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キツネとイヌ
565:05:44
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あれから思ったよりお金がカツカツで日帰り旅行の鎌倉は冬が明ける頃になってしまった。
いつもより少し温かい気候になってきたいつもの街で1人、冷えたコロッケをぶら下げてやってきたのはあの飛行船があるBAR。
あれから1週間後にバーテンダーの佐々木さんに電話してみようとしたら、カバンの中でぶちまけた化粧水で番号が分からなくなってしまったので時間がある今日お店に行って聞くことにした。
私は初めてあのBARに1人で行ってみると、平日のディナー時なこともあってかお客さんは3人の女性1組しかいなかった。
これだったらめんどくさいことにならずに済みそうだなと私はホッとしながらあの飛行船がある目の前の席に座る。
すると、私が来店した時にはいなかったバーテンダーさんがカウンター下から突然飛び出してきた。
「…い、いらっしゃいませ。お飲み物はお決まりですか?」
私と同じように驚いた顔をしたバーテンダーさんは平然を装うようにそう聞いてきた。
幸来未「え…っと…、シンデレラお願いします。」
「はい。かしこまりました。」
そう言ってバーテンダーさんは手早くカクテルを作り始めた。
私はその間に驚いて心拍数が上がった心臓を落ち着けていると、お店前にあるエレベーターから私服姿の佐々木さんがやってきた。
佐々木「…あ!この間の!」
幸来未「こんばんは。電話繋がらなかったので直接来ちゃいました。」
佐々木「そうなんですね。すみません。イン時間ギリギリなんで着替えてからお話でも大丈夫ですか?」
幸来未「はい。時間はあるので。」
佐々木「ありがとうございます。」
佐々木さんは軽く私に頭を下げて足早にスタッフルームに駆け込んだ。
すると、さっきまで賑やかだった女性グループの会話声が暗くなった。
…やらかしたかも。
佐々木さん、思ってたより人気ある人なんだ。
私が佐々木さんに気安く喋りかけてしまったことに後悔していると、目の前にあのカクテルが置かれた。
「今日は悠雪目当て?」
と、少し不機嫌そうなバーテンダーさんは私にそう聞いてきた。
幸来未「違います…。前にこの飛行船のことを相談してて…」
「ああ!トンボちゃんか!」
幸来未「とんぼ…?」
「こっちの話。俺、紀莉哉って言います。この飛行船欲しいんだってね。」
…距離感の詰め方、好きじゃない。
幸来未「ネットで探したんですけど見つからなくて…。」
紀莉哉「そうなんだ。意外と高いもんなのかな。」
幸来未「作り的にそうかなって思って値段と売り場の情報が欲しかったんです。」
紀莉哉「なるほどねー。オーナーが持ってくるもんって、ガラクタばっかりだから俺ら的に持ってってほしいけどなー。」
人が欲しいと思ってるものに“ガラクタ”って平然と言えちゃう感じ、好きじゃないな。
私はそこから適当に紀莉哉さんとの会話を流していると、制服姿の佐々木さんが戻ってきた。
紀莉哉「この子がトンボちゃんなんだ?悠雪がきにぃ…」
佐々木「あっちの卓、グラス空になってる。」
佐々木さんは紀莉哉さんが何か言おうとした口を押さえるように頬を鷲掴みして、仕事をこなすよう伝えた。
紀莉哉「あぁったってぇ。いっえくりゅー…。」
紀莉哉さんはいつもやられて慣れてるのか、顔を変えず声が落ち着いてしまった女性グループの卓に向かった。
佐々木「すみません。紀莉哉って喋ってないと落ち着かない奴なんで。」
確かに。そんな感じするな。
幸来未「いえいえ。お話たくさんするバーテンダーさんって楽しいです。」
私は当たり障りのないことを言い、その場の変な空気を落ち着かせる。
佐々木「そう言っていただけるとありがたいです。あ!そうそう、この飛行船なんですが…」
と、佐々木さんは私の目の前にある飛行船を指し、少し眉を寄せた。
佐々木「オーナーがアンティークショップで大体60万で買ったやつらしいんですよ。」
幸来未「え…?60まん…?」
私の3ヶ月半分の給料なんだけど。
そんなに高いもの、ぽんっとこんなとこに置いといていいの?
しかも、従業員2人からいらないって言われちゃう始末なのに?
佐々木「はい、60万らしいです。それでオーナーが…」
紀莉哉「“悠雪”のオールド・パル3つぅ。」
と、注文を終えた紀莉哉さんがふてくされながらカウンターに戻ってきた。
佐々木「はいはい。なんでいつもそれ頼むんだろう。」
紀莉哉「知らん。」
そう言いながら2人はそれぞれ仕事を始めた。
佐々木「…で、オーナーが飛行船を賭けてゲームしないかって提案してきたんですがします?」
私は佐々木さんがカクテルを作りながら思ってもなかったことを言ったので、思わず口からジュースをこぼす。
幸来未「げ、げーむって…?」
私は焦りながら目の前にあった紙ナフキンで口元を拭く。
佐々木「内容は教えてくれなかったんですけど、同じくらい価値があるものを持ち寄ってゲームしようって言ってました。」
どっかの人生逆転ゲームじゃないんだからそんな怖いこと提案しないでほしい。
けど、そのゲームの主催者も金持ちだったよなと思い出し、私は肩を落とす。
幸来未「私、60万円の価値があるもの持ってないです。」
紀莉哉「トンボちゃん自身は?」
佐々木「冗談でもそんなこと言うな。」
本当だよ。
それなら私の3ヶ月半はそのオーナーの物になっちゃうし、そんなことは避けたい。
佐々木「えっと…、お客様のお名前は?」
幸来未「え?西宮です…。」
佐々木「西宮さん自身が『これには60万円の価値がある』って自信を持って言えるものであればなんでもいいって言ってました。」
…そんなものないよ。
何か才能があって価値を生み出せる人間だったら良かったけど、あいにくそんな人間にはなれなかった。
佐々木「ゲームはいつでもいいそうです。だから西宮さんがやるかやらないか決められます。」
幸来未「…ちょっと考えます。」
私は思ったより入手困難な飛行船をどう手に入れるか考えながら佐々木さんの連絡先をもう一度貰い、グラスが空く頃に時音を呼び出していつも通りホテルに行った。
環流 虹向/23:48
いつもより少し温かい気候になってきたいつもの街で1人、冷えたコロッケをぶら下げてやってきたのはあの飛行船があるBAR。
あれから1週間後にバーテンダーの佐々木さんに電話してみようとしたら、カバンの中でぶちまけた化粧水で番号が分からなくなってしまったので時間がある今日お店に行って聞くことにした。
私は初めてあのBARに1人で行ってみると、平日のディナー時なこともあってかお客さんは3人の女性1組しかいなかった。
これだったらめんどくさいことにならずに済みそうだなと私はホッとしながらあの飛行船がある目の前の席に座る。
すると、私が来店した時にはいなかったバーテンダーさんがカウンター下から突然飛び出してきた。
「…い、いらっしゃいませ。お飲み物はお決まりですか?」
私と同じように驚いた顔をしたバーテンダーさんは平然を装うようにそう聞いてきた。
幸来未「え…っと…、シンデレラお願いします。」
「はい。かしこまりました。」
そう言ってバーテンダーさんは手早くカクテルを作り始めた。
私はその間に驚いて心拍数が上がった心臓を落ち着けていると、お店前にあるエレベーターから私服姿の佐々木さんがやってきた。
佐々木「…あ!この間の!」
幸来未「こんばんは。電話繋がらなかったので直接来ちゃいました。」
佐々木「そうなんですね。すみません。イン時間ギリギリなんで着替えてからお話でも大丈夫ですか?」
幸来未「はい。時間はあるので。」
佐々木「ありがとうございます。」
佐々木さんは軽く私に頭を下げて足早にスタッフルームに駆け込んだ。
すると、さっきまで賑やかだった女性グループの会話声が暗くなった。
…やらかしたかも。
佐々木さん、思ってたより人気ある人なんだ。
私が佐々木さんに気安く喋りかけてしまったことに後悔していると、目の前にあのカクテルが置かれた。
「今日は悠雪目当て?」
と、少し不機嫌そうなバーテンダーさんは私にそう聞いてきた。
幸来未「違います…。前にこの飛行船のことを相談してて…」
「ああ!トンボちゃんか!」
幸来未「とんぼ…?」
「こっちの話。俺、紀莉哉って言います。この飛行船欲しいんだってね。」
…距離感の詰め方、好きじゃない。
幸来未「ネットで探したんですけど見つからなくて…。」
紀莉哉「そうなんだ。意外と高いもんなのかな。」
幸来未「作り的にそうかなって思って値段と売り場の情報が欲しかったんです。」
紀莉哉「なるほどねー。オーナーが持ってくるもんって、ガラクタばっかりだから俺ら的に持ってってほしいけどなー。」
人が欲しいと思ってるものに“ガラクタ”って平然と言えちゃう感じ、好きじゃないな。
私はそこから適当に紀莉哉さんとの会話を流していると、制服姿の佐々木さんが戻ってきた。
紀莉哉「この子がトンボちゃんなんだ?悠雪がきにぃ…」
佐々木「あっちの卓、グラス空になってる。」
佐々木さんは紀莉哉さんが何か言おうとした口を押さえるように頬を鷲掴みして、仕事をこなすよう伝えた。
紀莉哉「あぁったってぇ。いっえくりゅー…。」
紀莉哉さんはいつもやられて慣れてるのか、顔を変えず声が落ち着いてしまった女性グループの卓に向かった。
佐々木「すみません。紀莉哉って喋ってないと落ち着かない奴なんで。」
確かに。そんな感じするな。
幸来未「いえいえ。お話たくさんするバーテンダーさんって楽しいです。」
私は当たり障りのないことを言い、その場の変な空気を落ち着かせる。
佐々木「そう言っていただけるとありがたいです。あ!そうそう、この飛行船なんですが…」
と、佐々木さんは私の目の前にある飛行船を指し、少し眉を寄せた。
佐々木「オーナーがアンティークショップで大体60万で買ったやつらしいんですよ。」
幸来未「え…?60まん…?」
私の3ヶ月半分の給料なんだけど。
そんなに高いもの、ぽんっとこんなとこに置いといていいの?
しかも、従業員2人からいらないって言われちゃう始末なのに?
佐々木「はい、60万らしいです。それでオーナーが…」
紀莉哉「“悠雪”のオールド・パル3つぅ。」
と、注文を終えた紀莉哉さんがふてくされながらカウンターに戻ってきた。
佐々木「はいはい。なんでいつもそれ頼むんだろう。」
紀莉哉「知らん。」
そう言いながら2人はそれぞれ仕事を始めた。
佐々木「…で、オーナーが飛行船を賭けてゲームしないかって提案してきたんですがします?」
私は佐々木さんがカクテルを作りながら思ってもなかったことを言ったので、思わず口からジュースをこぼす。
幸来未「げ、げーむって…?」
私は焦りながら目の前にあった紙ナフキンで口元を拭く。
佐々木「内容は教えてくれなかったんですけど、同じくらい価値があるものを持ち寄ってゲームしようって言ってました。」
どっかの人生逆転ゲームじゃないんだからそんな怖いこと提案しないでほしい。
けど、そのゲームの主催者も金持ちだったよなと思い出し、私は肩を落とす。
幸来未「私、60万円の価値があるもの持ってないです。」
紀莉哉「トンボちゃん自身は?」
佐々木「冗談でもそんなこと言うな。」
本当だよ。
それなら私の3ヶ月半はそのオーナーの物になっちゃうし、そんなことは避けたい。
佐々木「えっと…、お客様のお名前は?」
幸来未「え?西宮です…。」
佐々木「西宮さん自身が『これには60万円の価値がある』って自信を持って言えるものであればなんでもいいって言ってました。」
…そんなものないよ。
何か才能があって価値を生み出せる人間だったら良かったけど、あいにくそんな人間にはなれなかった。
佐々木「ゲームはいつでもいいそうです。だから西宮さんがやるかやらないか決められます。」
幸来未「…ちょっと考えます。」
私は思ったより入手困難な飛行船をどう手に入れるか考えながら佐々木さんの連絡先をもう一度貰い、グラスが空く頃に時音を呼び出していつも通りホテルに行った。
環流 虹向/23:48
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