一なつの恋

環流 虹向

文字の大きさ
上 下
5 / 188
7/2

7:00

しおりを挟む
どこかのゲロと、俺が座っているベンチの背後にある新緑深い木の匂いが混じっている。

匂いもどっかにスクラップ出来たら良いんだけどな。

そう思いながら俺は手帳に匂いの記憶と昨日の日記を書く。

『ゲロ×新緑の夏、ビアガーデンが始まってた。7/1→7/2 アイコン右の子と会った。ケツ満点。』

俺は手帳をカバンにしまって立ち上がり、背伸びをする。

今日は余裕の登校。
ゲロ臭い公園でカフェラテを飲む余裕さえあって、昨日の俺が嘘のよう。

そのままのんびりと学校に歩き出す。

朝が明けた繁華街のハイカラ町にはフラフラとした足取りの大人たちが駅に向かい、スタスタと歩くメイクが少しヨレたどこかの店の女は給料が良かったのかご機嫌な様子。

俺は人間観察をしながら学校への近道の路地に入る。

ここは人がいなくてスムーズに学校に迎えるけど、ネズミが多いんだよな。
しかも油と尿の匂いが室外機の熱気で俺の鼻をもぎ取ろうとする。

息を浅くして数分、大通りに出て深呼吸してあと少しで学校に着く道を歩く。

何度この道で朝日を見ただろう。
この朝日を見るときはいつも1人。

あの4人は夜の街が怖いと言ってあまり遊びたがらないから姐さんの店くらいしかいかない。

そう言う奏たちにそんなことないと、言えない記憶は俺の中にしっかりある。

俺だって毎晩のように女に喰われてる訳で、あの4人のウブたちがあそこに沈んだら一気に色づいてしまいそうだ。

…そうだ、姐さんのこと起こさないと。

俺はふと思い出した大切な用事をTODOリストに書き込み、通知が出るように設定していると、ちょうど担任の栄美えみ先生が校門を開けようとしていた。

一「おはようございます。」

栄美「日向か、おはよう。いつも早いな。」

一「栄美先生も早いですね。」

栄美「寝て良いもんだったら寝たいけどな。」

そう言いながら栄美先生は鼻をピクつかせる。

栄美「どこにいたらそんな匂いになるんだ?」

一「ハイカラ町通って来ました。」

栄美「朝まであんな街にいたのか?気をつけろよ。」

一「はーい。」

俺は栄美先生に手を振って、そのまま階段を登り教室に入る。

やっぱりあの路地入るのやめようかな。
着替えがいくらあっても足りない。

俺は予備の服に着替えて匂いのついた服を教室の脇にある水道で洗い、1番乾きのいい屋上に干しに行くと換気のためなのか扉が開きっぱなしだった。

屋上に出ると俺と同じクラスの彼方 夏かなた なつ間宮 沙樹まみや さきが座って談笑していた。

一「おはよー。」

俺は服を屋上の手すりに掛けて2人に挨拶をする。
すると振り返った沙樹の手にはお弁当があった。

沙樹「おはよう。やっぱり一くんは来るの早いな。」

一「2人こそ。朝弁?」

夏「うん。沙樹がお昼無いのに作ってきたから今から食べようって。」

一「…そうなんだ。俺もちょっともらって良い?」

俺は腹の虫が聞こえないように腹を抑える。

沙樹「いいよー。僕は朝食べて来てるから2人で食べて。」

一「ありがとう。」

俺は2人のピクニックにお邪魔して弁当の玉子焼きを1つ食べる。
久しぶりに店の味じゃないもの食ったな。

一「美味い。」

沙樹「ありがとう。一くんって自炊するの?」

一「しないな。店で食っちゃう。」

金には困ってない。親がまあまあ金持ちだから。
ブリーダーの母と警察官の父、そして6つ離れた妹が俺の家族。

1人暮らしを始めてからはあまり会ってない。
会うと小言が多い俺の親は俺を1人の人間として扱ってくれないから嫌いだ。

親の金でこの学校には通わせてもらってる。
それは感謝してる。

けれど、元はその金で有名大学に行かせようとしてた親。
それが叶わなくなったのは、俺が頭を打って左眉からまぶたにかけてぱっくりと大きい傷をつけてから人生がガラリと変わった。

記憶障害と顔の傷で俺の将来をゴミ箱に捨て、新しい子どもを作った。

それが俺の妹、てんが生まれた理由。

天は、俺の打つ前の脳よりも格段に才があった。
だから今もあの親と仲良しこよし出来ている。

俺は居場所のない実家を出てやっとしがらみから解放されたと思ったけど、連絡は来るしアポ無しで家に来ることがあったから外になるべくいるようにしてる。

沙樹「前髪、あげたらいいのに。」

と、急に沙樹が俺の前髪を指摘した。

俺は傷がある左側を主に前髪で隠して、色はずっと地毛の黒。
髪色を変えると色の透き具合で傷が見えてしまいそうだから染めたことがない。

一「…なんで?」

沙樹「顔整ってるのにもったいないなって思ってたんだ。けど、その髪型気に入ってるんだね。」

…もったいないか。
前髪をあげても周りの奴らがあの顔しなければいくらだって髪型なんか変えてやるよ。

夏「一くんは色白だから今の黒髪が映えるよね。」

俺だって沙樹みたいなアッシュベージュにしたいと思ったことあるよ。
けど、夏が言うように肌が白いから傷の色がよく見えるんだ。

一「ブリーチ痛いって聞くから挑戦出来ないんだよな。…今度、パーマかけてみようかな。」

沙樹「いいじゃん。ちょうど夏だし、一くんの黒髪パーマ似合いそう。」

夏「だね。俺もヘアチェンしたくなってきた。」

2人が携帯を見ながら夏に向けての髪色を決める中、俺は空を見上げる。

1年近く同じ教室にいたはずなのに、この2人とはこうやって授業以外の話をするのは初めてかもな。

そういえば、今日はクラス会。
呑むには最高の夏日だな。

俺は少し雲がかかる空を見ながら、昼に呑むハイボールを待ち望んだ。



→ Answer
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ひと夏の恋

環流 虹向
恋愛
一夏の恋日記。 主人公の彼方 夏/かなた なつは、女性専門風俗店で働きお金を稼いでいく。 そのお金で美術専門学校に通い、新しい友達も出来たけれど、高校生の時に付き合っていた彼女の莉李が忘れられずにふとした思い出で寂しくなる。 けれどその寂しさを埋めるために誰かを代わりに置こうとは思わず1人で過ごしていると、ある子に手を引かれ自分の隠していた気持ちを見せるお手本を見せてもらい、自分の気持ちを伝えたい子に伝え始める。 ひとなつの恋にひかれるよ。 もう一度、この手で描くために。 将来のため、君のため、自分のために。 自らの身体だけでなんとかしてきた主人公。 けれど何も芽生えないあの身体に触れることで自分の本心は溶け出し、空気に触れ死んでいく。 批判されると分かっていても、自分がやりたい事のため、生きていくためにはそれをしないといけない。 そして、今日もまた 何でもない人たちと脆く儚い愛を語り、 大切な人たちには砕けても煌めき残り続ける愛を届けられずに日々を過ごしていく。 1話ずつ、オススメの曲を紹介しています。 Spotifyにプレイリスト作りました。 https://open.spotify.com/playlist/08yh0OwB5etrXXEC5LuMJY?si=N-f-0URyRPimdYKj-A2myw&dl_branch=1 サイドストーリーの«一なつの恋»もあります! ・カクヨム ・小説家になろう ・魔法のiらんど ・ノベルアップ+ にも掲載しています。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

ミックスド★バス~家のお風呂なら誰にも迷惑をかけずにイチャイチャ?~

taki
恋愛
【R18】恋人同士となった入浴剤開発者の温子と営業部の水川。 お互いの部屋のお風呂で、人目も気にせず……♥ えっちめシーンの話には♥マークを付けています。 ミックスド★バスの第5弾です。

壁の薄いアパートで、隣の部屋から喘ぎ声がする

サドラ
恋愛
最近付き合い始めた彼女とアパートにいる主人公。しかし、隣の部屋からの喘ぎ声が壁が薄いせいで聞こえてくる。そのせいで欲情が刺激された両者はー

隣の人妻としているいけないこと

ヘロディア
恋愛
主人公は、隣人である人妻と浮気している。単なる隣人に過ぎなかったのが、いつからか惹かれ、見事に関係を築いてしまったのだ。 そして、人妻と付き合うスリル、その妖艶な容姿を自分のものにした優越感を得て、彼が自惚れるには十分だった。 しかし、そんな日々もいつかは終わる。ある日、ホテルで彼女と二人きりで行為を進める中、主人公は彼女の着物にGPSを発見する。 彼女の夫がしかけたものと思われ…

【R18】もう一度セックスに溺れて

ちゅー
恋愛
-------------------------------------- 「んっ…くっ…♡前よりずっと…ふか、い…」 過分な潤滑液にヌラヌラと光る間口に亀頭が抵抗なく吸い込まれていく。久しぶりに男を受け入れる肉道は最初こそ僅かな狭さを示したものの、愛液にコーティングされ膨張した陰茎を容易く受け入れ、すぐに柔らかな圧力で応えた。 -------------------------------------- 結婚して五年目。互いにまだ若い夫婦は、愛情も、情熱も、熱欲も多分に持ち合わせているはずだった。仕事と家事に忙殺され、いつの間にかお互いが生活要員に成り果ててしまった二人の元へ”夫婦性活を豹変させる”と銘打たれた宝石が届く。

極上の一夜で懐妊したらエリートパイロットの溺愛新婚生活がはじまりました

白妙スイ@書籍&電子書籍発刊!
恋愛
早瀬 果歩はごく普通のOL。 あるとき、元カレに酷く振られて、1人でハワイへ傷心旅行をすることに。 そこで逢見 翔というパイロットと知り合った。 翔は果歩に素敵な時間をくれて、やがて2人は一夜を過ごす。 しかし翌朝、翔は果歩の前から消えてしまって……。 ********** ●早瀬 果歩(はやせ かほ) 25歳、OL 元カレに酷く振られた傷心旅行先のハワイで、翔と運命的に出会う。 ●逢見 翔(おうみ しょう) 28歳、パイロット 世界を飛び回るエリートパイロット。 ハワイへのフライト後、果歩と出会い、一夜を過ごすがその後、消えてしまう。 翌朝いなくなってしまったことには、なにか理由があるようで……? ●航(わたる) 1歳半 果歩と翔の息子。飛行機が好き。 ※表記年齢は初登場です ********** webコンテンツ大賞【恋愛小説大賞】にエントリー中です! 完結しました!

[R18] 激しめエロつめあわせ♡

ねねこ
恋愛
短編のエロを色々と。 激しくて濃厚なの多め♡ 苦手な人はお気をつけくださいませ♡

処理中です...