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猫ずきんちゃん
637:23:23
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「もう一軒行こうよ。」
お決まりごとのようにしっかりと約束を破る佐原さんは私のダウンコートの袖を掴み、ホテル街近くにある呑み屋に足を進め始める。
幸来未「…お金ないし、電車もなくなっちゃいます。」
無理矢理強めのお酒を呑まされたから良い言い訳が見つからない。
どうやって帰ろう…。
佐原「今日は俺が全部奢るし、タク代出すって言ったじゃん。」
幸来未「もう…、お腹いっぱいですよ…。」
佐原「じゃあお酒が美味しいとこ行こっか。」
いつも私の話なんか誰も聞いてくれないんだ。
聞いてるようで聞いてないから、私はいつもその人の波に流されて気づいたら自分のじゃないベッドで寝てるのがお決まり。
今日もそうなっちゃうんだろうなと思いながら佐原さんに連れて来られたBARのソファー席で酔いがだいぶ回ってきた体を休ませていると、自分の携帯の通知音が鳴った。
きっと、さっき手から滑り落ちた時の衝撃でミュート解除されてしまったんだろう。
トイレに行く佐原さんの背中を見送りながら自分の携帯画面を開くと今日のブログが更新された通知だった。
私はいつも通りスタンプだけで済まそうと思っていると、バーテンダーさんがやってきて私の目の前にカクテルグラスに入った淡いオレンジ色のドリンクを置いた。
幸来未「…頼んでないです。」
「あちらの方から。ノンアルコールのシンデレラです。」
そう言ってバーテンダーさんはカウンター席でずっと1人で静かに呑んでいた私の憧れがいっぱい詰まっている女性を手で指すとバーカウンターの方へ戻っていった。
私はその女性の横目に映るよう少し体を乗り出して会釈し、初めて女性からご馳走してもらった記念にそのカクテルと背景越しに女性を写し、写真に残した。
ずっと度数が強いお酒ばかり呑まされてたから助かった。
これで少し延命できる。
私は女性に感謝しながらカクテルを飲み、少し覚めた体で時音にカクテルの写真を送る。
『初めてごちそうしてもらった。』
私は初めてを誰かにただただ自慢したくて、少し笑みをこぼしながら時音からの返事を待っていると、先に佐原さんがトイレから戻ってきてしまった。
佐原「ドリンク頼んだんだ?」
幸来未「はい。オレンジベースのカクテルです。」
私は携帯のミュートをつけたことを確認してそのままカバンにしまい、佐原さんに飲まされたアルコールを流すためにジュースを流し込む。
そうやってどうにもならないアルコールを浄化しようと次はトイレに行き、酔いを出来るだけ覚まして席に戻ると、佐原さんが会計を終えて外に出る準備をし始めていた。
幸来未「…ご馳走さまです。」
私はふわふわする足で駆け寄り、佐原さんに一応お礼を言う。
佐原「うん。じゃあ行こっか。」
幸来未「…はい。」
私も外に出る準備をしようとソファーに座り、テーブルの片付けを始めると佐原さんが首を傾げてお尻半分近づいてきた。
佐原「なにしてるの?」
幸来未「片付けやすいように。ある程度まとまってた方がお店の人が嬉しいと思うので。」
佐原「それって店がやることじゃん。」
幸来未「それでも…」
佐原「そんなのやらないで早く行こうよ。」
そう言って、佐原さんが出した紙くずをまとめていた私の手を佐原さんは乱暴に掴み、一緒に立ち上がらせた。
幸来未「…どこに行くんですか。」
佐原「2人で楽しめるとこ。」
…やだ。
行きたくない。
幸来未「もう、眠いです。」
佐原「うん。寝れるところだから。」
そう言って佐原さんは私の肩にコートをかけて、私の手とカバンを取り、エレベーターに乗り込んだ。
佐原「ここちゃんはお酒弱めなんだね。」
…やだ。
私の手、握らないで。
私のカバン、返して。
もう1人で帰るから。
佐原「ここちゃんみたいな子、俺タイプなんだよね。」
私じゃないなら連れてかないで。
私はあなたのこと好きじゃないもん。
佐原「…ここちゃん?酔いすぎた?」
佐原さんはエレベーターから降りて、なにも喋らなくなった私の顔を覗き込むと目から唇に目線を移した。
佐原「ここから3分も歩かないから。ね?」
そう言って佐原さんは私の唇に自分の唇を押し当てて、私の嫌いな苦味のあるウイスキー味の舌を絡ませてきた。
私は抵抗しても無駄なのは分かってるから佐原さんの気が済むまでさせておこうと思っていると、息の荒い人がやって来てエレベーター前にいる私たちを無視し、エレベーターのボタンを強めに連打し始めた。
佐原「行こうか。」
幸来未「…うん。」
佐原さんは邪魔者が来たのが嫌だったらしく、私の手を繋ぎ直して3分で着くという目の前にあるホテル街へ足を進めようとすると、私の手が熱い手に引き離されて動きを止めた。
佐原「…お前、なに?」
佐原さんが睨んでいる先にいた私と手を繋いだままの人を見上げると、驚きで少し酔いが覚める。
幸来未「とき…、と?」
佐原「…ここちゃんの知り合いなの?」
時音「知り合いです。これから一緒にごはん行くんです。」
佐原「ここちゃん腹一杯だからここのBARに来たんだよ。しかも今日は俺だけと呑む約束だから邪魔しないでくれる?」
時音「…けど、幸来未の顔色悪いですよ。」
佐原「酔ってるだけだよ。だからゆっくり出来る場所に連れてく。」
そう言って佐原さんが私に手を伸ばしてきたのを時音は柔らかく払いのけた。
時音「僕が連れてくんで大丈夫です。」
佐原「…お前、幸来未ちゃんとどういう関係?」
時音「関係は…」
関係性を聞かれて口ごもるのはダメだよ。
もっとめんどくさいことになる。
幸来未「弟です…。これ以上、佐原さんに迷惑かけちゃうのは嫌だなって思って…、呼んでたの忘れてました…。」
佐原「そう、なんだ…。そっか…。じゃあ、弟さんにタク代渡しておくね。」
そう言って佐原さんは時音に1万円を渡し、私にカバンを返すとまた来週と言って1人で帰っていった。
私はやっと1人になれたとホッとしていると、それを否定するように熱い手が私の手を強く握りしめた。
時音「…帰ります?」
幸来未「帰りたくない…。」
ちょっと怖かったからもうちょっとその温かい手、繋いでたい。
私はわがままを聞いてくれる時音を利用して少しだけ夜を伸ばすことにした。
環流 虹向/23:48
お決まりごとのようにしっかりと約束を破る佐原さんは私のダウンコートの袖を掴み、ホテル街近くにある呑み屋に足を進め始める。
幸来未「…お金ないし、電車もなくなっちゃいます。」
無理矢理強めのお酒を呑まされたから良い言い訳が見つからない。
どうやって帰ろう…。
佐原「今日は俺が全部奢るし、タク代出すって言ったじゃん。」
幸来未「もう…、お腹いっぱいですよ…。」
佐原「じゃあお酒が美味しいとこ行こっか。」
いつも私の話なんか誰も聞いてくれないんだ。
聞いてるようで聞いてないから、私はいつもその人の波に流されて気づいたら自分のじゃないベッドで寝てるのがお決まり。
今日もそうなっちゃうんだろうなと思いながら佐原さんに連れて来られたBARのソファー席で酔いがだいぶ回ってきた体を休ませていると、自分の携帯の通知音が鳴った。
きっと、さっき手から滑り落ちた時の衝撃でミュート解除されてしまったんだろう。
トイレに行く佐原さんの背中を見送りながら自分の携帯画面を開くと今日のブログが更新された通知だった。
私はいつも通りスタンプだけで済まそうと思っていると、バーテンダーさんがやってきて私の目の前にカクテルグラスに入った淡いオレンジ色のドリンクを置いた。
幸来未「…頼んでないです。」
「あちらの方から。ノンアルコールのシンデレラです。」
そう言ってバーテンダーさんはカウンター席でずっと1人で静かに呑んでいた私の憧れがいっぱい詰まっている女性を手で指すとバーカウンターの方へ戻っていった。
私はその女性の横目に映るよう少し体を乗り出して会釈し、初めて女性からご馳走してもらった記念にそのカクテルと背景越しに女性を写し、写真に残した。
ずっと度数が強いお酒ばかり呑まされてたから助かった。
これで少し延命できる。
私は女性に感謝しながらカクテルを飲み、少し覚めた体で時音にカクテルの写真を送る。
『初めてごちそうしてもらった。』
私は初めてを誰かにただただ自慢したくて、少し笑みをこぼしながら時音からの返事を待っていると、先に佐原さんがトイレから戻ってきてしまった。
佐原「ドリンク頼んだんだ?」
幸来未「はい。オレンジベースのカクテルです。」
私は携帯のミュートをつけたことを確認してそのままカバンにしまい、佐原さんに飲まされたアルコールを流すためにジュースを流し込む。
そうやってどうにもならないアルコールを浄化しようと次はトイレに行き、酔いを出来るだけ覚まして席に戻ると、佐原さんが会計を終えて外に出る準備をし始めていた。
幸来未「…ご馳走さまです。」
私はふわふわする足で駆け寄り、佐原さんに一応お礼を言う。
佐原「うん。じゃあ行こっか。」
幸来未「…はい。」
私も外に出る準備をしようとソファーに座り、テーブルの片付けを始めると佐原さんが首を傾げてお尻半分近づいてきた。
佐原「なにしてるの?」
幸来未「片付けやすいように。ある程度まとまってた方がお店の人が嬉しいと思うので。」
佐原「それって店がやることじゃん。」
幸来未「それでも…」
佐原「そんなのやらないで早く行こうよ。」
そう言って、佐原さんが出した紙くずをまとめていた私の手を佐原さんは乱暴に掴み、一緒に立ち上がらせた。
幸来未「…どこに行くんですか。」
佐原「2人で楽しめるとこ。」
…やだ。
行きたくない。
幸来未「もう、眠いです。」
佐原「うん。寝れるところだから。」
そう言って佐原さんは私の肩にコートをかけて、私の手とカバンを取り、エレベーターに乗り込んだ。
佐原「ここちゃんはお酒弱めなんだね。」
…やだ。
私の手、握らないで。
私のカバン、返して。
もう1人で帰るから。
佐原「ここちゃんみたいな子、俺タイプなんだよね。」
私じゃないなら連れてかないで。
私はあなたのこと好きじゃないもん。
佐原「…ここちゃん?酔いすぎた?」
佐原さんはエレベーターから降りて、なにも喋らなくなった私の顔を覗き込むと目から唇に目線を移した。
佐原「ここから3分も歩かないから。ね?」
そう言って佐原さんは私の唇に自分の唇を押し当てて、私の嫌いな苦味のあるウイスキー味の舌を絡ませてきた。
私は抵抗しても無駄なのは分かってるから佐原さんの気が済むまでさせておこうと思っていると、息の荒い人がやって来てエレベーター前にいる私たちを無視し、エレベーターのボタンを強めに連打し始めた。
佐原「行こうか。」
幸来未「…うん。」
佐原さんは邪魔者が来たのが嫌だったらしく、私の手を繋ぎ直して3分で着くという目の前にあるホテル街へ足を進めようとすると、私の手が熱い手に引き離されて動きを止めた。
佐原「…お前、なに?」
佐原さんが睨んでいる先にいた私と手を繋いだままの人を見上げると、驚きで少し酔いが覚める。
幸来未「とき…、と?」
佐原「…ここちゃんの知り合いなの?」
時音「知り合いです。これから一緒にごはん行くんです。」
佐原「ここちゃん腹一杯だからここのBARに来たんだよ。しかも今日は俺だけと呑む約束だから邪魔しないでくれる?」
時音「…けど、幸来未の顔色悪いですよ。」
佐原「酔ってるだけだよ。だからゆっくり出来る場所に連れてく。」
そう言って佐原さんが私に手を伸ばしてきたのを時音は柔らかく払いのけた。
時音「僕が連れてくんで大丈夫です。」
佐原「…お前、幸来未ちゃんとどういう関係?」
時音「関係は…」
関係性を聞かれて口ごもるのはダメだよ。
もっとめんどくさいことになる。
幸来未「弟です…。これ以上、佐原さんに迷惑かけちゃうのは嫌だなって思って…、呼んでたの忘れてました…。」
佐原「そう、なんだ…。そっか…。じゃあ、弟さんにタク代渡しておくね。」
そう言って佐原さんは時音に1万円を渡し、私にカバンを返すとまた来週と言って1人で帰っていった。
私はやっと1人になれたとホッとしていると、それを否定するように熱い手が私の手を強く握りしめた。
時音「…帰ります?」
幸来未「帰りたくない…。」
ちょっと怖かったからもうちょっとその温かい手、繋いでたい。
私はわがままを聞いてくれる時音を利用して少しだけ夜を伸ばすことにした。
環流 虹向/23:48
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