一なつの恋

環流 虹向

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なんだか、久しぶりに学校に来た気がする。

自分の中で数日が1ヶ月分の時間だったかのように、いろんなことが起きた気がする。

俺はなんとか思い出さないようにしていたけど、やっぱり数秒前に起こってしまったような気がして涙が溢れてくる。

俺は色を塗りながら涙を流しては奏が隣に来て、みんなから顔を隠してくれる優しさにまた涙する。

そんなことを数時間もしていると、みんな不信がっても仕方がないのに必要以上には声をかけてこない。

昨日、泣きじゃくっていた明も目を腫らしながら目の前の絵に真剣に向き合っている。

死んだら殺すと言って泣きながら怒っていた将も色作りにしっかり集中し黙って作業をしている。

真っ青な顔で俺を1番に抱きついてきた海斗は明の乗ってる三脚を押さえて倒れないよう見守っている。

お帰りと泣きながら笑顔で迎えてくれた奏は俺の隣で静かに色を重ねていっている。

俺だけが雑念混じりに絵を描いてしまっていいのだろうか。

そう思って、俺は手を止めてしまう。

奏「…疲れた?」

一「…ちょっと。」

奏「昼だし、一旦休憩いれようか。」

奏は深呼吸しながら軽いストレッチを始める。

明「栄美先生に教室冷やしてもらったらそこで食べよー。」

将「デリバリーするか。」

明「いいね!頼もっ!」

俺が壁に寄りかかり座って休んでるところにみんなが集まり座る。

明が携帯でデリバリーアプリを開いて全員が見えるように画面を流していく。

相談の結果、全員一致で韓国料理になったけれど俺はそんなに食欲が湧かなかったので奏と同じスープを頼むことにした。

俺たちはデリバリーが来るまで教室で待つため、エレベーターで下の階へ降り教室に入ろうとすると扉のガラスに人影が見えたので入る前に覗いてみる。

すると教室の中には、窓辺で本を読んでいる海阪先生を栄美先生がデッサンしてた。

明「かーちゃん、綺麗だね。」

将「美女と本。最高の構図だよな。」

海斗「廊下暑いから入ろう。」

奏「邪魔していいのかな?」

みんなが2人の様子を見て盛り上がれているのに俺は輪に入りきれなかった。

あの2人みたいに付き合えなくても一緒にいられるだけで幸せと思えるのも1つの付き合い方だったはずなのに、恋人という付き合い方がゴールだと思ってた俺は自分の意思を姐さんに押し付けすぎたのかもしれない。

俺がそんなことを考えていると4人が騒いでるのに栄美先生が気づき、扉を開けた。

栄美「何やってるんだ?」

入れと怒る素振りもなく俺たちを教室に入れ、また海阪先生を描き始めた。

栄美「飯は?」

明「出前で豪遊です!」

栄美「羨ましい…。俺もしてぇ…。」

海阪「あと3日。100円で過ごさないといけないらしい。」

と、海坂先生は本をから目を離し、俺たちと目を合わせて話してくれる。

将「えぐっ…。この間、散財しすぎたんですか?」

栄美「俺の失態だ。しょうがない。」

栄美先生は悔しい表情をしながらも描く手は止まらない。
それほど夢中になれているんだろう。

奏「なんで海阪先生描いてるんですか?」

栄美「言わせるな、馬鹿野郎。」

栄美先生は嬉しそうににやける。

海阪「遺影用。」

と、冷たい冗談であしらう海阪先生。

そんな冗談なんか言わないで素直になればいいのに。

栄美「恵美さんが似顔絵描いてくれたら5000円くれてやるって。」

将「美人を合法で眺められて5000円貰えるって天国部屋ですね。」

栄美「だろ?今日は夜まで描くぞー。」

その言葉に海阪先生は呆れてため息をついてまた本を読みだした。

俺も姐さんの顔、描こうかな。

写真は好きじゃないって撮らせてくれなかったし、忘れっぽい俺が忘れないようにする1つだけの方法は描くことだけだからそうしよう。

俺は仕事前に近くの画材屋に行くことを決めてその場の雰囲気を楽しむことに専念した。





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