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環流 虹向

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飛行船と宝物

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私たちはあもんさんに高級すぎて味が不思議しすぎた中華料理をご馳走してもらい、デザートの味が変わらなくて美味しいごま団子までご馳走してもらっているとずっと床で出ていた凛太郎さんが起きて椅子に座った。

凛太郎「勝負は?」

あもん「俺の勝ち。」

凛太郎「どっちも?」

あもん「飛行船はまだ。」

結果を聞いた凛太郎さんはうなだれて次は空のお皿の上で寝始めた。

あもん「凛太郎のことは紀莉哉に任せた。」

紀莉哉「はーい。」

と、凛太郎さんのご飯を紀莉哉さんは箱詰めし始めた。

あもん「じゃあ、くるみのごま団子がなくなったら3人で移動するよ。」

幸来未「え?あ…、はい。」

私はまたあのサイコロゲームをするんだと思っていたのでゆったりと1人食べていたけれど、みんなの目線で一気にごま団子を詰め込み、出る準備をする。

佐々木「ごま。」

と、立ち上がって準備していた佐々木さんは私の唇の端を人差し指でなぞり、ごまを口の中に入れ込んできた。

私はそのことに驚いて思わず口を開けてしまい、逆によだれを口端から垂らすとジャケットを着直したあもんさんが新しいおしぼりを渡してくれた。

私は顔を引いて佐々木さんの指を自分の口から離し、貰ったおしぼりで口を拭う。

あもん「ロビーで待ってるからトイレ行きたかったら今のうちに行っておいて。」

幸来未「…ぁい。」

私はおしぼりで口元を隠しながら先に会計をしに行ったあもんさんに返事をして、近場のトイレに走った。

…びっくりした。

あんな風に口拭って指入れてくるの、男の人たちの中で流行ってるのかな。

私は食事で落ちてしまったリップを塗り直し、エレベーター前で待っていた佐々木さんと一緒に1階に降り、お店のロビーにあるソファーで大きなリュックを大切に抱えているあもんさんに駆け寄る。

佐々木「お待たせしました。」

あもん「よし。じゃあタクシー呼んだから公園行こう。」

…公園?

私は金持ちの道楽が分からなすぎて困惑したまま、若干狭い真ん中の席で大きめな大人2人に挟まれながら、夕方になって涼しげなサッカーが出来るくらいの大きな公園に来た。

あもん「よし。靴ゴルフするぞっ。」

と言って、あもんさんは体を柔軟し始めた。

佐々木「…西宮さん不利じゃないですか?」

…その感じ、嫌だな。

多分、体格不利だと思われてるんだよね?

あもん「ううん。この間、会社帰りに新人の女の子とやったんだけど負けたんだよね。」

佐々木「じゃあ…、大丈夫か…。」

あもん「見た目だけで人を決めつけるのは人間じゃないぞ。」

そう言ってくれるのは嬉しい。
けど、体動かす系は苦手なんだよな。

佐々木「ごめんなさい。そういうつもりで言ったわけじゃ…」

幸来未「大丈夫です。慣れてます。」

あもん「大丈夫じゃないです。傷つきました。」

幸来未「え?」

あもん「そんな顔してる。俺、人を見る目はそこそこあるから。」

佐々木「…すみませんでした。」

幸来未「あ…。い、いえ…。」

私は気まずい雰囲気なのが耐えられなくなり、1人で少し先に見つけたベンチに荷物を置こうとすると、あもんさんに呼び止められた。

あもん「そこには120万入ってるんだよね?」

幸来未「え…、あ、はい。」

あもん「なのに盗まれたらどうにもならない距離においちゃうの?」

…いい人なのは分かるけど、ちょっと怖いな。

幸来未「すみません。危機管理、足りてませんでした。」

私はベンチに行こうとしていた足を2人がいる場所に戻し、2人がしてるようにスニーカーの靴紐を緩める。

幸来未「…えっと、靴ゴルフって何するんですか?」

佐々木「靴を足で放り投げて、1番少ない振りでゴールした人の勝ちです。」

あもん「ゴールはー…、あそこ。あの時計灯の下。」

そう言ってあもんさんは草はらで裸足になり、自分の革靴と靴下でスタートラインを作った。

あもん「ここからあそこまで大体200m。穴はないからあの時計灯のポールに当てられたら勝ち。ポールチャレンジは5m前固定ね。」

じゃあ、2人がいい感じに外してくれたら私の勝ち目もあるのか。

私は気合を入れるためにあもんさんと同じく裸足になった。

佐々木「俺の片側の靴履きます?」

幸来未「いえ。これで大丈夫です。」

あもん「それじゃあ、俺から行くよー。」

あもんさんは勢いをつけて靴を蹴り出すと、靴は公園の3分の1地点に落ちた。

…勝ち目あるって思った私がバカだった。

その後、交互に靴を投げ飛ばし、私が時計灯に届く距離にやっと繋いだけれど、10手前からポールに挑戦していた佐々木さんが見事当てて今日の勝者になってしまった。

あもん「飛行船とくるみ物語2つは悠雪のものだね。」

佐々木「俺の作った台本は?」

あもん「あれはサイコロゲームで賭けたもの。これは靴ゴルフで賭けたものだから。」

そう言ってあもんさんはずっと持っていたリュックから飛行船の置物を取り出し、佐々木さんに渡した。

幸来未「…はい。どうぞ。」

私はまさか佐々木さんに自分の小説が渡るとは思ってなかったので渡す手が震える。

佐々木「ありがとうございます…。」

私が小説を渡したと同時にあもんさんは私たちにタクシー代も渡し、仕事があると言って先に帰っていった。

 佐々木「…あの、これ。」

あもんさんを見送ったすぐに佐々木さんはずっと手に持っていた飛行船の置物を自分の胸元にあげて、私に見せてきた。

佐々木「これを俺が西宮さんにプレゼントする代わりに、西宮さんのこと下の名前で呼んでもいいですか?」

…あの話聞いてたのにそんなこと言っちゃうんだ。

けど、飛行船は絶対欲しいから私は黙ったまま一度頷く。

佐々木「あとこれは俺のわがままなんで聞かなくてもいいんですけど、出来たら悠雪って呼んでください。」

幸来未「…なんでですか?」

佐々木「佐々木は俺の苗字だけど、グループ名みたいなものなので。俺自身のこと呼んでほしいです。」

幸来未「分かりました。…悠雪さん。」

悠雪「…ありがとうございますっ。」

と、佐々木さんは少し照れながら私に飛行船の置物をくれた。

幸来未「こちらこそ大切な宝物を賭けたり、悠雪さんの大切な時間を使って頂きありがとうございます。」

私はお礼を言って、時音へのプレゼントを落とさないうちに自分で持ってきた大きめの買い物カバンを取り出し、そっと飛行船の置物を入れる。

よかった。
これで時音の誕生日には1番あげたかったものをあげらえる。

私はその安堵感に笑みをこぼしていると、佐々木さんが一歩近づいてきて空いていた手を繋いできた。

悠雪「最寄りまで送ります。」

幸来未「…ありがとうございます。」

私は最後に印象を落とした佐々木さんと一緒にタクシーに乗り、家近くのスーパーで降ろしてもらってゲーム三昧の1日を終えた。


環流 虹向/23:48
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