一なつの恋

環流 虹向

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『ひとぉ…、どうぢぃよぉおおぅ…。』

今日は奏と海斗が昼からバイトだから午前中で作業を終え、家へ帰っているところに明から緊急コールがかかってきた。

一「どうしたー?」

明『ちゅーしされてた。』

一「しされてた?日本語、話せ。」

明『俺、昼飯の当番でかーちゃんのお手伝い1番乗りしようとしてみんなより早く行ったら、栄美先生にかーちゃんがちゅーしてるの見ちゃったぁ…。』

鼻水をすすりながら布団にもぐる音が聞こえる。

やっぱり好きじゃないってのは嘘だっだらしい。
まあ、あんなに愛おしそうに見つめてるならそうなるのは必然だろう。

けど、栄美先生にはバレたくなさそうだったのに何でそんな行動を海阪先生はとってしまったんだろう。

一「栄美先生は大喜び?」

明『ううん。なんか寝てたみたいで全く反応なかった。かーちゃんもその後普通に昼飯の準備始めてたもん。』

寝てる間に好きな人の唇奪うって、相当自分の気持ちを押させるのに必死なんだろう。

一「緊急はそれのこと?」

明『もういっこぉ…。』

明は次の話をしようとすると少し声に張りがなくなっていく。
今の話よりショックなことがあったんだろうか。

明『俺はブレークンハートして、手伝いもする気になれなくて1人で部屋に帰ってふて寝してたんだ。』

一「…まあ、ショックだもんな。」

明『うん。それで誰が呼びに来てもタヌキ寝入りかましてやろうと思って、目瞑って片耳でミリヤ様メドレー聴いてたら肩揺すられたんだ。』

俺の周りには信者が多いらしい。
俺はミリヤ様に尊敬の意を表そうとアルバムやシングルを眺めながら明の話を聞く。

明『それから顔を埋めてた布団を取られて、寝たふりしてた俺に将がちゅーしてきた。』

一「…え?」

俺は夢衣が歌っていた曲を見つけ、自分のプレイリストに追加していたところで脳の処理が追いつけない。

明『将がちゅーしてきた後、俺の名前呼んで好きって言ったんだ。俺…、びっくりして布団被っちゃった。』

一「…そのあと将は?」

明『布団の上から俺の頭撫でて昼飯作りに行った。』

俺は頭の中で明に説明されたことを再生するが、うまく想像出来ない。

明『…寝込み襲うのが流行ってるの?なんなの?』

明が悶えながら布団の上で暴れる音が聞こえる。

一「将はいろんな人に好きって言ってるからな。」

明『それでもちゅーするかなぁ…。』

少し前に顔がタイプだと言っていたけど、恋愛対象として好きなのか、友達として好きなのか、よく分からなくなってきたな。

一「…まあ、俺も遊び仲間とキスすることあるよ。」

明『そう…、なの?』

明は暴れるのをやめて俺の話に耳を傾ける。

一「ご機嫌とりのためにしてるから、将も明の泣き顔見て機嫌直そうとしてくれたんじゃない?」

明『…そうなのかな。』

一「海外でも親子同士、唇にキスしてるじゃん。親交の証だと思う。」

…まあ、よくこんなペラペラと嘘が吐けるよな。
本当に十何年も嘘をついてきた甲斐がある。

明『そっか…、そっか。』

明は自分に俺が話したことを言い聞かせているのか、しばらく黙り込む。

一「…男同士でも女同士でもキスする時はするし、それが全部恋愛感情があってするものでもないから深く考えなくてもいいと思う。」

俺の勝手な意見。

俺は明と将とずっと仲良くしていたいし、これからの旅行もコンクールの絵も遊びも一緒にしたいから自分の頭をフルにして嘘をつきまくった。

明『あぁー…あ、俺の初ちゅーは将かぁ…。』

ため息をつきながら明が起き上がる音が聞こえる。

一「そうなの?」

明『付き合うけど、手繋ぐだけで終わるんだー。』

と、乾いた笑いをしながら明は初めて過去の恋愛話をしてくれた。

過去の色恋沙汰を話してこなかった明の言葉に俺は耳を傾ける。

明『ありがたいことに何人か告白してくれて付き合ってみるんだけど、俺の見た目が女の子だからどうしても無理ってなっちゃうんだって。…そんなに大差ないのにね。』

一「明からはしたことないんだ?」

明『しても、フラれるんだ。…まあ、分かってる事なんだけどさ。俺はその子に合わせるほどの好きな想いはなかったって事だね。』

一「なんで明が合わせる必要があるんだよ。」

明『男は男っぽい格好しないとモテないでしょ?海でも将の筋肉モテてたし。』

一「モテるならな。でも自分じゃない自分を好かれても嬉しいことはない。」

明『まあ、そうだね。…俺、このままでいるよ。』

一「俺はどの明も好きだよ。でも、自分を失った明と側にいる自信はあるけど好きでいれる自信はない。」

明『ありがとう。俺でいるよ。』

一「うん。…大丈夫そう?」

明『昼飯は抜いて夜までゆっくりすることにした。将に今会ったら顔見れないや。』

一「そうだよな…。まあ、今日くらいゆっくりしとこう。」

明『うん。電話ありがとね。』

一「またしたくなったら電話して。」

明『する。ありがとう。』

俺は明との電話を終えて夜の合コンに向け、準備をすることにした。




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