一なつの恋

環流 虹向

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陽射しを強く感じて目を覚ますと、俺たちは身を寄せ合って外で寝てしまったらしい。

一「起きろ!朝来てる!」

俺は奏たちを叩き起こしながら散らばった缶と瓶を拾い集める。

明「…暑いぃ。」

奏「ベタベタなんだけど…。」

記憶を無くしている2人は呑気に起き上がり、自分の身の回りにある空になった酒缶に驚く。

一「家入る前に水浴びしよ。」

海斗「一、顔にアリついてる。」

将「アリ塚になったか?」

と、虫だらけの俺に驚く2人。

俺は虫と草を取り払いながら片付けを終えて寝ぼけた頭の4人を急いで連れ帰り、玄関前にあるホースで水浴びをしてまだ起きてないと信じる音己ねぇと夢衣に見つからないように全裸でバスルームに直行する。

将「さすがに5人で入ると狭いな。」

奏「こんなの想定して作られていないよ。」

明「頭まだかゆい気がする…。」

海斗「何度も洗っても新しい汚れが出てくるな。」

一「アリしか出てこない。」

俺たちは外で寝てしまった代償を取り払うために必死で洗い、30分の格闘を終えて風呂場から出ると起き抜けの音己ねぇが俺たちが濡らした床を足で器用に拭いていた。

音己「今日は上裸の日か?」

と、音己ねぇはタオルを巻いた俺たちを見て首を傾げる。

一「今日は音己ねぇの誕生日。」

明「おめでとうぅ!」
将「はぴば!」
海斗「おめでとうございます。」
奏「誕生日おめでとう。」
一「おめでとう。」

俺たちが一斉に音己ねぇに祝いの言葉を言葉をかけると音己ねぇは真顔を崩さずに1度頷き、ありがとうと言った。

音己ねぇの誕生日だけは絵を休んで、1日中全員で遊ぶことにした。

俺たちは音己ねぇに床拭きを止めさせてゆっくりしてもらおうとすると、音己ねぇは俺たちが玄関に放り投げてた水浸しの服を片付けようとする。

こういう日に限って誕生日の人がいろんな所に目がついて行動してしまうのって何で何だろうなと思いながら、俺たちの洗濯と床掃除を終えて自分の部屋に服を取りに行くと夢衣はまだ俺のベッドで寝ていた。

俺は音己ねぇのための買い物にいつでも行けるように外出用の服に着替えて夢衣を起こす。

一「夢衣、今日は俺たちとケーキ作るぞ。」

夢衣「…ケーキぃ。」

一「料理がまともに出来るの夢衣と海斗しかいないから手伝ってくれ。」

夢衣「はぁいぃ…。」

夢衣はまだ寝ぼけてるのか、目をつぶったまま返事をしてまた寝息を立て始める。

数回肩を揺らすけれどまだ寝足りないのか、全く起きてくれないので俺は当番の朝飯を作りに行くと将が残った米でチャーハンを作り始めていた。

俺は将に指示された通りにウインナーとネギを切っていると急に後ろから誰かに抱きつかれる。

「なんでいないの?」

と、俺の背中から夢衣の声が聞こえた。

一「当番だから。」

そう言うと夢衣は小さく唸りながら俺の腹を締め上げてくる。

将「あとは俺が火入れるだけだから、自由にしてていいぞ。」

将は夢衣に気を使ったのか、俺にそう言って切った具材を卵と和えた米とフライパンの中で一緒に混ぜ合わせる。

一「…じゃあ出掛ける準備しとくか。」

俺は抱きついたままの夢衣を部屋に連れて行き、服を着替えさせようとするが離してくれない。

一「今日は忙しいからダラダラ出来ないぞ。」

夢衣「ひーくんといるの。」

一「分かったから。明に借りたワンピース着るか?」

俺が夢衣のカバンを漁っていると、1つラッピングされた袋を見つけた。

一「音己ねぇの誕プレ用意してたんだ。」

夢衣「初めて会った日に教えてもらったの。…ちゃんとしたの用意したかった。」

意外と人に気を使えるところもあるんだなと感心してると、夢衣はゆっくり俺の体から離れてベッドに横わる。

一「寝るなって。」

夢衣「なんで内緒するの?」

一「いや、俺が言い忘れてた。ごめん。」

夢衣「…ひーくん忘れん坊なの、やだ。」

と、夢衣は布団に顔を埋めて動かなくなる。

自分でも好きに忘れてるわけじゃないけど、そうしていないと今がどうしようもなくなるからそうしてるとは言えずに俺はベッドに浅く腰掛ける。

一「小さい頃からずっと忘れっぽいんだ。…俺のおでこにある傷、見ただろ?」

夢衣「…うん。」

俺の質問に答えて、布団と自分の落ちる髪の毛の間から緩く俺の目を見てくる夢衣。

夢衣はあの時初めて見たから驚いたはずなのに、昨日から何も言ってこないことに俺は驚いていた。

一「自分の部屋の窓から落ちてこの傷が出来て以来、他の人よりモノボケが激しいんだ。覚えてたことも不意に忘れるから夢衣に言い忘れてたんだと思う。ごめんな。」

俺は夢衣の落ちた髪の毛をかきあげてしっかりと俺を見てくれるようにする。

夢衣「だからいつも顔潰しながら寝るの?」

一「あんまり人に見られて気持ちいいものじゃないし…。」

俺は傷が出来てからうつ伏せに寝るようになって、心の底から隠したいって思うようになってからは自然と傷を隠すように左の顔を布団に当てて寝るような体勢で寝るのが癖になっていた。

だからどんな女にも友達にも見せてこなかったけど、夢衣や海斗たちに昨日見られてしまった。

けれどあの時、誰も俺の傷に触れることもなく俺の無事だけを喜んでくれたことにすごく嬉しくなった。

肉をえぐるように少しへこんでいる俺の額の傷は、俺の可愛げのあると評判なタレ眉さえも半分なくすほど大きくて人に見せられるもんじゃない。

傷を人に見せた途端、大勢が俺を好奇の目で見てくるのが嫌でずっと隠し続けてきた。

俺のまともな考えじゃない意見を真剣に聞く海斗にも、俺と似たような経験がある明にも、見た目に惑わされない将にも、俺しか見ない夢衣にも。

俺はみんなを失いたくなくてずっと偽の自分を見せてきた。

けれど昨日、本当の俺を見られてしまってみんないなくなってしまうと思ったけど、昨日も今日も変わらずに俺と話をしてくれるし笑い合ってくれるのがすごく嬉しい。

これが本当の友達なんだなって思った。
だからこの場にいるみんなには傷を隠すことはなくなった。

今日からみんなの前で傷を気にせず過ごせることが俺は嬉しくてしょうがない。

一「けど、夢衣にはもう見られたから隠さなくていいな。」

俺が夢衣に笑いかけると夢衣は嬉しそうに顔が緩み広角が上がる。

夢衣「ひーくん、好きだよ。」

そう言って夢衣は体を俺に向け、抱きついてくる。

一「うん。俺も。」

俺は脚の上に頭を乗せる夢衣を撫でて、見つめ返す。

その夢衣の目は俺に告白が成功した時にしていた虹が見えそうな綺麗なアーチをしてる目で、俺はその目を見てから夢衣のことが好きになったことを思い出した。

一「着替えて飯食おう。」

夢衣「うんっ!」

夢衣は俺が選んだワンピースを着て、一緒に朝飯を食べに向かった。




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