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永海と俺が幹事の合コンはクラス会の延長みたいな感じで、ただ楽しむことだけを1番に置いた呑み会だった。
永海は高校の同級生で今はデザイナーの子、アパレルショップで出会い仲良くなった3つ年上の大学生、中学を卒業してからすぐにメイク用品のバイヤーになった先輩という色々濃い人たちを集めてくれた。
歳が近いのにこんなにも生き方が違うのかと人の人生の話を聞き入っていると、あっという間に会計をする時間になってしまった。
永海「じゃあ3000円ずつね。」
一「俺が払うよ?」
もともと俺の勝手な話で進めた合コンだったから金は用意してきていた。
永海「こういうのはフラットで!」
今日の永海はいつもよりちょっと元気ありすぎる気がして心配になる。
俺と永海は手早く金を集めて会計をお願いしにレジに行くと、少し混み合っているのか人だかりが出来ていた。
俺は準備が終わった人から先に出てもらうように声をかけて、永海にも先に行ってもらおうとカバンを渡す。
一「俺がやっておくから先に帰っててもいいよ?」
永海「…帰りたくない。」
そういうと永海は首元にあったサングラスをつけるけれど、真横にいる俺からしっかりと潤んだ目が見えてしまう。
一「…みんなでもう1軒行く?」
永海「みんな、忙しいから困らせたくない。」
一「俺と行く?」
永海「忙しいでしょ?」
一「明日は愛海の試合を見に行くからコンクールの絵は休む。」
そう言うと永海はゆっくりと頭を揺らし、何かを言おうと悩んでいる。
一「俺、もう少し呑みたいから付き合ってよ。」
永海「…ちょっとだけね。」
ありがとう、と俺はお礼を言って奏たちと集まってくれた永海の知り合いに先に解散してもらい、不慣れな新人のレジを終えて次の店を見つけるために街を歩く。
一「家帰りたくないの分かる。永海って実家?」
永海「うん。家族みんな実家にいる。」
一「人がいると息苦しい時あるよな。」
永海「…うん。ある。」
と、永海の声が少し遠く感じて横を見ると隣にいたはずの永海がいなくて、俺は驚き振り返ると永海は数歩後ろでしゃがみ込みサングラスを外して落ちる涙を必死に拭き取っていた。
一「…え、どうした?」
俺は永海に駆け寄りながら声を掛ける。
永海「苦しい…。」
と、永海は今にも吐きそうに声を絞り出した。
一「吐きそう?」
永海「…吐きたいよ。でも、もう無駄なんだ。」
永海は自分で涙を拭いて同じ目線になった俺を安心させようとしたのか無理に笑顔を作った。
一「無駄なことはないって教わった。だから自分の気持ちを無駄なんて言うなよ。」
永海「……遊び人に諭されたぁ。」
そう言って永海は本格的に泣き出してしまった。
どうしよう。
すごく人に見られてる。
一「永海、まず俺と寂しいの半分こしよう?」
永海「…どうすればいい?」
永海はこんなにも泣いているのにメイクが落ちていない。
…もしかしたら、1人で泣く予定があったのかもしれないな。
一「俺の手、握って。」
俺は永海の前に手を出し、握ってくれるのを待つ。
永海「手繋ぐのは、恋人同士だよ…?」
自分で言っていて苦しくなったのか、さらに涙が溢れてしまう永海。
きっと最近失恋してしまったんだろう。
俺も仲間だからそんなに泣かなくても大丈夫。
しっかり半分こするから。
一「親子でもするし、愛人でもする。友達同士だってするだろ?」
永海「でも、一は男じゃん。」
一「男でも女でも友達だろ?だったらいいじゃん。」
永海「…男の人、パパと元彼しか手繋いだことない。」
なんでそんなに拒むんだよ。
キスしよってんじゃないんだからいいだろと、言いたくはなったが追い打ちをかけてしまいそうでぐっと堪える。
一「俺と新しい世界、飛び込んでみる?」
俺は冗談交じりに明が好きと言っていた乙女ゲーでありそうな言葉を使ってみると、永海は吹き出し笑って俺の手を握ってくれる。
永海「飛び込む。」
一「じゃあ、Let's dive。」
俺は永海の手を引き、立ち上がらせて人目が散るまで軽く走っていると永海がまた笑い出す。
一「なんで笑ってるの?」
永海「夜の繁華街走るのってこどなっぽいって思って。」
そう言うと永海は急に歌い出した。
その歌は俺たちの走るテンポ、目に映る眩しく鮮やかな看板や街にいる人々、永海が感じているような感情を表した歌だった。
一「なんの曲?」
永海「オリジナルだよ。」
そんな特技持ってたのか、と俺は息切れ交じりに驚くと永海はゆっくりと脚を止めて深呼吸をする。
永海「ゲロ臭いね。」
一「そういう街だから。永海もゲロっていいよ。」
永海「どっかゆっくり出来るところある?」
と、永海は繁華街のネオンでススキのようなまつ毛を輝かせながら聞いてきた。
一「何?誘ってる?」
永海「え!?違う違う!2人で静かに話せる場所!」
一「その言い方も微妙だけど。」
永海「えー…?もう駅前のベンチでいいよ。」
一「嘘。俺の家来る?10分で着くよ。」
永海「それの方がダメじゃない?」
一「俺、年上好きだし。同い年と年下には興味も興奮も覚えません。」
永海「それは女として聞きづてならない。」
そんなことどうでもいんだよ。
永海と話していると話が脱線しやすいんだよな。
一「とりあえず俺の家来て。妹もいるから何もしないし出来ない。」
永海「そうなんだ!じゃあ行くー。」
俺は永海のOKをもらった瞬間、タクシーを止めてそのまま天も回収して家に帰る。
俺はあまり使われていないベランダ替わりの小さい庭に椅子を出して、永海の話を聞こうとすると永海の携帯に電話がかかってくる。
永海「…あ、勝だ。」
ちょっと待ってと言って永海は電話に出た。
なんだよ。男いるんじゃん。
失恋だと思って話を聞こうとしたのに何で悩んでるのかで分からなくなった俺は永海が電話を切ったと同時に早速聞くことにした。
一「彼氏問題?」
永海「…彼氏いないよ?」
一「は?今、勝って人と電話してたじゃん。」
永海「あぁ…。勝はお兄ちゃんね。」
一「え?名前呼び?」
永海「…血繋がってないからいいかなって。」
そう言った永海はとても寂しそうな顔をした。
そんな顔、学校で1度も見たことがなかったから俺は驚き、次の質問が見つけられない。
永海「パパはママが亡くなってから今のお母さんにたくさん助けてもらったから結婚したんだ。その連れ子が勝。」
一「…なるほどな。」
永海「それで双子の妹が生まれてすごく仲の良い家族なんだけど…」
と、永海はお茶が入ったコップを握りしめて俯く。
永海「パパは心の支えが出来てすごく幸せそうだけど、私はずっといない。ママが亡くなって新しいお母さんと兄妹が出来ても自分が思ってること素直に話せない。」
一「…いつから?」
永海「私が小6の時にママが亡くなって、今の家族にちゃんとなったのは中2。」
体の成長も気持ちの成長もまだ自分の中身が追いつけない時期。
俺もそこら辺に血迷って何も知らない子と初めて付き合ったな。
永海「…やっぱり名前呼びとか、“お母さん”とか言うと気になるよね?」
一「まあ…、少し違和感は感じるよな。」
永海「私の好きな人は何も感じてくれなかった。」
永海はその時のことを思い出したのか、涙袋を膨らませる。
永海「その人、すごくいい人なの。夕日とか星空を見て泣いちゃう人なの。」
一「好きになったきっかけ、それ?」
永海「ううん。入学式。」
一「…え?ずっと?」
永海「うん。ずっと。」
こんなところに一途野郎がいたのかと1人で驚いていると永海はその好きな人のことを教えてくれる。
永海「入学式、私はみんなと全然違う格好してたじゃん?」
一「大半の奴がなんでか黒染めに黒スーツだったけど、永海はそのままホワイトゴールドのヘアカラーでパンツスタイルのホワイトスーツだったよな?俺、すごくカッコいいって思った。」
そう言うと永海は少し照れ臭そうにありがとうと言った。
永海「でも私の耳には目立ちたがりとか、マナーがどうだとか、TPOわきまえてないとか、ひどい言われようだったんだ。…ママのお下がり着てたのに。」
永海は当時のことを思い出し、目を潤ませる。
その時の俺は少し離れた席で永海を見て奏とカッコいい女がいると2人で騒いでいたから全く気づかなかった。
永海「でもこんな所で泣いたらダメだなって思って、案内された席に座ってずっとまっすぐ前を向いて笑顔を作ってたら、左隣の子が私の前に携帯を出して、『君の肩、桜ついてる。とっていい?』ってみんなが私を罵る中、俳句みたいな文字列で教えてくれたんだ。」
…永海の左隣って。
俺はあの日に見たカッコいい永海の左隣にいた野暮ったいスーツを着た男を思い出す。
永海「周りの言葉を聞いても私のブラウスの中に入りそうだった桜の花びらのことを教えてくれたんだ。だからその気持ちが独りだった私を救ってくれてた。そこから言葉を交わすごとに好きが集まるの。」
一「…夏?」
永海「…え?」
一「永海の左隣にいたの、ダボついたスーツ着てた夏だろ。2人のコントラストがすごく印象に残ってるんだ。」
永海「…一って忘れっぽいんじゃないの?」
一「忘れ屋の一くんはいなくなりました。」
俺が微笑みかけると永海は顔を真っ赤にして両手で顔を隠す。
一「合宿の時、ラジオ体操してた時に隣にいたし、自由行動の時間は2人だけでどっか行ってただろ?後は…」
永海「や、やめて!恥ずかしい…。」
一「明はピュア推しカップルって言って俺に随時教えてくれたけどな。」
そんな清純なイメージだった夏が姐さんの手の甲にキスしたのを見てしまったから俺は嫉妬に狂ったけどな。
一「クラスの奴、みんな気づいてる。気づいてないのは永海と夏くらい。」
永海「…でも、付き合えてないし彼女出来ちゃったっぽい。」
一「え?そうなの?」
永海「…うん。」
永海が何か言い出そうとすると携帯が鳴り、永海は電話に出るとお兄さんが車で迎えに来たと言って荷物をまとめ始める。
一「永海。」
俺は玄関で靴を履き終えて外に出ようとする永海を呼んで掴まえる。
永海「なに?」
一「朝、暇?」
永海「私も愛海の応援行くからバイト入れてない。」
一「じゃあ朝に由比ヶ浜は?」
永海「…誘ってる?」
一「誘ってる。」
俺がそう言うと永海は自分が始めた冗談に笑い、嬉しそうに『いいよ』と言って帰っていった。
俺は夏が姐さんのことを支えてくれた分、永海のことを支えることにした。
→ もうええわ
永海は高校の同級生で今はデザイナーの子、アパレルショップで出会い仲良くなった3つ年上の大学生、中学を卒業してからすぐにメイク用品のバイヤーになった先輩という色々濃い人たちを集めてくれた。
歳が近いのにこんなにも生き方が違うのかと人の人生の話を聞き入っていると、あっという間に会計をする時間になってしまった。
永海「じゃあ3000円ずつね。」
一「俺が払うよ?」
もともと俺の勝手な話で進めた合コンだったから金は用意してきていた。
永海「こういうのはフラットで!」
今日の永海はいつもよりちょっと元気ありすぎる気がして心配になる。
俺と永海は手早く金を集めて会計をお願いしにレジに行くと、少し混み合っているのか人だかりが出来ていた。
俺は準備が終わった人から先に出てもらうように声をかけて、永海にも先に行ってもらおうとカバンを渡す。
一「俺がやっておくから先に帰っててもいいよ?」
永海「…帰りたくない。」
そういうと永海は首元にあったサングラスをつけるけれど、真横にいる俺からしっかりと潤んだ目が見えてしまう。
一「…みんなでもう1軒行く?」
永海「みんな、忙しいから困らせたくない。」
一「俺と行く?」
永海「忙しいでしょ?」
一「明日は愛海の試合を見に行くからコンクールの絵は休む。」
そう言うと永海はゆっくりと頭を揺らし、何かを言おうと悩んでいる。
一「俺、もう少し呑みたいから付き合ってよ。」
永海「…ちょっとだけね。」
ありがとう、と俺はお礼を言って奏たちと集まってくれた永海の知り合いに先に解散してもらい、不慣れな新人のレジを終えて次の店を見つけるために街を歩く。
一「家帰りたくないの分かる。永海って実家?」
永海「うん。家族みんな実家にいる。」
一「人がいると息苦しい時あるよな。」
永海「…うん。ある。」
と、永海の声が少し遠く感じて横を見ると隣にいたはずの永海がいなくて、俺は驚き振り返ると永海は数歩後ろでしゃがみ込みサングラスを外して落ちる涙を必死に拭き取っていた。
一「…え、どうした?」
俺は永海に駆け寄りながら声を掛ける。
永海「苦しい…。」
と、永海は今にも吐きそうに声を絞り出した。
一「吐きそう?」
永海「…吐きたいよ。でも、もう無駄なんだ。」
永海は自分で涙を拭いて同じ目線になった俺を安心させようとしたのか無理に笑顔を作った。
一「無駄なことはないって教わった。だから自分の気持ちを無駄なんて言うなよ。」
永海「……遊び人に諭されたぁ。」
そう言って永海は本格的に泣き出してしまった。
どうしよう。
すごく人に見られてる。
一「永海、まず俺と寂しいの半分こしよう?」
永海「…どうすればいい?」
永海はこんなにも泣いているのにメイクが落ちていない。
…もしかしたら、1人で泣く予定があったのかもしれないな。
一「俺の手、握って。」
俺は永海の前に手を出し、握ってくれるのを待つ。
永海「手繋ぐのは、恋人同士だよ…?」
自分で言っていて苦しくなったのか、さらに涙が溢れてしまう永海。
きっと最近失恋してしまったんだろう。
俺も仲間だからそんなに泣かなくても大丈夫。
しっかり半分こするから。
一「親子でもするし、愛人でもする。友達同士だってするだろ?」
永海「でも、一は男じゃん。」
一「男でも女でも友達だろ?だったらいいじゃん。」
永海「…男の人、パパと元彼しか手繋いだことない。」
なんでそんなに拒むんだよ。
キスしよってんじゃないんだからいいだろと、言いたくはなったが追い打ちをかけてしまいそうでぐっと堪える。
一「俺と新しい世界、飛び込んでみる?」
俺は冗談交じりに明が好きと言っていた乙女ゲーでありそうな言葉を使ってみると、永海は吹き出し笑って俺の手を握ってくれる。
永海「飛び込む。」
一「じゃあ、Let's dive。」
俺は永海の手を引き、立ち上がらせて人目が散るまで軽く走っていると永海がまた笑い出す。
一「なんで笑ってるの?」
永海「夜の繁華街走るのってこどなっぽいって思って。」
そう言うと永海は急に歌い出した。
その歌は俺たちの走るテンポ、目に映る眩しく鮮やかな看板や街にいる人々、永海が感じているような感情を表した歌だった。
一「なんの曲?」
永海「オリジナルだよ。」
そんな特技持ってたのか、と俺は息切れ交じりに驚くと永海はゆっくりと脚を止めて深呼吸をする。
永海「ゲロ臭いね。」
一「そういう街だから。永海もゲロっていいよ。」
永海「どっかゆっくり出来るところある?」
と、永海は繁華街のネオンでススキのようなまつ毛を輝かせながら聞いてきた。
一「何?誘ってる?」
永海「え!?違う違う!2人で静かに話せる場所!」
一「その言い方も微妙だけど。」
永海「えー…?もう駅前のベンチでいいよ。」
一「嘘。俺の家来る?10分で着くよ。」
永海「それの方がダメじゃない?」
一「俺、年上好きだし。同い年と年下には興味も興奮も覚えません。」
永海「それは女として聞きづてならない。」
そんなことどうでもいんだよ。
永海と話していると話が脱線しやすいんだよな。
一「とりあえず俺の家来て。妹もいるから何もしないし出来ない。」
永海「そうなんだ!じゃあ行くー。」
俺は永海のOKをもらった瞬間、タクシーを止めてそのまま天も回収して家に帰る。
俺はあまり使われていないベランダ替わりの小さい庭に椅子を出して、永海の話を聞こうとすると永海の携帯に電話がかかってくる。
永海「…あ、勝だ。」
ちょっと待ってと言って永海は電話に出た。
なんだよ。男いるんじゃん。
失恋だと思って話を聞こうとしたのに何で悩んでるのかで分からなくなった俺は永海が電話を切ったと同時に早速聞くことにした。
一「彼氏問題?」
永海「…彼氏いないよ?」
一「は?今、勝って人と電話してたじゃん。」
永海「あぁ…。勝はお兄ちゃんね。」
一「え?名前呼び?」
永海「…血繋がってないからいいかなって。」
そう言った永海はとても寂しそうな顔をした。
そんな顔、学校で1度も見たことがなかったから俺は驚き、次の質問が見つけられない。
永海「パパはママが亡くなってから今のお母さんにたくさん助けてもらったから結婚したんだ。その連れ子が勝。」
一「…なるほどな。」
永海「それで双子の妹が生まれてすごく仲の良い家族なんだけど…」
と、永海はお茶が入ったコップを握りしめて俯く。
永海「パパは心の支えが出来てすごく幸せそうだけど、私はずっといない。ママが亡くなって新しいお母さんと兄妹が出来ても自分が思ってること素直に話せない。」
一「…いつから?」
永海「私が小6の時にママが亡くなって、今の家族にちゃんとなったのは中2。」
体の成長も気持ちの成長もまだ自分の中身が追いつけない時期。
俺もそこら辺に血迷って何も知らない子と初めて付き合ったな。
永海「…やっぱり名前呼びとか、“お母さん”とか言うと気になるよね?」
一「まあ…、少し違和感は感じるよな。」
永海「私の好きな人は何も感じてくれなかった。」
永海はその時のことを思い出したのか、涙袋を膨らませる。
永海「その人、すごくいい人なの。夕日とか星空を見て泣いちゃう人なの。」
一「好きになったきっかけ、それ?」
永海「ううん。入学式。」
一「…え?ずっと?」
永海「うん。ずっと。」
こんなところに一途野郎がいたのかと1人で驚いていると永海はその好きな人のことを教えてくれる。
永海「入学式、私はみんなと全然違う格好してたじゃん?」
一「大半の奴がなんでか黒染めに黒スーツだったけど、永海はそのままホワイトゴールドのヘアカラーでパンツスタイルのホワイトスーツだったよな?俺、すごくカッコいいって思った。」
そう言うと永海は少し照れ臭そうにありがとうと言った。
永海「でも私の耳には目立ちたがりとか、マナーがどうだとか、TPOわきまえてないとか、ひどい言われようだったんだ。…ママのお下がり着てたのに。」
永海は当時のことを思い出し、目を潤ませる。
その時の俺は少し離れた席で永海を見て奏とカッコいい女がいると2人で騒いでいたから全く気づかなかった。
永海「でもこんな所で泣いたらダメだなって思って、案内された席に座ってずっとまっすぐ前を向いて笑顔を作ってたら、左隣の子が私の前に携帯を出して、『君の肩、桜ついてる。とっていい?』ってみんなが私を罵る中、俳句みたいな文字列で教えてくれたんだ。」
…永海の左隣って。
俺はあの日に見たカッコいい永海の左隣にいた野暮ったいスーツを着た男を思い出す。
永海「周りの言葉を聞いても私のブラウスの中に入りそうだった桜の花びらのことを教えてくれたんだ。だからその気持ちが独りだった私を救ってくれてた。そこから言葉を交わすごとに好きが集まるの。」
一「…夏?」
永海「…え?」
一「永海の左隣にいたの、ダボついたスーツ着てた夏だろ。2人のコントラストがすごく印象に残ってるんだ。」
永海「…一って忘れっぽいんじゃないの?」
一「忘れ屋の一くんはいなくなりました。」
俺が微笑みかけると永海は顔を真っ赤にして両手で顔を隠す。
一「合宿の時、ラジオ体操してた時に隣にいたし、自由行動の時間は2人だけでどっか行ってただろ?後は…」
永海「や、やめて!恥ずかしい…。」
一「明はピュア推しカップルって言って俺に随時教えてくれたけどな。」
そんな清純なイメージだった夏が姐さんの手の甲にキスしたのを見てしまったから俺は嫉妬に狂ったけどな。
一「クラスの奴、みんな気づいてる。気づいてないのは永海と夏くらい。」
永海「…でも、付き合えてないし彼女出来ちゃったっぽい。」
一「え?そうなの?」
永海「…うん。」
永海が何か言い出そうとすると携帯が鳴り、永海は電話に出るとお兄さんが車で迎えに来たと言って荷物をまとめ始める。
一「永海。」
俺は玄関で靴を履き終えて外に出ようとする永海を呼んで掴まえる。
永海「なに?」
一「朝、暇?」
永海「私も愛海の応援行くからバイト入れてない。」
一「じゃあ朝に由比ヶ浜は?」
永海「…誘ってる?」
一「誘ってる。」
俺がそう言うと永海は自分が始めた冗談に笑い、嬉しそうに『いいよ』と言って帰っていった。
俺は夏が姐さんのことを支えてくれた分、永海のことを支えることにした。
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