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環流 虹向

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はれのちはるくん

224:13:32

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春馬くんに新しい服を借りて、自分のアパートまで送ってもらっているとそのアパート下にある自販機横に人が2人いるのが見えた。

春馬「…紀莉哉と悠雪っぽい。」

幸来未「だね…。どうしよ…。」

私たちは一旦Uターンして作戦会議をしようとしたけれど、悠雪さんに膝枕を貸している紀莉哉さんが私たちを先に見つけ手招きした。

春馬「どうする?話す?」

幸来未「…春馬くんは時間ある?」

春馬「今日は休みだよ。だから呑みに行った。」

…そっか。
じゃあ、また2人が暴れても手を貸してくれるかな。

幸来未「話す。ちゃんと終わらせる。」

春馬「うん。手伝うよ。」

私は春馬くんのコートの袖をこっそり掴みながら大きな紙袋と一緒に座っている紀莉哉さんの元に行き、泣き疲れて寝ている悠雪さんを起こしてもらう。

紀莉哉「おーい、幸来未来たぞー。」

悠雪「んー…?」

悠雪さんはこんな状況でも睡魔に勝てず、お昼なりかけの朝日が眩しいのか目をぎゅっと閉じて紀莉哉さんの声がうるさそうにする。

幸来未「悠雪、起きて。ここは邪魔になるから近くの神社行こ。」

私は悠雪さんの目の上に手で屋根を作って日差しを遮っていると、その下で悠雪さんの目がゆっくり開いたと同時に涙が溢れて来た。

悠雪「…ここみ、どこいってたの…っ。おれ、すごっ…い、しんぱいしたのに…。」

そう言うと悠雪さんは急に起き上がって私に抱きついて来た。

春馬「だ、だい…」

幸来未「心配かけてごめん。とりあえずみんなで朝のお散歩しようよ。」

私は心配する春馬くんの声を悠雪さんの耳に届かないように抱きしめ返す。

悠雪「ふたりだけがいい…ぃ。」

幸来未「2人には迷惑かけたからコンビニで朝食奢ろうよ。」

悠雪「…やだっ。」

幸来未「私はそうしたいからそうする。嫌なら1人でここにいればいいじゃん。」

悠雪「それはもっとやだぁ…。」

幸来未「じゃあ行こ?」

悠雪「…うん。」

私はやっと頷いてくれた悠雪さんの手を取り、4人でコンビニに行って悠雪さんが持ってくれていたカゴに投げ込んでもらう。

それを私と悠雪さんでしっかり割り勘し、神社のご神木近くにあるベンチを借りて一旦みんなで朝食をとるけど、隣にいる悠雪さんはずっと泣いていて紀莉哉さんが思わず吹き出すような突飛なことをしても愛想笑いもしない。

幸来未「サンドイッチ美味しくない?」

悠雪「…コンビニ飯好きじゃない。」

…そもそも好きじゃないのか。
じゃあどうやっても機嫌治らないじゃん。

悠雪「やっぱり…っ、幸来未と別れたくない…。」

と、悠雪さんは続けてずっと思っていた事を吐いてくれた。

幸来未「それは…」

紀莉哉「演じるなら最後までやり抜けよな。」

そう言って悠雪さんの隣に座る紀莉哉さんは自分が持っていた大きな紙袋を私に渡した。

紀莉哉「金は持ち逃げ、春馬は彼氏、話なんかしたくないって言って拒否ってくれれば悠雪は諦められたのに。お前、全部が中途半端なんだよ。」

幸来未「…だって、悠雪が稼いだお金は悠雪が使うべきだし、嘘嫌いだし、話はしないといけないと思った。」

紀莉哉「女なんか金出せばホイホイついてくんのにお前はつまんないとすぐに消えるし、体が正直過ぎんだよ。」

幸来未「いいじゃん…。つまんないものはつまんないんだから…。」

悠雪「俺もつまんない奴だった…?」

と、涙目の悠雪さんは襟元で顔半分隠しながら私にそう聞いてきた。

幸来未「途中まで楽しい人だったけど、今はそうじゃ無くなった。」

悠雪「…今はどう思ってるの。」

幸来未「ちょっと…、怖いかな…。」

私は悠雪さんがしてきたことを思い出し、顔を俯かせると下から悠雪さんの顔が現れ私の顔に近づいて来た。

さすがにもうキスなんて出来る気持ちがなくてグイッと自分の顔を思い切りあげると勢い余って私は背中から地面に落ちてしまった。

春馬「ちょ…、大丈夫?」

と、私のもう1つの隣にいた春馬くんが私に手を伸ばすと、悠雪さんがそれを払い私の手を取り立ち上がらせてくれた。

幸来未「…ありがと。」

悠雪「幸来未って俺のこと好きな時あった…?」

そう聞いた悠雪さんは私が倒れた拍子にばらまいてしまった紙袋の中身だった私の衣類を拾い、私の背中に着いた土を払ってくれた。

幸来未「スーパー銭湯連れてってもらった時とか、初めてワッフルを作ってくれた時はその気持ちに近かったと思う。」

悠雪「…ってことは好きじゃないんだ。」

幸来未「……うん。」

私は希望を持たせない返事をしてそのまま帰ろうと思ったけど、悠雪さんの手にまだ紙袋があって帰れない。

幸来未「…拾ってくれてありがとう。」

私は言葉も涙も失った悠雪さんの手から自分のものを取ろうとすると、差し出した手を引かれ悠雪さんに無理矢理抱き寄せられた。

悠雪「お金持ちになったら好きになる…?有名になったら好きになる…?俺、幸来未が好きな男になりたいっ…。」

幸来未「初めて手を握られた時から好きにはならない人なんだろうなって思った。悠雪もそんな感じしなかった?」

悠雪「そういうの分かんない…。」

幸来未「手のシワが合わない感じ。どっちも肌荒れなんかしてないのにごわついてる感じ。」

私は何かを思い出した悠雪さんの手を取り、握ってみる。

だけど、今でも肌はどうしても合ってくれなくて最初から結末は決まっていたと教えてくれる。

幸来未「この感覚覚えといて。こんな恋人繋ぎよりもっと心地いい恋人繋ぎが出来る人がいるの。だからその人に出会うために私と別れよう?」

悠雪「…幸来未がいい。」

幸来未「ううん。私は悠雪を好きじゃない、だから悠雪の欲してるものは渡せない。」

悠雪「なにもいらないから一緒にいてよ。」

幸来未「私と一緒にいる時間を渡せないの。だから今日ここの神社でお別れ。」

悠雪「嫌だ。幸来未がいないと生きてる意味ない…っ。」

と、悠雪さんはまた泣き始めて鼻水を盛大にすする。

幸来未「映画作ってるじゃん。」

悠雪「…作っても意味ないよ。」

幸来未「意味なくないよ。」

私は間抜けなことを言う悠雪さんの胸を強めに叩き、まともな鼓動に戻させる。

幸来未「私、アプリで悠雪が作った映画全部見た。この間一緒に見たやつも1人で改めて見てすごいなって思ったから続けてほしいよ。」

悠雪「すごくないよ…。」

幸来未「最後の朝の繁華街のシーン、私1番好きだよ。」

悠雪「…本当に?」

と、悠雪さんはずっと溺れる目を私に向けてくれた。

幸来未「うん。暖かいのに寒いの。気温とかじゃなくて心臓が痛む冷たさみたいのが…」

私は後ろ姿の時音が1人繁華街から立ち去るラストシーンを思い出し、胸が締め付けられ言葉に詰まってしまうと悠雪さんが強く抱きしめてきた。

悠雪「嬉しい…。それ、分かってくれただけで充分だよ…。」

そう言って悠雪さんはぎゅっと一瞬力を入れて、私を抱きしめると腕を離してくれた。

悠雪「幸来未のために作るから見てくれる?」

幸来未「もちろん。」

悠雪「試写会は来てくれる…?」

幸来未「…それはダメ。」

私はまた会ってこの気持ちを再燃させないようにするため、しっかりと釘を刺す。

悠雪「…どうしたら幸来未と会える?」

…やっぱり。

会うための口実に自分の作品こどもを使ってほしくないよ。

幸来未「この間一緒に行った映画館で試写会するならいいよ。」

悠雪「…やっぱり有名にならないとダメ?」

幸来未「そういうことじゃないよ。私は悠雪の作品は好きだけど悠雪自身のことを好きになることはないの。」

悠雪「…そっか。」

今日1番で悲しい顔をする悠雪さんは私に紙袋を渡し、邪魔で横に流していた私の前髪を無理に作った。

悠雪「幸来未は正直過ぎて嫌いだからもう会わない。」

幸来未「うん。私も悠雪の作品好きでいたいから会わないよ。」

悠雪「…けど、あの映画館で俺の映画が流れたなら来てもいいよ。」

幸来未「考えとく。」

悠雪「うん…。考えといて…。」

そう言って悠雪さんは涙を目に溜めたまま紀莉哉さんと静かに帰って行った。

春馬「…帰る?」

幸来未「帰りたくない…。」

春馬「じゃあ俺ん家行こ。」

幸来未「うん。」

私はまた春馬くんについていき、昨日とても寝心地のよかったベッドでもう一度休ませてもらうことにした。


環流 虹向/23:48
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