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どんぐりころりん
650:02:28
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高倉さんに連れてこられた場所は体感で駅から徒歩3分の全席ソファー席になっているシネマBAR。
ソファーは全ての席から映画が見えるように人の頭が絶対に被らない配置になっていて、平均よりも座高が低い私でも気兼ねなく観れる。
高倉「ここ、来たことあります?」
注文を終えた高倉さんは少し不安げな顔をして私にそう聞いてきた。
幸来未「いえ。初めて来ました。」
私はバイトをしたら即帰宅するから1年近く働いてる居酒屋で定期的にある閉店後の呑み会に参加したことがない。
というより、参加する気がない。
そんな所に行くなら旅行に行くお金に回したいから。
もちろん、1人で。
そういう行動が周りの人に陰口を叩かれる原因なのだろうけど、それよりも自分の時間を赤の他人に奪われる方が嫌だから今の私は友達0人。
学生時代はグループ学習や行事ごとで1人になるのは不便なので上っ面で仲良かった知り合いはいたけれど、今は音沙汰ないし鳴らす気もない。
そんな私だから久しぶりに人と一緒に食事をするのが少し緊張してしまう。
タダ飯を食べに来ただけだけど、何も知らない人で何も会話を用意してないまま来ちゃったから、みんなが言う“ぶりっ子ちゃん”が出来る自身はないかな。
高倉「ここのエビのフリットすごく美味しいんです。ぜひ、食べてください。」
と、まだ来てない西洋のエビ天を深夜帯にオススメしてくる高倉さんは終始笑顔をふりまく。
幸来未「高倉さんはグルメサイトでも運営してるんですか?」
私は素朴な疑問を高倉さんにぶつけた。
高倉「え?サイト?」
幸来未「いつもご飯の写真送ってきてるので。」
高倉「ああ…!それは…、あ、あの…んーっ…、とぉ…。」
高倉さんはしなクチャになったシュークリームみたいな困り笑顔をし始めた。
私は顔で全ての感情が出てしまう高倉さんを見て思わず我慢していた笑みが溢れる。
高倉「…ん?今のシーン笑えました?」
と、高倉さんは全く観ていなかった映画が流れているスクリーンに目を移し、首を傾げる。
幸来未「高倉さんの顔が面白いなって。」
高倉「…それは、いい意味で?」
幸来未「もちろん。シュークリームみたいです。」
高倉「んー…、ふわふわとカリカリどっちですか?」
え…?
そこなの?
デブ顔じゃねぇよって怒ったりしないの?
幸来未「…高倉さんはふわふわって感じです。」
しなしなクチャクチャだけど。
高倉「ぴんぽんっ!正解です!カリカリは食べるの下手くそでいつも口内炎出来ちゃうんですよね。」
…なんだか話が変わったけど、楽しそうならいいや。
私は自分の言葉を嬉しそうに受け取ってくれる高倉さんの心の広さに少し嬉しくなりながら、目の前のローテーブルにやってきたおつまみ5種とお酒を呑み、映画をBGMに会話していく。
その中で知ったのは、高倉さんは19歳で私と同じフリーターということ。
いつも終電近い時間までこの街にいるのは、演劇の稽古をしていて時間を忘れるほど夢中になってしまうということ。
あの日は劇団で知り合った友達の家の近くにある絶品ラーメンを食べに少し早く電車に乗ろうとしてたこと。
今日は週に2日、4時間だけシフトに入っているボーイズバーで仕事してきた後ということ。
あのチキンソテーはボーイズバーの店長さんにシフトの相談をされながらご馳走してもらったということ。
何も知らないで終わるはずだった高倉さんは私が話すのが苦手なのを知ってか知らずか、そうやっていっぱい自分のことを話してくれた。
みんないつも他人のことばかり話したり、私のことを聞いてきたりするのになんでこの人はそうしてこないんだろうと心の片隅で思っていると、私から少し目を逸らした高倉さんの楽しげな顔がどんどん真っ青になっていく。
幸来未「どうしました?」
高倉「…時間が。」
私は高倉さんが見ているパエリアパンで出来た大きな時計を見てみると、私がいつも乗る終電の2分前だった。
幸来未「…知ってました?」
高倉「今、気づきました…。」
そう言って高倉さんはそばの壁に掛けていた私のブルゾンを取り、私の膝の上に優しく置いてテーブル上の食器を片付け始めた。
高倉「すみません、ここのお会計いつも時間かかるので先に駅へ行ってください。今日は付き合ってくれてありがとうございます。」
…いいの?
他の人はまだ呑もうよって私を終電に乗らせようとしないよ?
私、明日1日お休みって君に伝えたけど、それでも帰らせるの?
私はいつもの男の人たちとは違う高倉さんの行動に戸惑いつつもブルゾンを着て忘れ物がないか確認する。
高倉「電車、まだありますか?」
幸来未「あと2本はあります。」
高倉「よかった。また時間ある時にご飯しましょうね。」
そう言って高倉さんはお店の出入口付近にいた店員さんに声をかけ、精算をお願いしながら帰らないといけない私を見送った。
…ホテル連れてかれるんだと思ってた。
1:1の時はいつもそんな感じだし、グループの時は時間なんか無いように2軒目3軒目に行ったり、カラオケで朝を明かしたりするのが当たり前で普通なのかと思ってた。
けど、違うのかな…。
違和感を持ったまま、私はあと2本で終わる終電に間に合うように駅へ走った。
環流 虹向/23:48
ソファーは全ての席から映画が見えるように人の頭が絶対に被らない配置になっていて、平均よりも座高が低い私でも気兼ねなく観れる。
高倉「ここ、来たことあります?」
注文を終えた高倉さんは少し不安げな顔をして私にそう聞いてきた。
幸来未「いえ。初めて来ました。」
私はバイトをしたら即帰宅するから1年近く働いてる居酒屋で定期的にある閉店後の呑み会に参加したことがない。
というより、参加する気がない。
そんな所に行くなら旅行に行くお金に回したいから。
もちろん、1人で。
そういう行動が周りの人に陰口を叩かれる原因なのだろうけど、それよりも自分の時間を赤の他人に奪われる方が嫌だから今の私は友達0人。
学生時代はグループ学習や行事ごとで1人になるのは不便なので上っ面で仲良かった知り合いはいたけれど、今は音沙汰ないし鳴らす気もない。
そんな私だから久しぶりに人と一緒に食事をするのが少し緊張してしまう。
タダ飯を食べに来ただけだけど、何も知らない人で何も会話を用意してないまま来ちゃったから、みんなが言う“ぶりっ子ちゃん”が出来る自身はないかな。
高倉「ここのエビのフリットすごく美味しいんです。ぜひ、食べてください。」
と、まだ来てない西洋のエビ天を深夜帯にオススメしてくる高倉さんは終始笑顔をふりまく。
幸来未「高倉さんはグルメサイトでも運営してるんですか?」
私は素朴な疑問を高倉さんにぶつけた。
高倉「え?サイト?」
幸来未「いつもご飯の写真送ってきてるので。」
高倉「ああ…!それは…、あ、あの…んーっ…、とぉ…。」
高倉さんはしなクチャになったシュークリームみたいな困り笑顔をし始めた。
私は顔で全ての感情が出てしまう高倉さんを見て思わず我慢していた笑みが溢れる。
高倉「…ん?今のシーン笑えました?」
と、高倉さんは全く観ていなかった映画が流れているスクリーンに目を移し、首を傾げる。
幸来未「高倉さんの顔が面白いなって。」
高倉「…それは、いい意味で?」
幸来未「もちろん。シュークリームみたいです。」
高倉「んー…、ふわふわとカリカリどっちですか?」
え…?
そこなの?
デブ顔じゃねぇよって怒ったりしないの?
幸来未「…高倉さんはふわふわって感じです。」
しなしなクチャクチャだけど。
高倉「ぴんぽんっ!正解です!カリカリは食べるの下手くそでいつも口内炎出来ちゃうんですよね。」
…なんだか話が変わったけど、楽しそうならいいや。
私は自分の言葉を嬉しそうに受け取ってくれる高倉さんの心の広さに少し嬉しくなりながら、目の前のローテーブルにやってきたおつまみ5種とお酒を呑み、映画をBGMに会話していく。
その中で知ったのは、高倉さんは19歳で私と同じフリーターということ。
いつも終電近い時間までこの街にいるのは、演劇の稽古をしていて時間を忘れるほど夢中になってしまうということ。
あの日は劇団で知り合った友達の家の近くにある絶品ラーメンを食べに少し早く電車に乗ろうとしてたこと。
今日は週に2日、4時間だけシフトに入っているボーイズバーで仕事してきた後ということ。
あのチキンソテーはボーイズバーの店長さんにシフトの相談をされながらご馳走してもらったということ。
何も知らないで終わるはずだった高倉さんは私が話すのが苦手なのを知ってか知らずか、そうやっていっぱい自分のことを話してくれた。
みんないつも他人のことばかり話したり、私のことを聞いてきたりするのになんでこの人はそうしてこないんだろうと心の片隅で思っていると、私から少し目を逸らした高倉さんの楽しげな顔がどんどん真っ青になっていく。
幸来未「どうしました?」
高倉「…時間が。」
私は高倉さんが見ているパエリアパンで出来た大きな時計を見てみると、私がいつも乗る終電の2分前だった。
幸来未「…知ってました?」
高倉「今、気づきました…。」
そう言って高倉さんはそばの壁に掛けていた私のブルゾンを取り、私の膝の上に優しく置いてテーブル上の食器を片付け始めた。
高倉「すみません、ここのお会計いつも時間かかるので先に駅へ行ってください。今日は付き合ってくれてありがとうございます。」
…いいの?
他の人はまだ呑もうよって私を終電に乗らせようとしないよ?
私、明日1日お休みって君に伝えたけど、それでも帰らせるの?
私はいつもの男の人たちとは違う高倉さんの行動に戸惑いつつもブルゾンを着て忘れ物がないか確認する。
高倉「電車、まだありますか?」
幸来未「あと2本はあります。」
高倉「よかった。また時間ある時にご飯しましょうね。」
そう言って高倉さんはお店の出入口付近にいた店員さんに声をかけ、精算をお願いしながら帰らないといけない私を見送った。
…ホテル連れてかれるんだと思ってた。
1:1の時はいつもそんな感じだし、グループの時は時間なんか無いように2軒目3軒目に行ったり、カラオケで朝を明かしたりするのが当たり前で普通なのかと思ってた。
けど、違うのかな…。
違和感を持ったまま、私はあと2本で終わる終電に間に合うように駅へ走った。
環流 虹向/23:48
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