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環流 虹向

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キツネとイヌ

602:01:45

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私は彼女さんが休憩室に入ったのをしっかりと目で確認してからキッチンで仕込みをしていた佐原さんに声をかけた。

幸来未「佐原さん、あの…」

佐原「あ、ここちゃん。暇だったら梅の仕込みやってくれる?」

幸来未「…あ、はい。」

仕事してる時は意外に淡白なんだよなぁと思っていると、佐原さんは私の隣に来て解凍していた豚バラのグラムを測り始めた。

佐原「冬は暇だねー。まあ、時給換算だから暇な方が嬉しいけど。」

幸来未「そうですね…。」

毎日同じことしか繰り返さない佐原さんの会話をどうやって割こうかタイミングを探していると、休憩しているはずの憂蘭さんがキッチンにやってきた。

憂蘭「ホール誰もいないけど。」

と、憂蘭さんは上から目線を落とし、私を若干睨みつけてきた。

佐原「客2組しかいないし、仕込み溜まってるから。憂蘭はまかない?」

憂蘭「うんっ、そう。」

…はあ、だるいよ。

そうやってコロコロ顔変えるの、意外と男の人見てるよ?

きっとすぐ別れるんでしょ?

それでこのバイト辞めて、次のバイト先でも男作るんでしょ?

私は数ヶ月後の2人がいなくなったこの仕事場を想像し、思わず笑みがこぼれてしまう。

憂蘭「…なに?」

幸来未「ん?2人が夫婦みたいだなって。」

憂蘭「えー♡そう?」

佐原「どんなとこがー?」

2人は1つのまかないうどんを作るだけで4つの手を使っていて、とても気持ちが悪い。

幸来未「共同作業してるところとか、さっきの阿吽の呼吸とか。」

私が適当に褒めると憂蘭さんは照れ笑いをして、佐原さんは愛想笑いをした。

やっぱりそういうことか。

私は2人の終わりが見えてまた気持ちを踊らせていると、うどんが出来上がった憂蘭さんは嬉しそうに休憩室に戻っていった。

佐原「知ってたんだ?」

幸来未「はい。店長が暴露してきました。」

佐原「…この間、呑んだ日のこと覚えてる?」

覚えてるよ。

クソまずいウイスキーの舌を入れてきたことは今日までずっと呪ってきたよ。

幸来未「ごはんご馳走してもらったのは覚えてるんですけど、そこからあんまり…。気づいたら弟と寝ててびっくりしました。」

佐原「そっか。だいぶ酔ってたから弟さん来てくれてよかったよ。」

幸来未「…あ、でも、このBARって佐原さんと行ったところですかね?」

私は自分の携帯であのカクテルの写真を見せると、佐原さんは仕込みしていた手を止めて話に集中し始めた。

佐原「ん?あ、そうそう。このカクテルお気に入りなの?」

幸来未「いや、そういう…」

佐原「覚えてないなら連れてってあげるよ。来週の水曜どう?」

…水曜って憂蘭さんいない日じゃん。

幸来未「彼女持ちの人と出かけるのはちょっと。」

佐原「俺は大丈夫だから。憂蘭も友達と呑みなら気にしないって言ってたし。ね?」

ね?じゃねーよ。

女1人を本気酔いさせるまで呑ませる人ともう出かけたくないよ。

しかも私たち友達じゃないし。

幸来未「次の日、友達と早朝から箱根にドライブ予定なんです。だから…」

佐原「んー、じゃあ土曜日は?」

まーた、彼女さんいない日だよ。

なんで付き合ったの?

酔いの勢いで告って鵜呑みにされたの?

それか数ヶ月間だけしなびたジャーキー潤すため?

何にしろ、佐原さんとは呑みたくない。

けど…、あの飛行船の情報は欲しい。

幸来未「…次の日、遊園地行くので1杯だけなら。」

佐原「うん。分かった。1杯ね。」

そう言うと佐原さんは満足げな顔をして止めていた仕込みをまた始めた。

…やだな。

けど、高そうだから貯金しないと。

目安知れたら体調悪いフリして帰ろ。

私は来週の土曜は走るのが楽なスニーカーを履くことを脳内リストに入れて、初めてちゃんとした貯金計画をすることにした。


環流 虹向/23:48
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