好き。」
一「…約束だけ?」
永海「もっとだよ。勝が夏をいじめる気満々で強く手を握っても反発するように握り返す意地っ張りなとこも好きだし、嫌いな食材が入ってる料理も平気で食べちゃう優しさも好き。」
永海の言葉からは俺の知らない夏のいいところがシャボン液を長く吹くようにたくさん出るけれど、それは夏に届かず弾けていってしまう。
永海「この間の誕生日の時にね。妹2人が熱出して救急病院に家族みんな行っちゃって、私が1人でその日を終えようとしてる時に夏はすごいカッコいいスーツで日付変わる直前に駆けつけてくれたの。てっきり告白されると思ったよ。」
そう教えてくれた永海の語尾がとても切なく感じる。
そんな事をしてくれたのに他の人を選んだって思うと辛いな。
永海「汗も拭かず、風で上がりきった前髪の下にあった反転した文字で『永海 誕生日』って書かれたおでこも隠さず、私より嬉しそうに笑っておめでとうって言ってくれたの。そうやって人のこと想える夏が大好き。」
そう言って永海は自分が使っているレジャーシートをきつく優しく掴む。
永海「持ってきてくれたプレゼントには私の好きになったきっかけの桜がぎっしり入った箱でね。夏が『ふぅーって吹いて。』って言ったから、私が息を吹きかけて舞った全部の花びらをキャッチして自慢気な顔をした夏が好き。」
一「…最高のサプライズだな。」
俺もそんな事を考えられたら姐さんは夏よりも俺を好きになってれるかな。
永海「うん。それでね、その桜の花びらの下にこのレジャーシートが入ってて、『また朝活したい。』って言ってくれた次の約束をしてくれる夏が好き。」
一「…朝活、した?」
永海「2人だけのはしてない。朝活しようと思ったけど夏が他の子も誘おうって言ったから出来なくなっちゃった。」
一「しようよ。約束したんだろ?」
永海「だって、悠がいるじゃん。」
一「結婚してなかったらみんなフリーだ。」
海斗には通った俺の暴論。
純粋バカに効いたから永海にも効くか…?
永海「そう思いたいけど、友達が幸せならそれでいいよ。」
そう言って永海は1度深呼吸をして目を瞑り、涙を止めた。
永海「人の幸せと気持ちは奪っちゃダメってママに言われたもん。分かち合ってる中で自分に向いてくれたらありがたく受け取るものって言ってた。」
一「それで自分が辛くてもいいの?」
永海「…しょうがないよ。好きな人の1番になれないなら諦めるしかない。」
そう言って永海は目を開けて空を見ながら涙を海のように煌めかせてまぶたの中で泳がせる。
…まだ、諦めきれてないじゃん。
そんなに涙が出るってことはまだ好きなんだろ?
好きならその人の1番になるまで食らいつけよ。
一「俺が1番にしてやるよ。」
永海「…え?」
海を見ていた永海がこちらを向いて驚く。
一「そんなに永海の事を思って動いてくれたんだ。そこら辺にいる人よりも好かれてる事は確かだ。」
永海「でも悠がいるから…。」
一「人の気持ちは変わっていくんだ。今は悠が好きだとしても、行動を起こし続ければ夏の気持ちは変わる。」
永海「…そんなの、ダメだよ。」
一「永海は動かなくていい。俺が勝手にやるから永海は夏に誘われるまで自分磨きでもしてろ。」
永海「…なんでしてくれるの?」
一「俺も失恋したから。今だけ特別サービス。」
俺は永海の顔に自分の顔を近づけて、キス2歩手前で止める。
永海「なっ…」
永海は驚いて目を丸くさせたまま固まる。
一「成功したら1日だけ俺の彼女になって。俺の恋愛も応援して。」
そう言うと永海が俺の顔を勢いよく叩く。
永海「いいけど!“彼女(仮)”ってつけて!」
一「鼓膜ぅ…。契約成立?」
俺は顔を擦りながらOKか聞いてみる。
永海「ううん。私も一の1日ちょうだい。」
一「…なんで?」
永海「失敗した時用と寂しい時用。」
一「いいよ。いつでも使って。」
永海「…ありがとう。」
そうお礼を言った永海は笑顔になってくれたけど、今どう思ってその笑顔をしてるんだろう。
おい、夏。
お前だったら永海のこの笑顔の意味、読み取れるのか?
だったら側にいてやれよ。
永海はお前が必要なんだ。
俺じゃなくて夏なんだ。
…姐さんみたいにな。
だから、出来るだけ想いに応えられるようにしてくれ。
いつも頼られる夏みたいになりたかったけど、俺にはなれそうにないからお前がいてあげてくれ。
俺はそう夏に届くように心の中で願い、動いてみることにした。
→ 君の代わり
前みたいに仕事が長引いて今から眠るかもしれないし、この間みたいに気まぐれで電話に出てくれるかもしれないから、その僅かな希望を座ったベンチに置いてあった空き缶の神さまに願いながらコールボタンを押す。
けれどすぐには出てくれないのは分かりきっているから、俺は空き缶をゴミ箱に優しく捨てて一善をしていると電話が繋がった。
一「姐さん、お疲れ様。」
さき『…ぅん。』
…ん?声遠い?
俺は耳を澄ませて姐さんを何度か呼ぶけれど、なんでか答えてくれない。
すると、布団が擦るような音がしてマイクに姐さんが近づいた音がすると寝息のようなものが聞こえ始める。
どうやら姐さんは寝ぼけて電話を出たらしい。
こんな偶然もあるんだなと思い、俺は伝えたかったことを眠り続ける姐さんに伝える。
一「姐さん、これから海に行って女と遊んでくるよ。もしかしたら彼女になるかもしれないからその時は姐さんに会いに行くね。」
俺は姐さんを起こさないように耳元で囁やくように言葉を発すると、急に寝息が途絶えた。
さき『…いってらっしゃい。』
一「え!?姐さ…」
俺が話しかけようとすると姐さんは電話を切ってしまった。
…起きているのを知ってたらこんなストレートに言わなかったのに。
俺は姐さんの名演技に騙されたことを反省しながらロマンスカーに乗って江ノ電に乗り継ぎ、永海と待ち合わせしていた由比ヶ浜駅に到着する。
すると6本見送った後に永海がやってきた。
永海「ごめん!フウカの電話付き合ってたら電車乗り遅れた!」
一「永海っていつも遅れるよな。」
永海「ごめん。飲み物奢るね。」
一「牛乳な。」
俺たちは近くのコンビニで飲み物を買って大会会場から少し離れた砂浜に行く。
多分、会場近くだとクラスの奴やもしかしたら夏が朝早くから愛海の応援に来てしまってるかもしれない。
その危険性も兼ねて俺は会場から離れた由比ヶ浜にしておいた。
永海は浜辺に着くと薄ピンクで桃のような丸い布生地のレジャーシートを敷いた。
永海「これは私のだから一はこれね。」
と、永海は自分だけそのレジャーシートに座り、カバンに入れていた大きめのハンカチを俺に渡す。
一「は?なんでこんなデカイのにダメなの?」
永海「一はダメですぅー。」
永海は昨日とは打って変わって自然な笑顔を見せるけれど、無理してないか心配になってしまう。
一「あっそ。波うるさいからもっと近く来て。」
永海「じゃあここ折るから側に来て。」
そう言って永海はレジャーシートを巻き折り、パーソナルスーペースを俺のために狭めてくれる。
俺はそのギリギリにハンカチを敷いて永海の隣に座り、奢ってもらった牛乳で喉を潤す。
一「夏の彼女って誰だと思ってんの?」
俺は昨日の続きになってしまった話をすぐさま振ってみることにした。
今日は昨日の夜のように時間が有り余ってるわけじゃないから、気持ちの整理の時間も兼ねてさっさと話してしまった方がいい。
永海「…悠。」
と、仲が良くていつも一緒にいる悠の名前を出してきた。
一「夏とそんなに仲良かったっけ?学校で一緒にいるのあんまり見てなかったけど。」
永海「今年の夏休み入る前に仲良くなってた。栄美先生に教えてもらったタッチペンを一緒に買いに行ったって言ってたけど、お昼なのに悠からお風呂上がりの匂いした…。」
一「…単純に持続するシャンプーとか?」
永海「合宿の時に悠が遅れたの心配したり、悠しか知らないバイトの愚痴を夏に知られてたし、夜2人でどこか出かけてたし…。」
永海はだんだんと声に元気がなくなっていく。
永海「沙樹も入れて4人で夏祭り行った時に悠と夏が少し離れて楽しんでたの。悠はこの間、彼氏と別れたけどまた別の人と付き合い始めたって言ってた。」
確か、昨日教室で話した時に彼氏いるとは聞いたな。
一「でも、夏って確定してなくない?」
永海「この間、合宿で班になったメンバーでピクニック行ったら夏と悠が手繋いでた。」
…これでカップルじゃないと断言出来る奴っているんだろうか。
俺はいろんな目線から2人を見るけれど、2人のことを知らなすぎて分からないことばかりだ。
永海「しかも悠は夏が新しく仕事始めたって知ってた。…私、知らなかった。」
そう言うと永海はまたまつ毛を濡らして登り始めた朝日で煌めく海を見つめる。
一「知らないってなんか、嫌だよな。」
永海「うん。…なんか、取り残されてる感じ。」
永海は膝を抱えて寂しさを溢れないようにしようとするけれど、人の感情を表す瞳がそうはさせてくれない。
永海「それでも、この間あった流星群を一緒に見に行ってくれたの嬉しかった。」
一「そうなんだ。まだ望みありじゃん。」
永海「ううん…。その時、夏がお星さまに絶対叶えてもらうようにって友達から教えてもらったおまじないみたいなの一緒にしたの。」
一「…まじない?」
永海「うん。コップの中のお水にお星さまが入ったら、お願い事を心の中で唱えながら一気飲みするっていうおまじない。」
…姐さんのだ。
本当に姐さんと夏は俺が入り込めない繋がりが出来てる。
悔しい。
けど、どうにも出来ない。
永海「私より先に夏のコップにお星さまが入ったみたいでね、一気飲みしたの。それで夏が『俺が今1番好きな人とずっと側にいれますように。』って言ったの。」
一「…え?それ告白じゃん。」
永海「私もそうだと思ってすごく嬉しくなった。けどね、ずっと私と目を合わせないで何もないコップの中を見てるの。」
永海はそのあとを話そうとするけれど、涙と息の波長が合わず言葉が出てこない。
一「ずっと目が合わないの辛いね…。」
永海の気持ちよく分かる。
好きな人が目の前にいるのに、相手は自分を見てくれない寂しさは俺もずっと感じてた。
永海「うん…。私が期待した夏の笑顔はずっとそこにはなくて、笑顔を作って自分の手元にある星空を見ながら泣いちゃった。…それでも夏は気づいてくれなかった。」
そう言って、永海は自分の持っていたカフェラテをその夜と同じように優しく持ち上げて覗き込む。
永海「私、強がってお願い事は言っちゃダメだよって言ったけど、夏は『言葉に出さないと叶わない』って言ったんだ。」
あの日、そうしたかのようにカフェラテの蓋の上に永海は涙をこぼしていく。
永海「どっちが正解なんだろうねって思い切って聞いてみたら、『きっと俺のだよ。』って。その時に私の涙が流れ星みたいにカップに入ったから、もういいやって思ってその時思ったお願い事しながら一気飲みしたんだ。」
一「…どんな?」
聞いていいのか分からない。
2人が言う願い事の叶え方はこの世でどちらが正しいとも言えないから。
俺は口に出し続けて今の絵を守ってきたし、心の中で唱えて好きを取り戻したことがある。
どちらも正しいし、間違いかもしれない。
だったらどっちもしてしまえばいい。
永海「今、私の隣にいてくれた人を幸せにしてくださいってお願いした。」
一「…最高の願いだね。」
永海「私をいっぱい幸せにしてくれて救ってくれたから。」
そう言うと永海はその時の事を思い出し、笑顔になるが夏への想いは流れたままだった。
永海「入学式に罵倒された私を救ってくれたし、1年生の時、校外学習があった日にお母さんの誕生日だったんだけど、なんだか参加したくなくてそのまま鎌倉を1人でふらついてたら夕日を見て涙を流しながら写真を撮ってるまだ無口な夏を見てまた好きって思った。」
ひとりでいた永海を夏は知らない間に救ってたんだ。
夏はその場にいるだけで誰かのためになるって羨ましい生き方してるな。
永海「流星群を一緒に見てくれるのも、風鈴を一緒に作りに行ってくれた時も、朝活のピクニックも、いつもする暇電やショッピングを1度も嫌な顔せずに付き合ってくれるの。
いつも忙しそうにしててコンシーラーでクマを隠してるのも知ってるけど、私の約束を必ず守ろうとしてくれる夏が好き。」
一「…約束だけ?」
永海「もっとだよ。勝が夏をいじめる気満々で強く手を握っても反発するように握り返す意地っ張りなとこも好きだし、嫌いな食材が入ってる料理も平気で食べちゃう優しさも好き。」
永海の言葉からは俺の知らない夏のいいところがシャボン液を長く吹くようにたくさん出るけれど、それは夏に届かず弾けていってしまう。
永海「この間の誕生日の時にね。妹2人が熱出して救急病院に家族みんな行っちゃって、私が1人でその日を終えようとしてる時に夏はすごいカッコいいスーツで日付変わる直前に駆けつけてくれたの。てっきり告白されると思ったよ。」
そう教えてくれた永海の語尾がとても切なく感じる。
そんな事をしてくれたのに他の人を選んだって思うと辛いな。
永海「汗も拭かず、風で上がりきった前髪の下にあった反転した文字で『永海 誕生日』って書かれたおでこも隠さず、私より嬉しそうに笑っておめでとうって言ってくれたの。そうやって人のこと想える夏が大好き。」
そう言って永海は自分が使っているレジャーシートをきつく優しく掴む。
永海「持ってきてくれたプレゼントには私の好きになったきっかけの桜がぎっしり入った箱でね。夏が『ふぅーって吹いて。』って言ったから、私が息を吹きかけて舞った全部の花びらをキャッチして自慢気な顔をした夏が好き。」
一「…最高のサプライズだな。」
俺もそんな事を考えられたら姐さんは夏よりも俺を好きになってれるかな。
永海「うん。それでね、その桜の花びらの下にこのレジャーシートが入ってて、『また朝活したい。』って言ってくれた次の約束をしてくれる夏が好き。」
一「…朝活、した?」
永海「2人だけのはしてない。朝活しようと思ったけど夏が他の子も誘おうって言ったから出来なくなっちゃった。」
一「しようよ。約束したんだろ?」
永海「だって、悠がいるじゃん。」
一「結婚してなかったらみんなフリーだ。」
海斗には通った俺の暴論。
純粋バカに効いたから永海にも効くか…?
永海「そう思いたいけど、友達が幸せならそれでいいよ。」
そう言って永海は1度深呼吸をして目を瞑り、涙を止めた。
永海「人の幸せと気持ちは奪っちゃダメってママに言われたもん。分かち合ってる中で自分に向いてくれたらありがたく受け取るものって言ってた。」
一「それで自分が辛くてもいいの?」
永海「…しょうがないよ。好きな人の1番になれないなら諦めるしかない。」
そう言って永海は目を開けて空を見ながら涙を海のように煌めかせてまぶたの中で泳がせる。
…まだ、諦めきれてないじゃん。
そんなに涙が出るってことはまだ好きなんだろ?
好きならその人の1番になるまで食らいつけよ。
一「俺が1番にしてやるよ。」
永海「…え?」
海を見ていた永海がこちらを向いて驚く。
一「そんなに永海の事を思って動いてくれたんだ。そこら辺にいる人よりも好かれてる事は確かだ。」
永海「でも悠がいるから…。」
一「人の気持ちは変わっていくんだ。今は悠が好きだとしても、行動を起こし続ければ夏の気持ちは変わる。」
永海「…そんなの、ダメだよ。」
一「永海は動かなくていい。俺が勝手にやるから永海は夏に誘われるまで自分磨きでもしてろ。」
永海「…なんでしてくれるの?」
一「俺も失恋したから。今だけ特別サービス。」
俺は永海の顔に自分の顔を近づけて、キス2歩手前で止める。
永海「なっ…」
永海は驚いて目を丸くさせたまま固まる。
一「成功したら1日だけ俺の彼女になって。俺の恋愛も応援して。」
そう言うと永海が俺の顔を勢いよく叩く。
永海「いいけど!“彼女(仮)”ってつけて!」
一「鼓膜ぅ…。契約成立?」
俺は顔を擦りながらOKか聞いてみる。
永海「ううん。私も一の1日ちょうだい。」
一「…なんで?」
永海「失敗した時用と寂しい時用。」
一「いいよ。いつでも使って。」
永海「…ありがとう。」
そうお礼を言った永海は笑顔になってくれたけど、今どう思ってその笑顔をしてるんだろう。
おい、夏。
お前だったら永海のこの笑顔の意味、読み取れるのか?
だったら側にいてやれよ。
永海はお前が必要なんだ。
俺じゃなくて夏なんだ。
…姐さんみたいにな。
だから、出来るだけ想いに応えられるようにしてくれ。
いつも頼られる夏みたいになりたかったけど、俺にはなれそうにないからお前がいてあげてくれ。
俺はそう夏に届くように心の中で願い、動いてみることにした。
→ 君の代わり
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