一なつの恋

環流 虹向

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「やだ。今日も一緒に寝よ。」

夢衣は帰ろうとする俺の体から離れてくれない。

一「酒も呑んだし、やる事やっただろ?そろそろ家に帰らないと…」

夢衣「…彼女いるの?」

夢衣が不機嫌そうに聞いてくる。
いてもいなくても夢衣には関係ないのに。

一「今、妹が家に来てるんだ。だから面倒見ないと…」

夢衣「天ちゃん!私も会いたい!」

夢衣が立ち上がり、近くに投げ捨てた服を拾い始める。

なんで会う前提で出かける準備始めてるんだ?

一「天は今、俺より忙しいから遊べないぞ。」

夢衣「えー…?中学生なんか遊び盛りじゃん。」

一「夏休みの宿題と浴衣の課題があるから無理だと思う。」

夢衣「浴衣?そんなの宿題で出された事ないよ。今の中学生って大変だね。」

一「浴衣は天が自分で作ってるだけ。」

夢衣「え!?天ちゃん、独学で浴衣作ってるの?すごい!」

一「だから邪魔してやるな。」

えー、と言いながら行く気がなくなったのかシャツだけ着て半裸のままベッドに泳ぎに行く夢衣。

夢衣「…私の浴衣も作ってくれるかな?」

一「あー…、聞いてみるか。」

俺は天に電話をしてみると、まさかの半コールで出た。

天『はい。今、宿題やってます。』

あいつらと間違えてるらしい。
きっとこの2日で何度も連絡を入れてくるのだろう。

一「お疲れ。あのさ…」

天『あ!ひぃ兄!いつ帰ってくるの!?』

俺の声に驚きながらも少し怒って俺の帰宅を待つ天。
昨日帰るはずだったから怒られてもしょうがない。

一「もう帰る。あのさ、夢衣って覚えてる?」

天『確か、ひぃ兄の1番可愛い元彼もとかのさんでしょ?』

一「まあそんなとこ。夢衣が天に浴衣作ってほしいって。」

夢衣「天ちゃーん♡おひさぁー。」

夢衣が俺の電話の横に頭を寄せて話し始める。

天『夢衣ちゃんの声だ!より戻したんだね、おめでとうっ!』

一「戻してない。で、作れそうか?」

天『え?そうなの?…うん!作れるよ。』

天は少し困惑した声で俺にそう答えた。

天の歳だった時の俺でもきっとこの状況に困惑するだろうな。

一「作れるって。」

夢衣「やったぁ♡天ちゃんありがとう!楽しみにしてるね。」

天『はーい!女の子の浴衣作りたかったから嬉しいぃ…!』

一「じゃあ、また後でな。」

天『はーい。』

俺は携帯をポケットに入れて合宿の時に持っていったキャリーケースから、メージャーを取り出し夢衣のサイズを図って天に送信する。

夢衣「ピンクの浴衣がいいー。」

一「言っとく。あとなんかある?」

夢衣「フリル付いてるの可愛いと思う!」

一「そんな凝った浴衣出来るか分からないけど言っておく。」

俺はメジャーをしまいながら家を出る準備を始める。

そろそろ電車がなくなるから早く出ないと。

夢衣「…帰るの?」

と、まだ夢衣はだだをこねる。

一「帰るよ。朝になったら今日食べれなかったエッグのやつ食べに行こ。」

夢衣「1人じゃ寝れないよ。」

一「前は寝れただろ?甘えるな。」

夢衣「ううぅ…。1人嫌なんだけど。」

靴を履き始める俺を夢衣は後ろから抱きついてきてまた離してくれない。

一「1人で何かする時間も必要なんだ。風呂沸かしといたから長風呂すればいいじゃん。」

俺は合宿の土産で買った入浴剤と顔パックが置いてあるローテーブルを指した。
けど、夢衣はそれでも不服そうな顔をして離してくれない。

夢衣「…1人やだ。」

一「…俺も1人の時間、好きじゃないよ。けど、俺とだけの時間ばかりじゃだめなんだ。明日は夢衣のやってみたい事見つけよう。」

俺は振り返って夢衣の頭にキスをする。

一「明日は朝から夕方まで一緒にいられるから、少しだけ自分の時間作ろう?」

俺は夢衣の手を引いてしゃがんでる所を立ち上がらせる。

夢衣は口を尖らしながらも俺の話をちゃんと聞いて整理しようとしていた。

夢衣「…何時に来るの?」

一「夢衣は何時に起きようと思ってる?」

夢衣「んー…、7時くらい。」

一「夢衣が起きる前にここに来るから。ゆっくり寝て美味い朝飯一緒に食べよ。」

夢衣「…分かったよぉ。」

まだ納得はしてない様子だけれど、OKしてくれたことに一安心する。

一「明日ね。おやすみ。」

夢衣「…おやすみ。」

夢衣は名残惜しそうに俺に手を振って静かに家の鍵を閉め、俺はキャリーケースを引きながら急いで駅に向かった。




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