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環流 虹向

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猫ずきんちゃん

637:22:57

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水、おいしい…。

私はずっと飲みたかった水をタクシー代で買い、凍える花壇のふちに座って一息つく。

時音「あげチキン買ったけど食べる?」

幸来未「あれ?唐揚げ棒は?」

時音「なかった。だから代わりのあげチキン。」

幸来未「そっか。」

私は自分の太ももにペットボトルを挟み、時音からあげチキンをもらって口に入れる。

うん、うまいっ。

苦い味を濃い油で落としてくれる気がする。

時音「今日は終電で帰らなかったんだね。」

そう言いながら時音は私の隣に座り、あげチキンと紙パックのココアで両手を塞ぎながら聞いてきた。

幸来未「うん。呑みに誘われちゃったから。時音も電車ないよね?」

だから来ないと思ってたのに。

あの写真だけで場所なんか分からないと思ったのに。

時音「今日は稽古集中しすぎて終電逃しちゃって。1人でやってるとアラームつけてても気づけないんだよね。」

幸来未「…友達は先に帰ったの?」

時音「今、年末じゃん?だから仕事掛け持ちしてる人とか帰省する人とか色々用事ある人が多くて、今日来たのは5人だけでさ。その人たちも早めに帰っちゃったから1人だったんだ。」

そういうもんなんだ。

夢がある人って年中無休でその事やってるんだと思ってた。

時音「幸来未の年末の予定は?」

と、時音はマカロンみたいな目をして笑い、私に聞いてきた。

幸来未「のんびりしてる。実家に帰る気もないよ。」

時音「え?なんで?」

幸来未「帰ってもうるさいだけだもん。」

ちゃんとした仕事につけ。

仕事につかないなら婚活しろ。

結婚相手を見つけられないなら介護の勉強しろ。

私以外の都合で全てを決められる将来を提案される。

ふらふらフリーターなのは私的にも想定外だったけど、それでもある程度やっていけてるんだからなにも言わないでほしい。

とういうより私に口出さないでほしい。

そういうのめんどくさいし、嫌いだし、期待に応えるつもりはない。

時音「意外と箱入り娘?」

幸来未「向こうが自分勝手なだけだよ。時音は帰らないの?」

時音「毎日帰ってる。」

幸来未「実家暮らしなの?」

時音「うん。ここから1時間かかるけど東京だから。」

実家が東京なら出なくてもいいよね。

まあ、私は東京でも実家が嫌だから無理矢理出たけど。

幸来未「家族はお芝居のこと、応援してくれてるの?」

時音「一応。制限時間あるけどね。」

幸来未「制限時間?」

時音「20歳が終わるまでに俳優一本で食べられるようになれなかったらまともな仕事に就けって。」

…どこの親もそういう感じなんだな。

けど、夢を応援する時間はくれるんだ。

いいな。

幸来未「頑張りどきだね。出来そう?」

時音「うー…ん、劇団の公演はまあまあ席埋まってるけど8割エリカさんのファンだね。」

幸来未「エリカさんって人が1番人気なんだ?」

時音「うん。今度ドラマに出るんだって。」

幸来未「すごいね。時音が出たら教えてね。」

時音「…うん!頑張るね!」

やりたいことを応援する人は0よりも1いたら嬉しい。

自分もそうだったから今頑張ってる人は応援したいし、見ていたい。

何か出来るって訳じゃないけど、辞める理由を1つでも減らす理由に私はなりたい。

幸来未「寒いから行こっか。」

時音「どこに?」

幸来未「テレビあるとこ。」

私は時音の手を引いて自分からあの部屋に向かった。


環流 虹向/23:48
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