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雲の上に
067:04:10
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…本当に嫌い。
東京のくせに虫は多いし、土でスニーカーは汚れるし、近所のみんなの目線が久しぶりに帰ってきた私に一挙集中するのが本当に気持ち悪い。
私は何度もお見合い日程をうるさく送ってくる親に帰る日にちだけを伝え、実家に男の人と一緒に帰ってきた。
けど、私が一緒に来てほしかった時音ではなく、私の話を全て聞いてくれた稜平さんがわざわざ休暇を取ってついてきてくれた。
そんな稜平さんは私のオムツを変えたことがあるというだいぶ遠い親戚のおじいさんに酒を煽る。
その煽りに乗っかる私のお見合い相手は、稜平さんがたくさん呑めるのを嬉しそうにして私の両親の策略を無視し、稜平さんとの呑み会を楽しんだだけで帰っていった。
稜平「一丁上がりってやつだね。」
と、稜平さんは自慢げな顔をしてずっと自分の小脇に抱えていたいい値段の日本酒を呑み始めた。
幸来未「来てくれてありがとう。」
稜平「そういうのは全部が終わってからね。」
そう言って、稜平さんが私の口元に人差し指を置くとお皿を片付けていたお母さんとお父さんがテーブルを挟んだ向かい側に座った。
稜平「お父様お母様、今日はご馳走していただきありがとうございます。」
と、稜平さんはずっと正していた背筋を更に伸ばし、2人にお辞儀した。
母「いえいえ。こんな素敵な婚約者がいるって幸来未が早く教えてくれていたら、もっといいお酒買っておいたのに。」
父「まさかここに来るまでずっと黙ってるなんて思いもしなかったからなぁ。但馬さん、怒鳴って悪かった。」
稜平「可愛い一人娘の後ろに見知らぬ男がいたら、私も口を出してしまうかもしれません。」
そんなことを肯定する稜平さんの顔はずっと作り笑顔で、ここも社員旅行のように休まる場所ではないと思った私は実家の近くを通るバスで1時間の所にあるホテルへ行くことにした。
私はご機嫌な両親に適当に別れの言葉を言って、カモフラージュとして稜平さんの手を繋ぎバス停まで歩く。
稜平「本当に良かったの?」
幸来未「実家嫌いだし、稜平も見たでしょ?お父さんって頭ごなしに自分の意見を押し付けないと気が済まないの。」
稜平「あれはすごかったね。1時間近く腹から声出せる68歳見たことないよ。」
冗談のように笑い飛ばす稜平さんに私は胸がきゅっとなってしまって、自分の気持ちの揺らぎにまた嫌気がさしていると稜平さんは行く先を指差した。
稜平「あ、バス来てるね。」
幸来未「え!?早く言ってよ!」
私は稜平さんの手をしっかりと握り、自分なりに一所懸命に走ったけれど、バスの停止ランプは消えてどんどん都会の光が集まる方へ走っていってしまう。
幸来未「…あと、1時間20分。終バスだからさらに遅いかも。」
稜平「いいよ。どうせ泊まりなんだからゆっくり行こう。」
そう言って稜平さんは私の手を握ったまま、ベンチに座り一息ついた。
私もその隣に座り、帰り際お母さんから貰ったお茶を飲もうと手を離そうとすると稜平さんは手が解けないようにさらに握ってきた。
稜平「子どもってさ、いつまで経っても親の言いなりだよね。」
と、稜平さんは呆れた声で呟いた。
幸来未「…だね。嫌だけど。」
稜平「俺も。いい加減、凛太郎の世話はもうしたくない。」
そう教えてくれた稜平さんは顔を落とし、地面に落ちている小石を足でいじり始めた。
稜平「遺書とか物として親が言った言葉は残ってないんだけどさ、死ぬ間際まで凛太郎のことばかり心配して弟を守ってくれって言われたんだ。2人とも家族愛は強い方だったから。」
幸来未「凛太郎さんは愛されてるね。」
稜平「そう、凛太郎はね。」
と、稜平さんは出会って1番悲しげな声で呟いた。
稜平「愛されなくてもいいから、愛するフリくらいしてほしかったよ。俺の親としての演技は死ぬまで続けてほしかった。」
幸来未「親も人だからね。全部は完璧にいかないよ。」
稜平「…そうだね。俺もそうみたい。」
そう言って稜平さんは突然私を潰すように抱きしめて、潤む目を私の肩に埋めた。
稜平「俺と結婚しませんか…。」
幸来未「…え?」
私は稜平さんが言った言葉を脳で処理出来ずに聞き返してしまう。
稜平「幸来未の好きな人にはなれないけど、結婚相手ならきっと妥協案としてそばにいさせてくれるかなって思ったんだ。」
幸来未「ちょっと…、待って。どういうこと…?」
稜平「幸来未は好意見え見えの人を好きにならないみたいだからずっと隠してきたけど、キープくん一筋だからもうこれしかない。」
稜平さんは私の肩から顔を離し、少し体を猫背にして赤くなった目で私と視線を合わせた。
稜平「俺のこと、好きじゃなくてもいいから結婚して。キープくんとお付き合いをしっかり始める頃、捨てていいからあの親に結婚したって言おう。」
私は魅力的プランの中で最もいいプランを提示されたけれど、それを頷いてしまう私は最低過ぎて全く首を振れない。
幸来未「…戸籍にバツついちゃうし、好きじゃない人と結婚するのって悲しくない?」
稜平「俺は幸来未のこと好きだし、離婚するとなったらそれなりのお金を振り込むよ。そしたら幸来未の親だって戸籍にバツがついてもなにも言わないでしょ?」
幸来未「なんで…、私?」
稜平「俺が好きになった人はみんな凛太郎に奪われてきたから。幸来未にはそうなってほしくない。」
幸来未「…私のためだけ?」
稜平「俺は好きな人といられる時間が少なかったから結婚して短い期間でも時間いっぱいに一緒に過ごしたい。だから幸来未の嫌がることはしないよ。」
幸来未「例えば?」
稜平「…ハグとか、キスとか、それ以降諸々。」
と、言いながら稜平さんは私の体から腕を離し、ハグをしれっとやめた。
幸来未「したくないの?」
稜平「した…、そういう質問やめて。分かってるでしょ?」
稜平さんは自分の意思が見え見えなのに隠して私の好感度を高めようとする。
稜平「一緒にトランプゲームとか、人生ゲームして遊ぼうよ。俺はそれで満足だから。」
幸来未「…ご飯は?」
稜平「幸来未の手料理は食べてみたいけど、嫌なら作らなくていいよ。今まで通り外で食べればいいし。」
幸来未「……寝るときは?」
稜平「ゲストルームにベッドあるからそれ使って。」
私は稜平さんが教えてくれるプランを一旦整理するために、この返事は後日にすることにした。
環流 虹向/23:48
東京のくせに虫は多いし、土でスニーカーは汚れるし、近所のみんなの目線が久しぶりに帰ってきた私に一挙集中するのが本当に気持ち悪い。
私は何度もお見合い日程をうるさく送ってくる親に帰る日にちだけを伝え、実家に男の人と一緒に帰ってきた。
けど、私が一緒に来てほしかった時音ではなく、私の話を全て聞いてくれた稜平さんがわざわざ休暇を取ってついてきてくれた。
そんな稜平さんは私のオムツを変えたことがあるというだいぶ遠い親戚のおじいさんに酒を煽る。
その煽りに乗っかる私のお見合い相手は、稜平さんがたくさん呑めるのを嬉しそうにして私の両親の策略を無視し、稜平さんとの呑み会を楽しんだだけで帰っていった。
稜平「一丁上がりってやつだね。」
と、稜平さんは自慢げな顔をしてずっと自分の小脇に抱えていたいい値段の日本酒を呑み始めた。
幸来未「来てくれてありがとう。」
稜平「そういうのは全部が終わってからね。」
そう言って、稜平さんが私の口元に人差し指を置くとお皿を片付けていたお母さんとお父さんがテーブルを挟んだ向かい側に座った。
稜平「お父様お母様、今日はご馳走していただきありがとうございます。」
と、稜平さんはずっと正していた背筋を更に伸ばし、2人にお辞儀した。
母「いえいえ。こんな素敵な婚約者がいるって幸来未が早く教えてくれていたら、もっといいお酒買っておいたのに。」
父「まさかここに来るまでずっと黙ってるなんて思いもしなかったからなぁ。但馬さん、怒鳴って悪かった。」
稜平「可愛い一人娘の後ろに見知らぬ男がいたら、私も口を出してしまうかもしれません。」
そんなことを肯定する稜平さんの顔はずっと作り笑顔で、ここも社員旅行のように休まる場所ではないと思った私は実家の近くを通るバスで1時間の所にあるホテルへ行くことにした。
私はご機嫌な両親に適当に別れの言葉を言って、カモフラージュとして稜平さんの手を繋ぎバス停まで歩く。
稜平「本当に良かったの?」
幸来未「実家嫌いだし、稜平も見たでしょ?お父さんって頭ごなしに自分の意見を押し付けないと気が済まないの。」
稜平「あれはすごかったね。1時間近く腹から声出せる68歳見たことないよ。」
冗談のように笑い飛ばす稜平さんに私は胸がきゅっとなってしまって、自分の気持ちの揺らぎにまた嫌気がさしていると稜平さんは行く先を指差した。
稜平「あ、バス来てるね。」
幸来未「え!?早く言ってよ!」
私は稜平さんの手をしっかりと握り、自分なりに一所懸命に走ったけれど、バスの停止ランプは消えてどんどん都会の光が集まる方へ走っていってしまう。
幸来未「…あと、1時間20分。終バスだからさらに遅いかも。」
稜平「いいよ。どうせ泊まりなんだからゆっくり行こう。」
そう言って稜平さんは私の手を握ったまま、ベンチに座り一息ついた。
私もその隣に座り、帰り際お母さんから貰ったお茶を飲もうと手を離そうとすると稜平さんは手が解けないようにさらに握ってきた。
稜平「子どもってさ、いつまで経っても親の言いなりだよね。」
と、稜平さんは呆れた声で呟いた。
幸来未「…だね。嫌だけど。」
稜平「俺も。いい加減、凛太郎の世話はもうしたくない。」
そう教えてくれた稜平さんは顔を落とし、地面に落ちている小石を足でいじり始めた。
稜平「遺書とか物として親が言った言葉は残ってないんだけどさ、死ぬ間際まで凛太郎のことばかり心配して弟を守ってくれって言われたんだ。2人とも家族愛は強い方だったから。」
幸来未「凛太郎さんは愛されてるね。」
稜平「そう、凛太郎はね。」
と、稜平さんは出会って1番悲しげな声で呟いた。
稜平「愛されなくてもいいから、愛するフリくらいしてほしかったよ。俺の親としての演技は死ぬまで続けてほしかった。」
幸来未「親も人だからね。全部は完璧にいかないよ。」
稜平「…そうだね。俺もそうみたい。」
そう言って稜平さんは突然私を潰すように抱きしめて、潤む目を私の肩に埋めた。
稜平「俺と結婚しませんか…。」
幸来未「…え?」
私は稜平さんが言った言葉を脳で処理出来ずに聞き返してしまう。
稜平「幸来未の好きな人にはなれないけど、結婚相手ならきっと妥協案としてそばにいさせてくれるかなって思ったんだ。」
幸来未「ちょっと…、待って。どういうこと…?」
稜平「幸来未は好意見え見えの人を好きにならないみたいだからずっと隠してきたけど、キープくん一筋だからもうこれしかない。」
稜平さんは私の肩から顔を離し、少し体を猫背にして赤くなった目で私と視線を合わせた。
稜平「俺のこと、好きじゃなくてもいいから結婚して。キープくんとお付き合いをしっかり始める頃、捨てていいからあの親に結婚したって言おう。」
私は魅力的プランの中で最もいいプランを提示されたけれど、それを頷いてしまう私は最低過ぎて全く首を振れない。
幸来未「…戸籍にバツついちゃうし、好きじゃない人と結婚するのって悲しくない?」
稜平「俺は幸来未のこと好きだし、離婚するとなったらそれなりのお金を振り込むよ。そしたら幸来未の親だって戸籍にバツがついてもなにも言わないでしょ?」
幸来未「なんで…、私?」
稜平「俺が好きになった人はみんな凛太郎に奪われてきたから。幸来未にはそうなってほしくない。」
幸来未「…私のためだけ?」
稜平「俺は好きな人といられる時間が少なかったから結婚して短い期間でも時間いっぱいに一緒に過ごしたい。だから幸来未の嫌がることはしないよ。」
幸来未「例えば?」
稜平「…ハグとか、キスとか、それ以降諸々。」
と、言いながら稜平さんは私の体から腕を離し、ハグをしれっとやめた。
幸来未「したくないの?」
稜平「した…、そういう質問やめて。分かってるでしょ?」
稜平さんは自分の意思が見え見えなのに隠して私の好感度を高めようとする。
稜平「一緒にトランプゲームとか、人生ゲームして遊ぼうよ。俺はそれで満足だから。」
幸来未「…ご飯は?」
稜平「幸来未の手料理は食べてみたいけど、嫌なら作らなくていいよ。今まで通り外で食べればいいし。」
幸来未「……寝るときは?」
稜平「ゲストルームにベッドあるからそれ使って。」
私は稜平さんが教えてくれるプランを一旦整理するために、この返事は後日にすることにした。
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