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環流 虹向

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木の下のまちびと

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「心配したよ。」

と、春馬くんは私を抱きながらあのパーティーを抜け出した時の心境を語った。

幸来未「知り合いのお家に泊まりに行ったの。」

春馬「男?」

幸来未「男ならだめなの?」

春馬「…西宮は固定の人作らないの?」

固定って…。

固定にしないで穴に入れたのはそっちだけど。

幸来未「作ったらこれ出来ないよ。」

私は食べるようにお腹の中を動かすと春馬くんはピクッと肩をすくませてため息をついた。

 春馬「作る気はある…?」

と、春馬くんは拗ねた顔で私の鼻と自分の鼻を擦り合わせながらそう言ってきた。

あるはある。

だって、前の春馬くんならすぐに頷いてたし、あの花火大会の時にちゃんと聞き返してた。

けど、今の春馬くんだと頷けない。

この少し片付いてしまった春馬くんの部屋も、春馬くんが好きだと言っていた作品がなくなった分、ビジネス本が多くなったのも今は好きになれない。

幸来未「今のとこないかな。」

春馬「いつならある?」

それは春馬くん次第なんだけどな…。

幸来未「相手次第かな。」

春馬「相手はいるんだ?」

幸来未「…聞いてどうするの。」

春馬「んー、どうしようかな。」

そう言って春馬くんは私がお願いした通り、ゴムの中に出して私の首元でまたため息をつき、ベッドに寝転がる。

…なんだか春馬くん、最近ため息多くて嫌だな。

疲れてるならゆっくり寝ればいいのに。

私は気分的にも距離的にも会いたくなくなってきた引っ越したての春馬くんの部屋に新しく置かれたテーブルに置いていたココアを取り、ベッドに戻る。

すると春馬くんはココアを口に入れかけた私を包むように抱きついてきた。

春馬「ミルクティーよりココアが好きになったの?」

幸来未「まあね。」

春馬「アーモンドチョコより板チョコ派になったんだ?」

幸来未「…安いから。」

春馬「お気に入りはずっと変わらないって言ってたのにね。」

幸来未「何が言いたいの?」

私は奥底からチラ見えする喧嘩腰の春馬くんにイラつき、振り返ると春馬くんは不意打ちのキスをしてきた。

春馬「人の好みが変わるのって他人の影響しかないけど、西宮は好きな人いるの?」

幸来未「いてもいいじゃん…。」

そう言った私の顔を見た春馬くんは一瞬だけ寂しそうな顔をして、まっすぐ私の目を覗き込んできた。

春馬「いるのに俺とやっちゃうの?」

幸来未「彼氏じゃないから気にしないし、春馬くんが最初に誘ったじゃん。」

春馬「それはそうだけど…。なんで今日来てくれたの?」

幸来未「暇だったから。」

春馬「ただ1人なのが嫌だったわけじゃなくて?」

…はあ。

春馬くんを好きになった本当の理由、今更だけど思い出しちゃった。

おっとりしてて人付き合いが円滑に出来て、食べ物を残さない無駄にしない春馬くんを自分のタイプの人って分かった時、“この人いいな”が生まれたんだった。

それから関わっていく間、こうやって人間観察が得意で、私の寂しさを行動と言動で察知していつもそばにいてくれたのが本当は好きなとこだった。

あの体験談に書き綴るのすっかり忘れてたよ。

やっぱり、物語って完璧になんか出来ないみたい。

幸来未「そうだよ。好きな人に会うのやめたいからわざと用事作って会わないようにしてる。」

春馬「好きな人とは付き合わないの?」

幸来未「…向こうにも好きな人いるみたいだから。」

春馬「幸来未も一方通行か…。」

幸来未「…ごめん。」

春馬「いいよ。これからは飯だけにしよ?」

幸来未「え…、いいの…?」

私は色恋営業のようなタダ飯はなくなるし、話が合う春馬くんと会うのも終わらせられると思っていたのでその言葉に驚く。

春馬「うん。俺も友達いないし。」

そう言って春馬くんはそっと私から離れて寝間着を着て乱れたベッドのシーツを直した。

春馬「今度、浅野先生の原画展あるから一緒に見に行こうよ。友達として。」

幸来未「…うん!」

私はやっと気のおける友達が出来たことに嬉しくなり、さっきの苛立ちもどっかにいなくなる。

春馬「ベッドで寝ていいよ。俺はソファーで寝る。」

幸来未「え?なんで?」

春馬「好きな子と寝るのは理性なくなるから。」

そう言って春馬くんは私に部屋着を渡すと軽くシャワーを浴びにいった。

…そっか。

友達なら同じベッドで寝ないのが当たり前なのか。

私は借りた部屋着に素早く着替えて毛布だけ借り、ソファーで寝たフリをする。

さすがに春馬くんのベッドは友達として使えないよ。

だから自分で使って。

今後は本当に用事があるときにしかこの家に来ないことを決め、私はそのまま眠りについた。


環流 虹向/23:48
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