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環流 虹向

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はじまり

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あのタイムリミットの日に私は稜平さんの家に転がり込んだ。

と言っても、たまたま引越し日がその日になってしまっただけで意図的にやったわけではないけど、やっぱりこのリースを見ると好きになった頃からもっと正直でいればよかったなと思ってしまう。

私はやっぱり持ってきてしまったリースを玄関の扉に飾り、怠っていたクリスマスの飾り付けを終わらせてリビングに戻ると稜平さんが仕事をひと段落終えて紅茶を作っていた。

稜平「幸来未も飲む?」

幸来未「私はココアにする。」

私は稜平さんがいるオープンキッチンに行き、ココアの粉末をカップに入れているとそれをじっと稜平さんは監視してくる。

稜平「…規定量、超えてる。」

幸来未「ココアはカカオマスの脂肪分を抜いたものなので、意外と健康にいいんですっ。」

稜平「そういう理屈抜きにこのカップに8杯は入れすぎ。」

そう言って稜平さんは私が誕生日プレゼントであげたペアマグを取り出し、半分こにしてしまった。

稜平「幸来未がこんなに砂糖依存だとは思わなかった。」

幸来未「チョコの甘味が好きなだけ。依存じゃないよ。」

稜平「幸来未が毎日こんなことするから俺も甘いもの口に入れたくなっちゃうよ。」

幸来未「いいじゃん。日本人は美味しいものを食べられることが1番の幸せらしいよ。」

稜平「それは上部の回答でしょ。すっごい日本人らしいと思うよ。」

稜平さんは自分と同じ人種を少し毛嫌いするように言葉を吐き捨てながら、小鍋でホットミルクを作り始めた。

稜平「幸来未は?何するのが1番の幸せ?」

と、稜平さんは最近ハマってしまったあのチョコの大袋からチョコを3欠片取り出して、小皿に乗せた。

幸来未「好きなものを好きなだけ食べられて、そのそばで好きな人がいてくれる時間を過ごせるのが1番の幸せ。」

私はその小皿から1つチョコを取って、稜平さんの口元へ運ぶ。

稜平「全部の欲を詰め込んだ幸せだね。今のとこ、3番目くらいに幸福?」

と言って、稜平さんは少しぎこちなく私の手からチョコを食べて砂糖を自分の体に入れた。

幸来未「1番だよ。全部揃ってるもん。」

私はまた小皿からチョコを1つ摘み、自分の口に入れると私の顔をじっと見る稜平さんの顔が少し俯きかけた視界から大理石のキッチン台に反射して見える。

稜平「…本気で言ってる?」

幸来未「嘘嫌いだもん。好きじゃないと結婚しないよ。」

私がそう言うと、稜平さんは数秒私の顔をまじまじと見て大きなため息をついた。

稜平「幸来未は俺が思ってるよりも先に行ってて本当に勝てない。」

幸来未「なにそれ。ここにいるじゃん。」

稜平「気持ちの話。どんどん1人歩きして、俺が思っている以上に嬉しいことを言ってくれる。」

そう言って、稜平さんは温まったホットミルクをお揃いのマグに入れてスプーンで混ぜ始めた。

稜平「キープくんいたのに俺を好きって言ってくれるなんて思っても見なかったよ。」

稜平さんはまだ私のメイトくんを気にしていたのか、また切なげな顔をしてしまう。

幸来未「キープくんには別のシュガーちゃんがいたから。1番に私を想ってくれてる人と一緒にいたいよ。」

稜平「…シュガーちゃんって何?」

私の告白を受けて耳を赤くするも、敵対している砂糖に稜平さんは興味を持った。

幸来未「恋人の愛称。ベイビーとか、ハニーとか言うじゃん。」

稜平「向こうも幸来未と一緒だったってことだね。」

そんな嫌味を言う稜平さんに私は腹が立ち、ココアの粉末をしっかり溶かそうとする手を掴んで持っていたスプーンを自分の口に入れて舐めとる。

幸来未「稜平は私のシュガーくんにならないの?」

私はあの日したように上目遣いでぶりっ子をすると、稜平さんは一緒驚いた顔をして焦るように私の顔を肌心地のいい手で隠した。

稜平「…そういうのはやめてください。」

幸来未「敬語。」

稜平さんは恥ずかしいさと照れを隠す時に必ず敬語を使う。

それがまたメイトくんを思い出すけど、それはただの思い出で好きだったという気持ちしかない。

私は恥ずかしがる稜平さんの目を盗んで、小皿にあったチョコを自分の唇に挟む。

幸来未「つぅー…、ちよ…?」

ずっとお預けしていたキスを私が差し出そうとすると、稜平さんは真っ赤になった顔を見せるように手を退けて私に一歩近づいた。

稜平「いいの…?」

幸来未「いいにょ。ちよ?」

私も一歩近づき、溶け始めて唇の上で滑るチョコを稜平さんの口にあげようと背伸びをすると稜平さんは私を持ち上げてキッチン台に座らせた。

稜平「…いただきます。」

そう小さく恥ずかしげに呟いた稜平さんの唇が近づいてきたのを見て私は最後のチョコを自分の口に入れ、チョコリップがついた唇で稜平さんと初めてのキスをする。

よかった。

手のシワも合うし、唇の体温もお互いのシロップもベタついた感じもせず、美味しいと感じる。

少し心配してたけど、キスさえ美味しければ他は何とかなる。

私は経験してきた全てのキスを思い出して、1番キスの相性がいい稜平にご褒美のチョコを舌で差し出すと稜平はゆっくりと唇を離した。

稜平「おいし…。」

と、稜平は初めて私に見せたとろけたアップルパイみたいな顔をして唇の端にはみ出たチョコを舐めとった。

幸来未「今度は2人のベッドでドラッグパーティーしようよ。」

私は脇に置かれているココアを飲みながら2人で寝る新しいベッドを提案する。

稜平「今のは嫌?」

幸来未「新しいシーツ買ってくれるならいいよ。あのシーツは可愛すぎてダメ。」

私はまた凛太郎さんが稜平への誕生日プレゼントで送ったキャラ物のベッドシーツに物申す。

稜平「…確かに。ムード皆無だね。」

幸来未「明日、一緒に選びに行こう?それで来年の結婚式までにもっとお互いのこと知ろうよ。」

稜平「本当に幸来未はこれでいいの?」

と、稜平は本当に最後の質問をするように不安げに聞いてきた。

けど、私の気持ちはもう稜平にどっぷり依存していてきっと離れることはない。

幸来未「うん。神様に愛を誓うのは私たち2人だけでいいし、人に見られるの好きじゃない。」

稜平「…呼びたい人、誰もいない?」

絶対に呼びたくない人はたくさんいるけど、もう一度会うためなら呼んでもいい人は1人だけいる。

けど、呼ぶことはないし、あれからずっと更新がされていないブログのページは削除してしまったからもう自分から更新出来ない。

幸来未「私は好きな人とだけ、幸せな時間を共有できればいいの。だから、あそこを選んだの。」

稜平「幸来未って変わってるのに、意外とフィクションを真に受けちゃうとこ好きだよ。」

そう言って稜平は私の唇に優しくキスをした。

稜平「小さな協会で、2人だけの挙式。けど、場所はエーゲ海の小さな岬にある有名ミュージカル映画のロケ地。本当にそういうとこ可愛くて好きだよ。」

私はけなされてるのか、褒められてるのか分からない言葉を言う稜平の口を抑えるためにキスをした。

幸来未「私はこうやって貰ったものをちゃんと使う稜平が好き。シーツも新しいのに一新って言ってシンプルなもの全部雑巾にしちゃった思い切り好きだよ。」

稜平「これから大掃除あるし、経費削減。」

幸来未「意外と倹約家なのも好き。」

稜平「それを手伝ってくれた幸来未も好き。」

たくさんまっすぐな愛をくれてる稜平さんに私はずっと満たされなかった心の隙間を埋めてもらい、今日は私には少し広すぎたセミダブルのベッドで一緒に寝てもらうことにして丁度いい体温と丁度いい狭いベッドをもらい、心を休めるように眠りについた。


環流 虹向/23:48
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