一なつの恋

7/21

22:00

「ただいま。」

俺は砂が入った靴を脱ぎ捨てて部屋に入ろうとすると天が飛びついてきた。

天「なんで風邪なのに1日中、外出るの！？意味わかんない！」

力強く俺を抱きしめて離してくれない天。

一「…ごめん。風邪移したくなくてホテル泊まってた。」

天「そんなの気にしないから！兄妹は風邪移すの当たり前なの！」

一「…分かったから。天のオムライス食べたい。」

天「 …温めるね！」

天はぎゅっと力を一瞬入れて俺から離れ、冷蔵庫に入っていたオムライスを電子レンジで温める。

俺はその間に、奏たちの汗と涙と鼻水でびちょびちょになった服と体を洗うためにシャワーを浴びて天が用意してくれた晩飯の前に座る。

一「いただきます。」

天「どうぞ、召し上がれー。」

天は俺が食べる姿を嬉しそうに見てくる。

それが少し恥ずかしく感じて宿題でもしろと言うと大半の物は終わったから余裕と言った。

もともと勉強の出来は悪くはないから簡単に出来てしまうんだろう。
俺は夏休みが終わってもやらなかったから教科ごとに怒られたことを思い出した。

一「…そうだ。尚春先生に会えたか？」

天「会えてないよー…。毎日2冊読んで返しに行ってるのに。」

一「まあ、まだ始めたばかりだからな。気長にやってけ。」

天「あーんっ！尚春先生今何してるかな？」

THE 恋する中学生ライフをしている天がちょっと羨ましくなり、俺は少し意地悪をすることにした。

一「合コンとか？」

天「…ひぃ兄ひどいっ！」

天はその場に寝転がり拗ねた顔をする。

一「本気で好きなのか？」

天「…好きだもん。」

天は俺の質問で目を潤ます。

生徒と教師で付き合うなんておとぎ話、誰が現実でやるんだと思っていたけど生徒は大人の余裕に惹かれるもんだよな。

俺も姐さんが告白をするりと交わす余裕があるのがすごい大人っぽく見えたっけな。

俺はまた姐さんのことを思い出して目を潤ましていると、充電していた携帯が自動的に起動したのか通知音が鳴りまくる。

俺は驚きながらも携帯を取ると夢衣からの電話とメッセージがいっぱい来ていた。

俺は慌てて夢衣に電話をかけるとワンコールもしないうちに夢衣は電話に出た。

一「ごめん。電池切れてた。」

夢衣『もういいもん。友達と遊ぶ。』

一「友達いないって言ってたじゃん。」

夢衣『今から作りに行くの！』

友達って言っても一夜だけの友達だろ？
酒を呑んで、ハメを外して、良いように扱われてしまうのが目に見えるじゃん。

それで自分が何度も傷ついたのを知ってるのになんで行こうとするんだよ。

一「待て！行くな！…今からそっち行くから。酒も買ってくから家で待ってて。」

夢衣『1時間以内に来なかったら行くから。』

一「分かった。走っていく。」

俺は電話を切ってすぐに荷物をまとめる。

天「どこいくの？」

と、天は俺の事を心配そうな目で見てくる。

天は夢衣とは数回会って遊んだことがあるけど、狂気性に気づいているかは分からない。

一「夢衣のとこ。明日、残した分食べるから入れといて。」

俺はそう言って玄関で靴を履いていると腰に天が抱きつく。

天「…ひぃ兄。夢衣ちゃんと会って大丈夫なの？」

一「俺が行かないと夢衣が壊れるから。」

天「ひぃ兄は？」

一「俺は…」

天にそう聞かれて言葉に詰まる。

今、1番会いたくないと思うのは夢衣。
自分を見失いかけた次の日の夜に会いにいくなんて自殺行為に近い。

けど、夢衣は俺を求めていて今日会いに行かなかったらまた傷が増えてしまう。
自分への一時的な快楽が一生体に残ってしまうなんて誰だって嫌だろう。

俺はそうしたくないから体に傷が出来ない行為をして快楽を得て自分の寂しさを補ってる。
自分でそう分かってるから夢衣の元に行ってあげないといけない。

一「俺は大丈夫。夢衣は俺を今頼りにしてるから行ってあげないと。」

俺は天の腕をほどき扉に手をかける。

一「みんなの浴衣、楽しみにしてる。」

行ってきます、と天に言って俺は夢衣の家に向かうために駅に走った。




→ Jealous Of My Friends