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環流 虹向

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飛行船と宝物

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スーツ姿の佐々木さんと紀莉哉さんと一緒にゲーム会場に指定された中華街にある高級中華料理店の個室に通され、大きなターンテーブルを前に等間隔で5人分置かれている席にそれぞれ着くと、紀莉哉さんがそれを無視するように私の隣に椅子を持ってやってきた。

紀莉哉「なに持ってきた?」

幸来未「紀莉哉さんは?」

紀莉哉「レコード。みゃあちゃんは?」

幸来未「…その呼び方やめてって言ってるじゃん。」

紀莉哉「じゃあ名前。」

幸来未「西宮。」

紀莉哉「西宮なにさん?」

幸来未「…くるみ。」

紀莉哉「名前も可愛いんだね。」

と、紀莉哉さんは満足げな顔してわざとらしく何度も私の名前を呼ぶ。

そんな紀莉哉さんがピカピカに磨いてきた革靴をそろそろ踏んでもいいかなと考えていると、部屋の扉がノックされた。

佐々木「はい。」

佐々木さんの返事で紀莉哉さんも立ち上がったので私も立ち上がると、扉を開けたのは昨日BARで働いていた凛太郎さんだった。

凛太郎「オーナーはあと3分で到着するそうです。」

そう言って扉近くの空いていた席に凛太郎さんは座った。

それに続いて佐々木さんたちも座ったので私も一緒に座る。

なんだかこういう感じ疲れる…。

社会人、めんどくさい。

佐々木「店長はなにするか聞いてます?」

え?凛太郎さんって店長だったんだ…。

なんかそんな雰囲気ないし、佐々木さんと紀莉哉さんよりも覇気を感じない。

お疲れなのかな…。

凛太郎「聞いてないです。ゲームは兄さんの気まぐれで決めるので。」

紀莉哉「兄弟の特権ないのー?」

凛太郎「あったら20連勤後にここに呼び出さないです。」

…ブラックだ。

しかもお兄さんがオーナーだから強く言っても聞かれないのかもしない。

私は凛太郎さんの環境にひどく同情していると、個室の扉が勢いよく開いて私が苦手なかっちりぴっちり仕事マンが最後の席にどかっと勢いよく座った。

「よし!みんなの宝物、このテーブルの上に出して。」

と、私以外の3人が立っているのを気にせず金持ち主催者はターンテーブルを指し、さっさと出せと促した。

私は1作目のワンナイト短編集をテーブルに置き、みんなが出した宝物を見てみた。

ずっと隣にいる紀莉哉さんは言っていた通り、古めかしいレコード。

その隣にいる眠そうな凛太郎さんは何かの契約書とペン。

次に、遅刻してきた金持ち主催者はあの飛行船の置物。

そして慣れないギャンブルに私と一緒緊張してる佐々木さんは私と似たような紙の束を置いて、みんなそれぞれ賭けるもの出し終えた。

「凛太郎は…、自分の有休。紀莉哉はお宝レコード。悠雪はいつもの原本で、トンボちゃんは…、物語?」

と、金持ち主催者はターンテーブルをゆっくり回し、私の小説を手に取って中身をパラパラと見た。

幸来未「私の経験を元にした短編集です。」

「へー…、1話読んでいい?」

幸来未「い、今ですか?」

「うん。」

幸来未「内容は口に出さないでください…。」

「そんな恥ずかしいこと書いてるんだ。」

そう言って数分パラパラと読んだ金持ち主催者は私の短編集を両手でそっとテーブルに戻した。

「これがなんで宝物なの?」

幸来未「宝物っていうか…、出してもらったお金を考えると60万になるかなと。」

「なるほどね。新しい考えだ。トンボちゃんのお名前は?」

幸来未「西宮 幸来未にしみや ここみです。」

紀莉哉「え?くるみちゃんじゃないの?」

幸来未「幸来未ここみです。」

「…なんで紀莉哉に嘘ついたの?」

と、金持ち主催者はさっきまでにこやかだった顔を崩し、私を怪しむ目で見てきた。

幸来未「…めんどくさい人に名前呼ばれたくなくて。」

紀莉哉「えぇー?ひどいっ。」

幸来未「あとは…」

「あとは?」

幸来未「自分の好きな人だけに名前を呼ばれたいからです…。」

「それは恋人?」

幸来未「友達恋人含め、信頼できる人全員です。」

「…だから短編集はみんな名前が違うの?」

幸来未「はい…。」

私は金持ち主催者の信用を得るために全て正直に話した。

「じゃあ俺は“くるみ”って呼ぶから、くるみは俺のこと“あもん”って呼んで。みんなもくるみの前では俺のこと、オーナーかあもんで。」

「「「はい。」」」

あもん「じゃあ、ゲームを始めよう。」

そう言ってあもんさんは満足気な笑顔を浮かべて、私と目を合わせながらゲームの準備を始めた。


環流 虹向/23:48
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