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環流 虹向

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リミットシュガー

274:14:54

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「…みぃ。」

「おー…、こぉーこぉ…。」

「朝だよー。幸来未ー?」

私は何度もうるさく名前を呼ぶ目覚まし時計のスイッチを押してまた寝ようとすると、ぐいっと上半身が起こされて強制的に頭も目も覚醒させられる。

幸来未「…なに。」

悠雪「なにって…。この匂い、分からない?」

と、悠雪さんはまだ視界がぼやける私の鼻先に何かを近づけた。

幸来未「…あまいやつ?」

悠雪「幸来未が大好きなワッフル作ったよ。トッピングは好きなのね。」

私はその言葉でぼやける視界をあくびで分泌される涙で調節すると、ベッドの上には2人分のワッフルとカリカリ目玉焼きとベーコン、盛々ミックスベリーとハチミツが置いてあった。

幸来未「ここで食べていいの?」

悠雪「うん。俺、休みの日は大体ベッドで過ごしてるから食べこぼしても気にしないよ。」

私はその言葉を聞いて昨日の夜を思い出す。

幸来未「…シーツは?」

悠雪「幸来未が寝てる間に変えたよ。一応濡れタオルで体拭いたからね。」

幸来未「ありがと…。」

けど、私はどうしてもシャワーだけを浴びたくてお風呂を借りるとマスカラだけの私がいた。

さすがに全部は落とさないか…。

私は昨日とずっと前の夜を思い出しながら、お風呂場に置かれていたメイクオイルを借りてしっかりメイクと体の汚れを落とし、ベッドルームに戻ると悠雪さんが薄暗い部屋で真っ白な壁になにかの映像を写していた。

幸来未「なに見るの?」

私は悠雪さんの隣に行き、Bluetoothで繋がれている悠雪さんの携帯を覗き込むと何かの動画が再生される寸前だった。

悠雪「昨日の披露試写会パーティーの短編映画。見る?」

幸来未「見る!」

パーティーの内容は初耳だったけど映画大好きな悠雪さんが作った短編映画がどんなものか気になり、朝ごはんそっちのけに見ていると李代さんがスクリーンに映し出された。

幸来未「李代と悠雪は元から友達なの?」

悠雪「元は劇団仲間。俺のバイト先に李代が遊びに来るようになった。」

なるほど。

だったら仲がいいのも頷けるなと李代さんが服を貸してくれた日を思い出していると、見覚えのある後ろ姿にスクリーンの李代さんは声をかけた。

悠雪「こいつ、俺の後輩なんだけどさ。少し前に女が出来たのか急に垢抜けたんだよなー。だからこのドラマに採用した。」

そう語る私の恋人は私のメイトくんを見て自分の息子のホームビデオを見るように穏やかに笑う。

悠雪「夏にこいつのセフレに会ったんだけど、ちょうど幸来未くらいの身長だったんだ。やっぱり類友は似た人好きになるのかな?」

幸来未「…どうだろ。」

私は自分の背中に嫌な冷えを感じて背中に枕を置き、背もたれにしながら体を縮こませる。

悠雪「そのセフレさんには悪いけど、こいつと李代のラブシーン多めなんだ。本当は10秒くらいで収めようと思ってたんだけどね。」

幸来未「…なんで多くなったの?」

悠雪「李代のわがまま。こいつの同期は全員食ってて後はこれだけ。」

と、悠雪さんは事が起こる前にゆったりとお風呂に入るスクリーンの時音を指した。

幸来未「なんで…。その子は…、最後なのかな…。」

悠雪「ガードが硬いっていうか、仲間の劇団員はそういう目で見てないってこの間言ってた。だから李代も手こずってた。」

…ってた?

幸来未「過去形…?」

悠雪「明日こいつとデートするって張り切ってたからやっと釣れたんだと思うよ。」

幸来未「へー…。なんだかすごい世界だね…。」

悠雪「ちょっとネジ外れてないと“唯一無二”になれないからね。」

今すぐ携帯を取りに行きたいけど、さすがに不自然過ぎる。

しかも、時音にこのことを連絡したところで悠雪さんと付き合ったことも一緒にばれちゃいそうでなんか嫌だ。

…どうしよう。

終わったはずなのに、まだ終わってない気がする。

私はとっても気持ちよく晴れたクリスマスイブなのに薄暗い部屋でずっと片思いの人が私の憧れの人にほくろが多い背中に抱きつかれながら腰を落とされるところを見せられ、初めてのちゃんとした恋人とのクリスマスデートだって言うのにどうしても楽しめなかった。


環流 虹向/23:48
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