一なつの恋

環流 虹向

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腹を蹴られた痛みで目を覚ますと、俺の隣で寝ていたはずの海斗を通り越して奏が俺の隣に寝ていた。

かすれ目を下に向けて腹を見ると奏の膝が俺のみぞうちに触れていた。

朝方までみんなとシアタールームで見ていた海賊戦記のエンドロールがスクリーンにまだ映っていることに俺は気づき、目だけでリモコンを探していると背後から誰かが抱きついてきた。

確か俺の隣は海斗と明だったはず。
けど、明は寝相がいいはずだったけどな。

俺は抱き枕になったまま寝たくはなかったので後ろを振り返り、明を起こそうと頭を抱き潰していると俺の知ってる明の匂いがしない。

明は髪の毛が痛むのが嫌で自分のシャンプーをわざわざ持ってきていたから、俺たちと同じ香りはしないはず。

俺は寝ぼけてピントが合わない目で自分の腕の中にいる人の顔を見ようとゆっくり腕を離すと、その人は顔を上げて少し苦しそうに呼吸をしてゆっくりと目を開けて俺と目を合わす。

一「…音己ねぇ?」

俺は顔を真っ赤にして目を潤ます音己ねぇにクギ付けになり、緩ませていた手を止める。

音己「…てた。」

音己ねぇは1番近くにいた俺にも聞こえない声で何かを言った。

一「え…、なに?」

音己「離、してっ…!」

と、音己ねぇはみんなが起きないように小声で俺を突き放そうとする。

けど俺は音己ねぇから抱きついてきてくれたことが嬉しくてまた顔を抱きしめて離れないようにする。

こうしていると昔、奏の家でお泊りした時を思い出す。

あの日は突然の豪雨と雷の音で寝れなくて奏と一緒に寝ようとしたけど、寝相が悪すぎて俺を突き放すし、どんなに雷の音がうるさくても奏は起きてくれなかった。

俺は外から聞こえる雨音と雷が父親が酔っ払って帰ってきた時、何か1つ気に食わないことがあるだけで暴れたことを思い出し怖くて寝れなかった。

俺1人で奏のクローゼットに隠れて耳と目を塞いで早く夜が明けて奏が目覚めないか待っていると、体全身が何か温かいもので包まれていることに気づき、目を開けると音己ねぇが涙を流しながら震える手で俺を抱きしめてくれていた。

きっと音己ねぇも怖くて俺たちの部屋に来たんだろうけど、奏は起きないし俺はいないしもっと恐怖を感じたんだろう。

俺はそんな音己ねぇを守らなきゃと4歳間近の年齢で思い、音己ねぇの部屋でこうやって頭を抱きしめて寝た。

その温もりはいつも1人で寝ていた俺には感じたことない温もりで、どんなに雷が落ちようとも側にいてくれる温かさを感じながら眠りにつけたんだった。

一「…怖いね。」

俺は聞こえない豪雨と雷の話をすると音己ねぇは俺の腕の中で頷いて、離そうとしていた腕を戻しあの日のように俺のシャツを力強く握る。

一「おやすみ。」

俺は自分から感じにいった久しぶりの音己ねぇの温もりを抱えながらまた眠りにつく。

その中でシャンプーの香りに使われているひまわり畑の夢を見た。

合宿で見たあのひまわり畑ように全てのひまわりが俺をそっぽを向いてどれも俺を見てくれないとても寂しい夢。

けれど突然足元からひまわりが勢いよく咲き、俺の顔を見上げるように咲いた小さいひまわりを俺はしゃがんで眺めようとすると、そのひまわりは急に成長を早めて俺の鼻下2㎝まで伸びた。

俺はびっくりしたけれどその成長が愛おしく感じて俺は目を閉じて優しくキスをする。

目を開けてもう1度ひまわりを見ようとすると、目の前には誰かのおでこがあって思わず声を出して驚く。

「…な、に?」

と、俺の声でみんなが起き出して俺は慌てて音己ねぇを腕から離し、起き上がる。

俺、やっちゃったか…?

でも、あれは唇じゃなくて鼻だったはず…。

俺が自分の記憶を整理しているとみんなは朝飯や今日行くレジャーランドの準備をし始める。

すると隣で寝ていたはずの明が体を起こしながら、吐息を漏らし体の痛みと戦う。

一「どうした?床で寝たからか?」

明「なんか全身に鈍痛が…。」

きっと音己ねぇか奏の寝相にやられたんだろう。

奏は全身で寝床を這いずり回って最後には音己ねぇの脚を抱き枕にしていたし、元々1番端で明の隣に寝てた音己ねぇは脚グセが悪いから蹴られた可能性がある。

一「千空姉弟の隣で寝ると明日が来ない可能性がある。」

明「…確かに。合宿の時、ベッドから落とされてたし。」

明は痛みに耐えながら立ち上がり、着替えにいった。

俺は1人残ったシアタールームでタオルケットを畳んでいると、その様子を夢衣がこっそり覗いていたことに気づく。

一「どうした?」

夢衣「…おはよ。」

夢衣は少し気まずそうに俺に挨拶をしてくれる。

その不器用さが幼い時の俺と似ていて思わず笑っていると、唇を突き出しむくれた顔をする夢衣。

俺はそんな夢衣にタオルケットを片付けるのを手伝ってもうことにして隣に座らせる。

夢衣「ひーく…、一はまた私と遊んでくれる?」

と、夢衣は聞いたことない弱気な声で俺に質問してきた。

一「夢衣に一って呼ばれるの変な感じ。ひーくんでもいいよ?」

夢衣「ううん…。やめる。」

そう寂しそうに言って、畳んでいたタオルケットを握りしめる夢衣。
きっと、過去の自分と決別するために変わろうと思ってるんだろう。

一「そっか。…俺はちゃんと側にいるし、夢衣の友達だから遊ぶよ。」

夢衣「ありがと。…帰ったら1番に遊んでほしい、な。」

一「いいよ。何したい?」

夢衣「おうちで映画見たい。」

そんなのでいいのか?
そんなのいつでも出来るのに。

一「分かった。月曜の仕事前でもいい?」

夢衣「…うん!」

夢衣は嬉しそうに微笑んでまたタオルケットを畳み出す。

いつもは飛びついてきたり、腕を組んできたり、キスをしてきたりした夢衣だったけれど、隣にいる夢衣と俺の間には畳まれたタオルケットが積み重なっていく。

見るとタオルケットの1枚目を置いたのは紛れもなく夢衣だった。

一「畳むの下手くそ。」

夢衣「えー…?また使うからいいじゃん。」

と、端が乱れたタオルケットを見ても夢衣は気にせず畳み終えて部屋の隅に置いた。

俺たちは変に体をぶつけ合わないよう、タオルケット1枚分の距離を保ったまま朝飯があるキッチンに向かい盛り付けを手伝った。




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