一なつの恋

環流 虹向

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明日、東京に帰るために家中の掃除し終えた俺たちはレジャーランドの帰りに寄ったスーパーで購入した地ビールを冷蔵庫から出す。

明「このビール、はちみつの香りがするんだって。」

将「ビールなのに甘いのか?」

海斗「多少苦味はあるだろ。」

奏「甘めだと嬉しいけどなぁ。」

明はどこかの広告を見たのか、ビールの情報を教えてくれた。

そういえば姐さんの石鹸もはちみつだったなと思い出し、俺は酒を呑む気が失せて少し割高なつまみ缶を皿に盛り付けながら気を紛らわせる。

…あの日、俺が嘘のような告白だけをしていれば姐さんはまだ俺と一緒にいてくれる道を選んだのだろうか。

夢衣「一…?大丈夫?」

と、音己ねぇとソファーでだらけていたはず夢衣が俺の隣にやってきて機嫌を伺ってくる。

一「冷えた肉ってなんでこんなに不味そうなんだろうなって。」

俺は手元にあったつまみに文句をぶつけて自分の想いが勘付かれないようにする。

夢衣「お熱で生きてたからだよ?」

夢衣は俺の質問に不思議そうに返す。

夢衣「冷えたら全部固まって動かなくなるから死んじゃうの。」

そう言って夢衣は俺が盛り付けたつまみを電子レンジに入れて温め出す。

夢衣「冷たいのを一気に温めたら爆発するけど、ゆっくり温めたらホワホワで美味しい角煮の出来上がり♡」

そのまま夢衣は音己ねぇのいるソファーに戻りTVを見始め、俺はだらけてる2人を見ていた目線をレンジに戻す。

いつも1600wの電力で使ってるレンジだったけど、さっき夢衣が手早く設定した設定は300w10分。

絶対いつもの方が手短に出来るけど、爆発はするしところどころ乾燥したりすることを夢衣は知ってたらしい。

俺は姐さんが一目惚れしたと思った夏に取られまいと、勝手に姐さんへの熱を強めてしまったから姐さんの気持ちが俺の熱に耐えきれなくなってしまったんだろう。

病気や秘密があっても俺は姐さんが好きだから一緒にいたいって思ったのに、会わないと思わせてしまうほど気持ちを乾かせてしまった。

もっとゆっくりと気持ちを温めさえすれば結果が変わったのかと考えるけど、分からない。
けど、今も好きなタイミングでメッセージや電話を出来たことは確かなんだ。

自分だけの都合で進めてしまう恋は恋なだけで、愛を2人で添え合う恋愛とはまた別ものだったことを俺は気づいてあげられなかった。

もし、もう1度姐さんと会うことがきるなら自分の好きだけで行動しないから。

神さま、俺に1回だけチャンスをちょうだい。

俺は角煮の神さまにお願いしながら電子レンジから温まったつまみの盛り合わせを取り出し、だらけている2人の元に持っていく。

音己「取り皿。」

夢衣「むーこ、行ってきます!」

夢衣はすぐに食べたいらしく駆け足で皿を取りに行く。

俺は空いた音己ねぇの隣に座って熱々の角煮をつまんで食べる。

一「…美味ぁ。」

いつも以上ゆっくりと温められた角煮はどこも乾燥してなく、タレがしっかりと染みていて味蕾が喜んでいるのが分かる。

音己「私も。」

と、音己ねぇは自分の口元を指して入れろと目線で訴えてくるので俺は1口放り込んだ。

一「音己ねぇは残っちゃうの?」

俺は誕生日に聞いた話を角煮の美味さで緩んだ笑顔を見て思い出す。

音己「帰るよ。」

一「え?本当に?」

俺はいつも決意の硬い音己ねぇが答えを変えたことを驚く。

音己「水曜日、出かけるんだろ。」

一「…え、うん。」

音己「…行きたくないのか。」

音己ねぇは小さいため息をつき、TVのチャンネルを選び始める。

その少し残念そうな顔をする音己ねぇが不思議しょうがない。

まさか、俺の約束のために帰ろうと思ってくれたのか?

一「俺、食べ歩きしたい。」

俺は音己ねぇが好きそうなことを提案してみる。

音己「…浅草。」

音己ねぇはTVを見たまま、そう呟いた。

一「うん。浅草、水曜日行こう。」

俺は約束と言って指切りげんまんをする。

久しぶりに掴んだ音己ねぇの小指はあの日より長くなっていたけど、俺も同じ分成長してしまったから指が回りきっていない。

それが今の音己ねぇと俺の距離感な感じがして少し寂しくなったけれど、一緒に帰ってくれる事の方が嬉しくて俺ははちみつ姐さんの味がするビールに呑まれる事なくみんなと美味しく酒を楽しめた。




→ ハチミツ
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