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環流 虹向

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どんぐりころりん

650:02:42

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あれから2週間。

私は1日に1度送られてくるあの子の日記にどっぷりはまってしまった。

まあ、日記と言っても今日はこれ食べたというご飯の写真だけなんだけど、私が行ったことないお店にあの子はよく行っていて新しい情報をくれるからブロックしないまま写真とスタンプを送り合っている。

今日は何食べたんだろ。

私は冬の閑散期で売上が上がらないバイト先を早上がりさせてもらってのんびりと駅に向かいながら、あの子からのメッセージを見てみる。

…あれ?

このお皿、あそこのお店じゃない?

私はちょうど横断歩道の向こうにあるカフェを見る。

お皿の端をくるんとひと回りするリボンのような線にカフェの名前が入ったあのお店限定の可愛いお皿。

アンティークで可愛いお皿に乗ったあそこのチキンソテー、私も好きなんだよな。

自分も食べたくなったけど、深夜になりかけだし、第一お店がもう閉店してるから行けないなとお腹を鳴らしながらまだ赤信号で進めない暇つぶしとしてそのお店の外観を写真に撮り、あの子に送ってみる。

すると、信号が青になったと同時にあの子からメッセージが来た。

『今そこにいるんですか?』

最初、連絡先を教えてくれてありがとうございますと送られてきた後、ずっと文字を送り合ってなかったから新鮮だな。

そう感じながら私は『そうですよ。』と初めて文字を送った。

まあ、あと少しで駅に着くんだけどね。

いたことは嘘じゃないから。

私は次に来たメッセージを見ずに自分の携帯を裏起毛が抜群すぎるスウェットワンピの胸ポケットに入れ、コーデュロイブルゾンのポケットには冷えた手を入れて暖を取りながら足を進めていると改札口が街に出ていく人で混み合っていて、入場出来る改札口が2つしかない。

今日は土曜だし、普通の人は遊んだりするんだろうと考えながら私は1番奥の空いている改札口に真っ直ぐ向かおうとするけれど街に出ていく人の波に飲まれてしまい、前が見えなくなる。

これだから身長低いのは不便だ。

自分の恵まれなかった体にまたイラッとしていると、薄れてきていたあの顔が人波をかき分けて飛び出してきた。

「いた…!」

と、嬉しそうにするこの間のナンパ男は私の目の前にやって来て立ち止まった。

幸来未「…なんでいるんですか?」

高倉「今から電車乗るとこだったんですけど、お姉さんの写真とメッセージでホームから戻ってきました。」

えへへと言わんばかりの垂れた笑顔を見せて、私を“お姉さん”と言ってくれた高倉さんの気遣いに私は少し気を惹かれる。

私、西宮 幸来未にしみや ここみは高校卒業しても背の順でずつと先頭に立つチビ。

みんなは可愛いって言ってくれるけど、チビはチビなりに可愛くない出来事が起こりやすい。

今さっきも平均身長だったら目的の改札口を見失わず、真っ直ぐ前に進んでホームに行けてたはずなんだ。

けど、チビで普通になりきれない私は平均と普通を持ち合わせる人波に飲まれて自分が行かないといけない場所を見失ってしまうことが多い。

だから人混みが多いのが嫌いだし、電車も好きじゃない。

出来るならバス亭で順序よく並んでのんびり出来るよう、席に座って街並みを眺めながら家に帰りたい。

けど、バスの方が料金は高いし、遠回りするからしょうがなく電車に乗ってる。

だから今日もさっさと帰って家でのんびり1人を楽しみたかったのに、ナンパ男に出会うし、食事に誘われる。

高倉「…1時間だけ、どうでしょう?」

幸来未「私、今日外で食事する予定じゃなかったので現金はここのポケットに入ってる500円しかないです。」

高倉「僕がご馳走します。僕がお誘いしたので。」

…ならいっか。

この人が送ってくるご飯、いつも美味しそうなとこだったし、あのチキンソテーを食べる口なら味覚が合いそう。

幸来未「じゃあ…、お言葉に甘えてご馳走になります。」

高倉「…はいっ!じゃあ行きましょ!」

私はタダ飯を食べれることが確定したことに少し胸を踊らせながらオサイフくんを見失わないよう、その背中にあったナップサック下に隠れいる本革リュックの調節ヒモをそっと掴み、そのままついて行った。


環流 虹向/23:48
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