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環流 虹向

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キツネとイヌ

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「60万円分の価値?」

と、時音は私の質問に首を傾げる。

幸来未「うん。お金なくてもそれと同じくらいの価値があったら欲しいものくれるんだって。」

ゲームはしないといけないけど。

そんなギャンブルなことはさすがに言えず、等価交換という話で時音に伝える。

時音「60万稼ぐのが確かだけど大金だもんね…。」

幸来未「うん…。時音だったらどんなものと交換するかなって。」

時音「その60万円の物って絶対欲しいもの?」

幸来未「うん。ぜっったい、欲しい。」

時音「絶対欲しいもので60万分の価値かぁ…。」

時音はベッド脇で考える人のポーズを取りながらクルミみたいな顔をして頭を悩ます。

やっぱり自分の時間を60万円にするしかないかな。

それだと今年に欲しくなったものは大半買えないし、新しい服も買えない。

しかも旅行もしばらく休みだ。

そんなにしてまで時音にプレゼントするか悩むよ。

もういっそのこと、ドローンで手を打とうかな。

時音「僕なら今まで貰った台本集かな。」

と、渋い顔をしながら時音は言った。

幸来未「60万?」

時音「自分的には2億くらい価値あるよ。」

幸来未「生涯年収じゃん。」

時音「うん。そのくらい価値あるよ。」

幸来未「…そうなの?」

時音「うん。ボロボロで書き込みばっかだけどそれが新品の台本より価値があるって僕は言える。」

時音は一切笑わずに真剣な顔で私にそう教えてくれた。

幸来未「そんな自信持って言えるの羨ましいな。」

私はなんもないな。

中学生の頃に趣味で始めた書き物と時たま書く日記くらいしか私の思い出の価値はない。

時音「自分が過ごしてきた価値のある時間がいっぱい詰め込まれてるのは理解してくれそうだなって。」

なるほどな。

…過去の自分で60万分。

それはいいアイデアだけど…、あれらに60万の自信はないかな。

幸来未「ありがとう。ちょっといいアイデア浮かんだ。」

時音「…幸来未自身は売らないでよ?」

幸来未「しないよ。自分の時間取られるの好きじゃないから。」

時音「よかった…。」

と、時音は私が潰れそうなくらい力強く抱きしめてきた。

幸来未「…い、いたい。」

時音「お金足りないなら貸すよ。」

幸来未「そういうのじゃないから…。けど、今日は割り勘ね。」

時音「うん。僕持ちでもいいけど。」

幸来未「それは…、悪いから…。」

時音「分かった。」

時音はそっと力を緩めて胸で潰されていた私の顔をすくい上げるようにキスしてベッドに押し倒した。

時音「ちゃんと勉強してきた。」

幸来未「芝居?」

時音「芝居も幸来未が喜びそうなことも。」

幸来未「そう。してみて。」

私は時音のガウンのリボンを外しながらしっかり予習してきたど真面目な時音とたくさんキスをしながら体を触れられ、初めて腰が飛んできそうになって焦る。

時音「リラックスが肝心だって。」

幸来未「誰が言ってたの?」

時音「誰だったら幸来未は嫉妬してくれるの?」

幸来未「…いないけど。」

時音「…そっか。」

…そんなわかりやすくしょげないでよ。

今まで芝居うまかったのになんですぐに時音が戻ってきちゃうの?

しかも今日は私の口に親指入れながら自分のエクレア温めちゃって…。

誰がそんなこと時音に教えたんだよ。

知恵がない時音を見るのが好きだったけど、なんだかいろんな知恵つけてきちゃったな…。

勉強しろって言ったのは私だけど、他の人が見えちゃうような自習はして欲しくなかったな。

自分勝手で、友達でも、恋人でもないけど、レンジに忘れられたしらすコロッケを食べる時くらい美味しいって思いたかったな。

私は初めて時音に腰を浮かされながらもう少しでまた1人になるのを感じ、寂しさで目を温めてしまった。


環流 虹向/23:48
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