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環流 虹向

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キツネとイヌ

591:23:28

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…終電なくなった。

しかも、これで5杯目。

すごいペースでアルハラしてくるんだけど。

どうしよ…、時音がこの街にいる確証はないし、バッテリーはあと5%しかない。

一応連絡入れておこうかな。

私はずっとつまらない会話をし続ける佐原さんから1度離れるためにトイレに駆け込み、電話をかけてみるけれど時音は出てくれなかった。

けれど嫌な予感がする私は『5分後、飛行船のBARに来て』とだけメッセージを送り、トイレを出て席で誰かと電話している佐原さんの目を盗んでバーテンダーさんに声をかける。

幸来未「すみません。」

「はい。こちらにメニューが…」

幸来未「いえ。この飛行船の置物ってどこで買ったんですか?」

私は手短に会話を済ませるためにバーテンダーさんの言葉を遮って急いで質問した。

「あ、これ、ここのオーナーが来た時に勝手に置いていったんです。だから販売元は分からないんですよ。」

幸来未「そう…、なんですか…。」

どうしよ…。

ネットで似たものは一切出てこなかったし、もしかしたら一点モノなのかも。

「これ、欲しいんですか?」

と、バーテンダーさんは悩む私の顔を見て心配げに聞いてきた。

幸来未「あ…、はい。プレゼントしたくて…。」

「そうなんですね…。私的には持っていってもらって結構なんですけど、店長とオーナーがどう思ってるか分からないので…。」

幸来未「そうですよね…。」

私は諦めてドローン型の飛行船にするかと予定変更しようとしていると、バーテンダーさんが12桁の数字と『佐々木 悠雪』と書かれた紙コースターを私に差し出してきた。

「これ、私の番号です。1週間後、お客さんのご都合がいい時間に電話を下さったら結果をお伝えします。」

幸来未「ありがとうございます…、佐々木さん。」

私は携帯番号の上に書かれていた名前を読んでお礼を言い、佐原さんにバレないようすぐにハイウエストジーンズのポケットに入れて席に戻る。

すると佐原さんは慌てて電話をやめて、また私にアルハラをしてきた。

けど、まだ酔いきってない私はしっかり電話先の声が聞こえた。

幸来未「憂蘭からですよね?帰らないんですか?」

私がそう言うと佐原さんはため息をつき、私と肩を触れ合わせた。

佐原「憂蘭とは付き合ってないよ。俺、フリーな人。」

けど、“らんちゃん”から“憂蘭”って呼び方変えてるじゃん。

大人のくせに分かりやすい事後見せるなよ。

幸来未「…憂蘭はそう思ってないかも。」

佐原「けど、お互い告ってないから。」

そう言って佐原さんは私の首を少しざらついた大きな手でそっと掴み、キス一歩手前まで近づけていた顔を止めた。

佐原「俺がタイプなのってここちゃんみたいに小さくて可愛らしい子なんだ。憂蘭は綺麗系だから違うよ。」

違うけどやったんじゃん。

穴があればなんでもいいんでしょ?

佐原「俺たちいい関係になれると思うんだ。話は合うし、呑むペースも合うし、キスも相性ぴったり。」

そう言って佐原さんは私の首を強めに掴み、自分の唇に私の唇を引き寄せて私の苦手な芋焼酎の味を口全体に染み込ませてくる。

幸来未「…やめてください。」

佐原「いいじゃん。フリー同士、仲良くしようよ。」

こいつ、好きでフリーやってんじゃなくてわざとフリーなんだ。

1番タチ悪い。

私はコート代わりで着てきたモコモコニットの下に手を入れられそうになっているのを止めていると、首を持っていた手が離れその手で胸を揉まれた。

幸来未「おやすみなさいっ。」

私はやっと首から手が離れたことをきっかけにわざと軽装にしてきたクラッチバッグだけを手に取り、お店の外に出て目の前にあるエレベーターには乗らずに階段を5階分急いで駆け下りる。

まだ会計してないし、レジでは2組精算途中のお客さんがいたからすぐには出れない。

いいタイミングで揉んでくれたなと私はふつふつと湧く怒りを抑えていると、BARが入っているビル前で時音が寒そうにして立ったまま私を待っていた。

幸来未「行こ。」

私は少し冷たくなっていた時音の手を掴み、驚いたままの時音と一緒に近場のゲームセンターに入って息を整えることにした。


環流 虹向/23:48
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