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環流 虹向

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気かぶり娘

456:21:54

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「…西宮?」

私は自分の世界に浸りすぎて春馬くんに強く肩を引かれるまで呼ばれてることに気づかなかった。

幸来未「ごめん。今何時?」

春馬「3時。結構ボリュームあったから時間かかっちゃった。」

幸来未「…あ、それ30万字近いやつ。」

春馬「だよね。1つ目の短編集と量が違ったもん。」

幸来未「言い忘れてた、ごめん。仕事は?」

春馬「明日から早めの夏休みもらったから2週間くらい暇。」

よかった…。
春馬くん、寝不足になるとバカみたいにカステラ食べるから太らせるところだった。

春馬「西宮は一息つけそう?」

幸来未「うー…ん、この1話分書けたらひと段落って感じ。」

春馬「じゃあそれ終わったらラーメン食べに行こうよ。」

幸来未「え?この時間?」

春馬「頭使ってるから大丈夫だって。少し歩くから気晴らしにもなるよ。」

幸来未「…とんこつ?」

春馬「うん。博多ラーメン。」

それは行くしかない。

私は描いていたストーリーを手早く文字に起こして春馬くんと一緒にまだ涼しい外に出て絶対的に美味しいラーメン屋に向かう。

春馬「前に2人で花火大会行ったことあったね。」

と、春馬くんは私と夜の住宅街であの日を思い出したらしく、少し雲がかかっている星空を見ながらそう呟いた。

幸来未「だね。お金ないから時間逆算して、学校から会場向かったよね。」

春馬「そうそう。さすがに今は出来ないな。」

…私は出来るけど。

そう言いたかったけど、今の春馬くんは冗談にしかとらえないんだろう。

春馬「あの花火大会、また一緒に行かない?」

幸来未「え?」

私は思い出話で終わるだけだと思っていたので素直に驚いてしまった。

春馬「今度はお互い浴衣着て、ちゃんと最初の打ち上げ花火に間に合う時間に行こうよ。」

…なんで、今なんだろう。

その言葉、3年前に欲しかった。

幸来未「仕事は?」

春馬「まだその月の休日を決める時間の余裕はあるし、有休余ってる。」

フリーターにはなかなかない有休を持ち出してきた春馬くんの言葉が私の胸をチクっと刺してきた。

幸来未「…浴衣持ってない。」

春馬「じゃあ、あの小説落ち着いたら一緒に買いに行く?」

幸来未「ギリギリまで直しいれたいなって思ってて…。」

春馬「ずっと聞けなかったけど…、どこかに応募するの?」

幸来未「ううん。9月入るまでに見せたい人がいて…。」

春馬「好きな人?」

幸来未「そういうのじゃない。」

春馬「ならいいじゃん。どんな人に見せるのかは知らないけど、1日2日くらい遊んでも大丈夫だよ。」

…知らなくて『いいじゃん』って言えちゃうんだ。

朝が明けるまで時間が経ってることに気づかないほど集中力があって、5日で長編作品仕上げてた人が『1日2日くらい』って言っちゃうんだ。

やっぱりもう片想いの気持ちなんてどっか行っちゃったよ。

けど、手伝ってくれたお礼はしないといけないか…。

幸来未「…分かった。とりあえず全部仕上げてひと段落出来たらでいい?」

春馬「うん。俺も最後まで手伝うよ。」

幸来未「ありがとう。」

私は笑顔を作って春馬くんと食べたとんこつラーメンを時音に送ってからまた作業に戻った。


環流 虹向/23:48
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