一なつの恋

環流 虹向

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俺は奏たちと教室の扉前でクラッカーを手にして海斗が来るのを待ちわびている。

昨日、海斗がグループメッセージで『OKをもらった』と教えてくれて、それを祝うために昼から来る海斗を今か今かと待つと教室の扉が開き、俺たちはクラッカーの紐を引く。

「「「「おめでとー!!!」」」

と、4人で入ってきた海斗に祝福を浴びせる。

海斗「…ありがとう。」

…どうした?
なんでそんな暗い顔してるんだ?

俺たちが困惑した顔をしていると海斗は俺たちの間をすり抜け、自分の席に座り机に突っ伏した。

明「…え、えっ?OKもらったんだよね?」

海斗「うん…。」

明の質問に海斗は答えるけれど、告白をOKされた人じゃない負のオーラが出ているのはなぜなんだ?

将「手繋いだか?」

海斗「した。」

奏「キスした?」

海斗「した。」

一「最後までやったか?」

海斗「…未遂。」

俺たちは5人しかいない教室で絶叫すると、見回りをしていた栄美先生に怒られてしまった。

一「…そんなこと日常茶飯事だって。気にすることない。」

俺は栄美先生に平謝りしながら教室を出て行ってもらい話を続ける。

将「女は気まぐれだし…。」

明「これから、だね…!」

奏「焦ることは無いと思うよ。」

俺たちが渾身の励ましをするけれど、海斗は首を振る。

海斗「…違うんだ。違うんだよ。」

と、海斗は悔しそうな声を出して俺たちに顔を見せずに話す。

海斗「しようと思えば出来た。けど、俺がダメだった。」

一「…息子の体調不良?」

海斗「子どもはまだいない。」

そういう事じゃないんだけど…。

海斗「愛子の一つ一つの仕草が長年付き合ってた彼氏の影が見えるんだ。」

明「…でも、今捕まってるし愛子ちゃんクズのこと好きじゃないじゃん。」

そうなんだけど…、と海斗は苦しそうに話す。

海斗「だけど、手を繋ごうとしてくれた時も、キスをしようとしてくれた時も、抱きしめようとしてくれた時も、愛子が俺を超えていくんだ。」

奏「…どういうこと?」

奏がそう言うと海斗は起き上がり涙目のまま近くにいた俺の手を引き、膝の上に座らせた。

海斗「本当は対面だけど恥ずかしいからこっちな。」

一「言われなくても分かってる。」

海斗「普通、ここら辺を抱きしめるだろ?」

と、行って俺の腹の中心に海斗の腕が回る。

将「まあそうだな。それが普通だ。」

海斗「でも、愛子の手の位置はここなんだ。」

そう言って海斗は俺の胸下まで腕を上げる。

海斗「…頭1個分。愛子が手を繋ごうとしてくれた時は俺の手首、愛子からキスしようとしてくれた時はおでこ、俺の首元に抱きつこうとした時は愛子の腕が俺の頭をすり抜けた。」

海斗はそのまま俺の肩にうずくまり、俺にしか聞こえない声で唸る。

相当、海斗にとってショックだったらしい。

ずっと好きな子が他の人と付き合ったという思い出があるだけでも嫌なのに、それが長年やらされてきた仕草に出てしまうともっと辛いよな。

明「海斗ぉ…、愛子ちゃんは海斗のこと好きだよ。」

海斗「…そうだといいな。」

将「愛子ちゃんは自分で分かってないだけだって。」

海斗「だから、辛い。…あいつの存在が愛子の近くにいる感じで嫌だ。」

奏「…たまたまじゃないの?」

海斗「俺を見ずに触れようとすると絶対そうなる。」

一「ずっと見てもらおうよ。」

海斗「…そんなの自分勝手でわがまま過ぎる。」

そんなこと言われても、俺はそうするしかなかったからもう新たな答えは出してあげられない。

せっかくこういう時に俺が頼られるはずなのに、自分なりの愛の伝え方はまだ分からないから教えてあげられない。

恋愛偏差値底辺な俺たちは海斗の助けになれないのを言葉に出して謝り、何も生まない議論を交わしていると誰かが教室に入ってきた。

一「…おはよ。」

俺はまさか夏休みに顔を合わせるとは思ってなかった学校嫌いで柴犬好きの悠に挨拶した。

この間の合宿から話してないからだいぶ経つか。

悠「今日は誰かの誕生日?おめでとう。」

と、床に散らばったクラッカーの紙吹雪を見た悠は軽いお祝いを口にしながらロッカーの中にある荷物を手早く自分のカバンに入れていく。

一「悠って彼氏いる?」

俺は試しに聞いてみた。
俺たちに解決できないなら他の誰かの答えを知りたい。

悠「いるよ。」

一「彼氏は初めて?」

悠「何人かと付き合った。」

…あ。
この人数を曖昧にする感じ、同じ匂いがする。

と、この少しの会話で俺の勘は思った。

一「ちょっとセンシティブな質問していい?」

悠「今さっきのもそうだと思うけど。」

そう言って、悠は海斗に抱きつかれたままの俺を見て首を傾げる。

一「今の彼氏が元彼もとかのを匂わせる仕草したらどうする?」

悠「…どんな?」

悠は荷物を入れ終わり、俺たちと少し距離をあけた机に腰掛ける。

一「目を瞑ってちゅーする時にちょっと場所ずれてたり、ケツ揉まれそうになって腰揉んだり?」

悠「何もしないけど。」

一「…しないの?」

俺たちは悠の答えに驚き、言葉を失う。

悠「いいじゃん。させたいようにさせれば。」

一「…でも、なんか嫌じゃない?」

悠「嫌なら覚えさせなよ。俺のはここですって。」

俺は悠の意外性に驚き、口を閉め忘れすれていると海斗が顔を上げて悠を見る。

海斗「…言葉で言ったら傷つきますか。」

海斗は同い年のクラスメイトに敬語で話す。
先生か神にでも見えてるんだろうか。

悠「両想いなら傷つくと思う。相手はただ習慣になっちゃってるだけだから。」

海斗「…習慣、か。」

海斗は何かを頭で整理しているのか、涙が引っ込んでいき落ち着きを取り戻してきた。

悠「次の恋人が嫉妬するほどの習慣作りなよ。」

海斗「次を選ばせない習慣を俺は作る。」

海斗とまた目が合った悠は一瞬驚いて表情が固まったけれど、頑張ってと一言言って教室を去っていった。

将「…悠ちゃん、何者?見る目変わったわ。」

明「同い年…、だよね?」

奏「女の子ってすご…。」

悠のお言葉に圧巻の3人が悠が去った扉を見たまま目を離さない。

こんなにも面白い奴だなんて知らなかったな。

俺は今度永海と一緒にでも飯に誘って話をしてみようと思いつつ、忘れかけていたケーキをみんなで一緒に食べた。




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