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環流 虹向

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舞台公演初日、時音が登場してきた時に涙を流してしまったのはきっともう時音が私だけの好意を求めてないと分かったからだと思う。

それをやっと理解できたのは最終日前日の公演で、時音がとってくれた関係者席ではなく一般席をこっそりとりその周りにいたファンの人たちが時音たちの話をしたり、登場してきたときに手を振ったり、小さな声援を送っていることをしっかりと感じたから。

だからせっかくの舞台も涙でまともに見れなくて、今日最後になんの役でもない時音に会おうとしているけどどうしても玄関から足が進まない。

その玄関にはドアスコープしかなかったのに、あれからは時音が手作りで作ってくれたリースがあってあのときあの松ぼっくりを投げた気持ちが溢れ出してしまう。

幸来未「…捨てられないよ。」

私は季節外れの大掃除をして家の中には、お気に入りのローテーブルとホームシアターに今この部屋で寝られるようにあるマットレスがあるだけ。

私の三種の神器だった冷蔵庫とTVとヘアアイロンはもう必要なくなってしまったから、引き払った。

だからずっとこの家にいた私とはもう違うはずなのに、このリースがその時の私に戻してしまう。

けど、もう行かなきゃ。

私はそっとリースを外し、あの箱に入れて今までの気持ちを隠して待ち合わせしている松ぼっくりの木の下へ終電間際に行くと少し人だかりが出来ていた。

それを見て私はまた涙腺が緩むと、その人だかりを抜けてずっと会いたくてもう会えなくなる人が飛び出してきた。

時音「いつものホテルで待ち合わせ。僕、一旦みんなから隠れなきゃ。」

と言って、時音は飲みかけのココアと一欠片だけかじられた板チョコを私にぶつかるように渡して、たくさんの人の目を連れてホテル街と真逆に走っていってしまった。

それを私は目だけで追って人が誰もいなくなった松ぼっくりの木の下でココアと板チョコを胃に入れて、子どもが出来てるかを確認するように顔を上げると1つだけ実を見つけて自分の肩にあの感覚が走ったような気がして肩に視線を移すと、知らない男の手があり私は思わずその場から逃げた。

逃げた先にはやっぱりあのホテルがあって、コンビニ袋を下げている時音もいた。

時音「僕より足遅いんだね。」

そう呑気に笑う時音はごわついている手で私の手を掴んで、ホテルに入って手慣れたように部屋を選んで鍵を貰い、エレベーターに乗ると1番最初が大事なキスはやっぱりぎこちない。

それに私が涙を落としそうになって堪えていると、時音は私の眉間にキスをした。

時音「僕だけに見せてくれるは嬉しいけど、幸来未の笑った顔を見たいよ。」

そんな余裕ありげな時音はエレベーターの扉が開くと私の手を取って、目の前にある買った部屋に入り私の気持ちが揺らいでしまいそうなとろけるキスをしながらベッドに私の体を押し倒す。

時音「今日はお昼までいれるよ。ちゃんと部屋の候補が入ったファイルは持ってきたし、ココアもミルクティーもチョコもある。」

そう言って、時音は一度私に優しくキスをした。

時音「まあ、そんなのなくても幸来未がいれば満足なんだ。だからこれからはもっと一緒にいられるようにスケジュール調節してもらったからね。」

と、時音は私にまた魅力的プランを話しながらスカートをたくし上げて、ストッキングを器用に脱がしながら私のシャツのボタンを片手で容易く外していく。

それがもう私の好きだった時音じゃなくて、誰かの彼氏の時音で自分の恋心は時音に服を脱がされるたびにどんどん散っていってしまう。

時音「…よかった。ここ、治ってきたね。」

そう言って時音は悠雪さんの歯型が薄れてきたのを確認すると、また上塗りをするようにたくさんスタンプをつけてくれる。

けど、まだ往生際が悪い私は時音に歯型をつけてもらうように言うけれど、ずっと私に優しい時音は甘噛み程度で数分経ったら消えてしまうものしかつけてくれない。

それがワンナイトの相手が夜が去ると共に帰っていく様のようで、私は何度も消えるだけの歯型をつける時音を見て笑ってしまう。

時音「くすぐったいの?幸来未ってここ弱いよね。」

と言って、時音はうつ伏せの私の腰を撫でるでもなくくすぐるでもなくキスをする。

それに私は声で反応してしまうと、時音は嬉しそうな声で笑い体いっぱいにキスをしてまた唇に戻って慣れてきたキスをしてくれる。

時音「…溜まってたの?」

と、時音は反応がよすぎる私に少し恥ずかしそうに聞いてきて、まだ悪あがきをする。

幸来未「ずっとひとりだったから。時音のこと、待ってたよ。」

私は頬を染める時音の顔に両手を添えてキスをすると、時音は私が教えたはずの荒いキスを前よりも上手な舌遣いで私の感度を高める。

時音「今日はずっと起きてよ?」

幸来未「いっぱいしよ。ずっとちゅーしよ。」

私は最後の時音を口でも体でもいっぱいに味わい、いつまでたっても満たされない心を置いてけぼりにして最後の時間を過ごした。


環流 虹向/23:48
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