一なつの恋

環流 虹向

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 放課後、奏の家でずっと模写や構図の練習をしていると将のスタミナが切れたので、1度夜食休憩を挟むことにした。

3人で1階に降りると奏の4つ上の姉ちゃんがリビングのソファーでダラダラと過ごしている。

奏「音己ねこねぇー、なんかある?」

音己「ない。」

全く俺たちの方を見ずに大画面のTVで流れている海外ドラマにクギ付けのまま、音己ねぇは尻トレをしている。

奏と将はキッチンに入って戸棚を開けて何かないか探し、俺は音己ねぇの側に行って尻トレを様子を見る。

一「音己ねぇ、ケツ鍛えて誰に見せんの?」

音己「見せるためじゃない。自己満。」

顔は美人なのに彼氏が出来ないのはこの冷たい言葉のせいだろう。
俺と出会って2、3年はいっぱい遊んでくれたのに今じゃまともに目を合わせてくれない。

一「どのぐらい育った?」

俺が音己ねぇの寝ているソファーに近づき、浅く空いていた腹の前に座ろうとすると音己ねぇの手で押し出されて尻もちをつく。

音己「今いいとこだったのに一のせいで見逃した。」

俺は自分の痛めた尻を撫でながら床に座り直し、巻き戻される映像を見てるとホラーでだいぶグロいドラマを音己ねぇは見ていた。

一「1人で見て怖くないの?」

音己「怖いよ。」

俺はそのまま背中をソファーに預け。音己ねぇの腹を枕にして頭を置く。

すると音己ねぇはいつものように俺の前髪を上げて、左眉からまぶたにかけてある傷を見る。

音己「治らんね。」

腹を枕にしたことはいつも怒らずに俺の傷が治ったか確認する音己ねぇ。

一「治ってこれだって言ってるじゃん。」

この時だけ音己ねぇは俺を見てくれる。

傷を見られるのは嫌だけど、音己ねぇがちゃんと俺を見てくれることが嬉しい。

俺を見てくれている音己ねぇはその傷をいつもつまんだりいじったりして遊ぶ。

さっき言っていた良い場面がどんどん過ぎ去っていくのに、それを気にせず音己ねぇが構ってくれるのが俺は嬉しい。

奏「一、パスタ食べるー?」

一「何味?」

奏「ペペロン。」

この時間にニンニクかよと思ったけど、2人が食べるならいいか。

音己「私、カルボ。」

奏「チーズないから無理。」

音己「買ってこいよ。」

奏「外出たくねぇからパスタになってんだよ。」

奏は若干苛立ちながら音己ねぇと話す。

いつも気分屋な音己ねぇに振り回されてるから呆れてるんだろう。

一「トマトは?」

俺はニンニク以外の選択肢がないか、聞いてみる。

奏「なにもないからペペロンなんだって。」

一「じゃあそれでー。」

音己「私のもー。」

その返事に奏は若干呆れながらパスタを茹でるための水を入れ、将がその隣でニンニクを切ってるのか、少し不規則な包丁の音が聞こえる。

一「ダイエットじゃないの?」

俺は尻トレ休憩中の音己ねぇに質問しながら脚についているゴムバンドを緩く弾かせて遊ぶ。

音己「今日はチートデイ。」

一「毎日がチートデイだろ。」

すると音己ねぇは俺の傷をいじるのをやめて、頬を力強くつねる。

音己「一は食べなさすぎだろ。皮じゃん。」

音己ねぇは俺の頬をつまんで遊び始める。

一「生きてるからOK。」

音己「食え食え。食えなくなったら食わしてやる。」

一「音己ねぇのヒモになっていいってこと?」

音己「100均のヒモか、シルクのヒモかによる。」

一「意味分かんない。」

音己ねぇは顔が綺麗なのに言葉選びが下手くそで理解するのに苦労する。
まあ、変な男が寄りつかないだけいいか。

音己ねぇのよく分からない話を聞きながらペペロンチーノが出来上がるのを待っていると、ドラマが終わり次の話にクイック再生されそうになるのを音己ねぇが止める。

一「見ないの?」

音己「こんなの見ながら食うパスタ、腸味だろ。」

音己ねぇは俺の好きな忍者のアニメにカーソルを合わせて見始めた。

一「好きなの?」

音己「好きだろ。」

そう言って、また音己ねぇは俺の傷をいじり始め、しばらくすると奏たちがパスタが出来たと伝えてくれる。

久しぶりに家庭料理を食べてちょっとだけ自炊する気になったけれど、自分の現状を思い出してやっぱり諦めてしまった。

腐らせるくらいなら買わない方がいい。
しっかりと扱ってくれる人の手に渡った方がその物自身のためにもなるから俺は最低限の物しか買わない。
そうすることにしたんだった。

俺は自分で決めていたことを思い出し、奏たちが作ってくれた家庭料理の味を噛み締めた。



→ 一寸の赤
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