27 / 36
A.D.
聖母
しおりを挟む
花火大会に来るのが初めての世月くんは出店に目を輝かせて私の手を無邪気に引っ張る。
けれど、その手首にはまだ私が選んだ首輪をつけているので私も外さずにつけたまま花火大会がある会場に来たけれど、回りの視線が痛い。
そういえば私っていつも他人から嫌悪の目でしか見られてなかったことを思い出し、世月くんの歩くスピードについていけてなくなるとその異変に気づいた世月くんが振り返った。
世月「足、痛いの?」
奏乃「ううん。人が多くて歩きにくかっただけ。」
私は世月くんと手を繋ぎ直し、歩幅を合わせてもらっていると少し遠くから懐かしい人たちがやってきた。
奏乃「…お母さん。」
私はお父さんと弟の間でいつも通り幸せそうにしているお母さんを見てつい声が出てしまう。
世月「ん?お母さん?」
と、世月くんが私の声に反応し、私の視線の先を見ようとしたので私は咄嗟に手で目隠しをして見られないようにする。
世月「なに?奏乃のお母さん見てみたい。」
奏乃「だめ…。」
世月「なんで?」
奏乃「メデューサだから。」
私は自分の心の中だけで言っていたお母さんのあだ名を口にすると、世月くんは私の手を力づくで外し私のお母さんを人混みの中から探す。
世月「蛇被った奴なんかいないけど。」
奏乃「そういうことじゃなくて…」
私はその場から離れようと世月くんの手を掴み、一歩足を出すと同時に前を見るともう一生会うことがないと思っていた家族が私たちの目の前にいた。
母「久しぶり、奏乃。」
と、お母さんはいつまで経っても私が1人でいられないことを目で確認すると、とても気分が悪くなったらしく黒目を小さくして睨んでくる。
奏乃「みんな元気そうでよかった。…行こ。」
私は世月くんの手を引っ張ってお母さんの視界から外れようとしたけれど、世月くんは全く動こうとしてくれない。
世月「こんばんは、青葉さんにお守りをしてもらってるニシジマ マナトです。」
と、世月くんは嘘の名前で自己紹介すると私のお母さんに握手を求めるように手を伸ばす。
それを見て私はお母さんに世月くんまで取られないように手を引こうとすると、それよりも先に握手されてしまった。
母「奏乃がお守り…。」
そう呟くとお母さんは今の私を嬲るように頭のてっぺんから足の先まで見てくる。
母「生まれてから一度も役に立ったことのないあなたが人1人のお守りなんて出来るの?」
いつもの台詞。
いつもの笑顔。
いつもの家族。
私がお母さんに何を言われても、ずっとそばにいる家族は黙って聞いてるだけ。
というより、そう思ってるから口出しなんかしないんだろう。
だからいつも家ではひとりぼっち。
みんなが楽しそうに会話していても、私の言葉は聞こえない。
ずっといないものとして扱われてきたけれど、世間体だけで大人までならせてもらったのは気まぐれな神様の救いの手。
だから就職して、一人暮らしをして、初めて友達も恋人も出来たのに…。
育てられた環境がみんなと違いすぎてみんなの“同じ”に染まりきれなかった。
だからあの動画もただのホームビデオ感覚で了承してしまった。
好きな人と愛し合う時間を動画で収めただけなのに、みんなと似た人間になりたかったのに、私も家族というものを一度くらい味わいたかったのに、なんで邪魔するの。
世月「ばーんっ。」
初めて私が世月くんの前で泣いてしまっていると、世月くんはいつのまにかお母さんの手から離れていてその手で拳銃を模倣し、お母さんの頭めがけて打った。
母「…なに?」
世月「死ね。」
と、世月くんが呟くと周りの人混みにいた客が3人飛び出してきてお母さんの身柄を拘束し、何か隠し持っている布を首元に押し当てた。
すると、そばにいたお父さんと弟がお母さんを助けるために体を動かした瞬間、世月くんの銃口の向きが変わる。
世月「ばーん、ばんっ。お前ら全員壊す。」
世月くんの指先から放たれた見えない弾丸で動きを止めた2人に命中すると、人混みからまた飛び出してきた客が2人を拘束した。
世月「2人はモルモット。ババァは家畜。」
世月くんがそう指示すると逃げようとするお母さんたちを布の中にある何かで気絶させた人たちは、周りに変な疑いをかけられないよう3人を酔っ払いの介抱をするようにどこかへ連れて行ってしまった。
世月「奏乃は俺のお母さん。誰がなんと言おうと俺が言ったことは絶対。」
そう言って世月くんは頬に落ちる私の涙を手で拭き取ってくれる。
世月「俺はお母さんと結婚する。これも絶対。」
と、世月くんは私の時間を奪うだけではなく、心も体も未来も奪う宣言をして自分の唇を私のおでこに当てた。
世月「他の男に寄り道するのもあと4年だけ。せいぜい独身生活楽しんで。」
世月くんは自信満々な顔をして鼻で笑う。
その顔が私にとってとても安心してしまう顔なのは世月くんのご機嫌がピークなのを知れるからだけではなく、双葉3兄弟で唯一その顔をしてくれるのが世月くんだけだからかもしれない。
奏乃「結婚相手を選ぶのはお互いの気持ちだよ。」
私はそんな顔をしてくれる世月くんが好きという気持ちが新しく増えたことを1人で感じ、毎年家族で予約していた指定席に今年は世月くん2人で向かった。
環流 虹向/UNDEAD・L・L・IVE
けれど、その手首にはまだ私が選んだ首輪をつけているので私も外さずにつけたまま花火大会がある会場に来たけれど、回りの視線が痛い。
そういえば私っていつも他人から嫌悪の目でしか見られてなかったことを思い出し、世月くんの歩くスピードについていけてなくなるとその異変に気づいた世月くんが振り返った。
世月「足、痛いの?」
奏乃「ううん。人が多くて歩きにくかっただけ。」
私は世月くんと手を繋ぎ直し、歩幅を合わせてもらっていると少し遠くから懐かしい人たちがやってきた。
奏乃「…お母さん。」
私はお父さんと弟の間でいつも通り幸せそうにしているお母さんを見てつい声が出てしまう。
世月「ん?お母さん?」
と、世月くんが私の声に反応し、私の視線の先を見ようとしたので私は咄嗟に手で目隠しをして見られないようにする。
世月「なに?奏乃のお母さん見てみたい。」
奏乃「だめ…。」
世月「なんで?」
奏乃「メデューサだから。」
私は自分の心の中だけで言っていたお母さんのあだ名を口にすると、世月くんは私の手を力づくで外し私のお母さんを人混みの中から探す。
世月「蛇被った奴なんかいないけど。」
奏乃「そういうことじゃなくて…」
私はその場から離れようと世月くんの手を掴み、一歩足を出すと同時に前を見るともう一生会うことがないと思っていた家族が私たちの目の前にいた。
母「久しぶり、奏乃。」
と、お母さんはいつまで経っても私が1人でいられないことを目で確認すると、とても気分が悪くなったらしく黒目を小さくして睨んでくる。
奏乃「みんな元気そうでよかった。…行こ。」
私は世月くんの手を引っ張ってお母さんの視界から外れようとしたけれど、世月くんは全く動こうとしてくれない。
世月「こんばんは、青葉さんにお守りをしてもらってるニシジマ マナトです。」
と、世月くんは嘘の名前で自己紹介すると私のお母さんに握手を求めるように手を伸ばす。
それを見て私はお母さんに世月くんまで取られないように手を引こうとすると、それよりも先に握手されてしまった。
母「奏乃がお守り…。」
そう呟くとお母さんは今の私を嬲るように頭のてっぺんから足の先まで見てくる。
母「生まれてから一度も役に立ったことのないあなたが人1人のお守りなんて出来るの?」
いつもの台詞。
いつもの笑顔。
いつもの家族。
私がお母さんに何を言われても、ずっとそばにいる家族は黙って聞いてるだけ。
というより、そう思ってるから口出しなんかしないんだろう。
だからいつも家ではひとりぼっち。
みんなが楽しそうに会話していても、私の言葉は聞こえない。
ずっといないものとして扱われてきたけれど、世間体だけで大人までならせてもらったのは気まぐれな神様の救いの手。
だから就職して、一人暮らしをして、初めて友達も恋人も出来たのに…。
育てられた環境がみんなと違いすぎてみんなの“同じ”に染まりきれなかった。
だからあの動画もただのホームビデオ感覚で了承してしまった。
好きな人と愛し合う時間を動画で収めただけなのに、みんなと似た人間になりたかったのに、私も家族というものを一度くらい味わいたかったのに、なんで邪魔するの。
世月「ばーんっ。」
初めて私が世月くんの前で泣いてしまっていると、世月くんはいつのまにかお母さんの手から離れていてその手で拳銃を模倣し、お母さんの頭めがけて打った。
母「…なに?」
世月「死ね。」
と、世月くんが呟くと周りの人混みにいた客が3人飛び出してきてお母さんの身柄を拘束し、何か隠し持っている布を首元に押し当てた。
すると、そばにいたお父さんと弟がお母さんを助けるために体を動かした瞬間、世月くんの銃口の向きが変わる。
世月「ばーん、ばんっ。お前ら全員壊す。」
世月くんの指先から放たれた見えない弾丸で動きを止めた2人に命中すると、人混みからまた飛び出してきた客が2人を拘束した。
世月「2人はモルモット。ババァは家畜。」
世月くんがそう指示すると逃げようとするお母さんたちを布の中にある何かで気絶させた人たちは、周りに変な疑いをかけられないよう3人を酔っ払いの介抱をするようにどこかへ連れて行ってしまった。
世月「奏乃は俺のお母さん。誰がなんと言おうと俺が言ったことは絶対。」
そう言って世月くんは頬に落ちる私の涙を手で拭き取ってくれる。
世月「俺はお母さんと結婚する。これも絶対。」
と、世月くんは私の時間を奪うだけではなく、心も体も未来も奪う宣言をして自分の唇を私のおでこに当てた。
世月「他の男に寄り道するのもあと4年だけ。せいぜい独身生活楽しんで。」
世月くんは自信満々な顔をして鼻で笑う。
その顔が私にとってとても安心してしまう顔なのは世月くんのご機嫌がピークなのを知れるからだけではなく、双葉3兄弟で唯一その顔をしてくれるのが世月くんだけだからかもしれない。
奏乃「結婚相手を選ぶのはお互いの気持ちだよ。」
私はそんな顔をしてくれる世月くんが好きという気持ちが新しく増えたことを1人で感じ、毎年家族で予約していた指定席に今年は世月くん2人で向かった。
環流 虹向/UNDEAD・L・L・IVE
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
【R18完結】エリートビジネスマンの裏の顔
白波瀬 綾音
恋愛
御社のエース、危険人物すぎます───。
私、高瀬緋莉(27)は、思いを寄せていた業界最大手の同業他社勤務のエリート営業マン檜垣瑤太(30)に執着され、軟禁されてしまう。
同じチームの後輩、石橋蓮(25)が異変に気付くが……
この生活に果たして救いはあるのか。
※サムネにAI生成画像を使用しています
亡くなった王太子妃
沙耶
恋愛
王妃の茶会で毒を盛られてしまった王太子妃。
侍女の証言、王太子妃の親友、溺愛していた妹。
王太子妃を愛していた王太子が、全てを気付いた時にはもう遅かった。
なぜなら彼女は死んでしまったのだから。
【R18】ドS上司とヤンデレイケメンに毎晩種付けされた結果、泥沼三角関係に堕ちました。
雪村 里帆
恋愛
お陰様でHOT女性向けランキング31位、人気ランキング132位の記録達成※雪村里帆、性欲旺盛なアラサーOL。ブラック企業から転職した先の会社でドS歳下上司の宮野孝司と出会い、彼の事を考えながら毎晩自慰に耽る。ある日、中学時代に里帆に告白してきた同級生のイケメン・桜庭亮が里帆の部署に異動してきて…⁉︎ドキドキハラハラ淫猥不埒な雪村里帆のめまぐるしい二重恋愛生活が始まる…!優柔不断でドMな里帆は、ドS上司とヤンデレイケメンのどちらを選ぶのか…⁉︎
——もしも恋愛ドラマの濡れ場シーンがカット無しで放映されたら?という妄想も込めて執筆しました。長編です。
※連載当時のものです。
婚約破棄目当てで行きずりの人と一晩過ごしたら、何故か隣で婚約者が眠ってた……
木野ダック
恋愛
メティシアは婚約者ーー第二王子・ユリウスの女たらし振りに頭を悩ませていた。舞踏会では自分を差し置いて他の令嬢とばかり踊っているし、彼の隣に女性がいなかったことがない。メティシアが話し掛けようとしたって、ユリウスは平等にとメティシアを後回しにするのである。メティシアは暫くの間、耐えていた。例え、他の男と関わるなと理不尽な言い付けをされたとしても我慢をしていた。けれど、ユリウスが楽しそうに踊り狂う中飛ばしてきたウインクにより、メティシアの堪忍袋の緒が切れた。もう無理!そうだ、婚約破棄しよう!とはいえ相手は王族だ。そう簡単には婚約破棄できまい。ならばーー貞操を捨ててやろう!そんなわけで、メティシアはユリウスとの婚約破棄目当てに仮面舞踏会へ、行きずりの相手と一晩を共にするのであった。けど、あれ?なんで貴方が隣にいるの⁉︎
ヤンデレ幼馴染が帰ってきたので大人しく溺愛されます
下菊みこと
恋愛
私はブーゼ・ターフェルルンデ。侯爵令嬢。公爵令息で幼馴染、婚約者のベゼッセンハイト・ザンクトゥアーリウムにうっとおしいほど溺愛されています。ここ数年はハイトが留学に行ってくれていたのでやっと離れられて落ち着いていたのですが、とうとうハイトが帰ってきてしまいました。まあ、仕方がないので大人しく溺愛されておきます。
マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました
東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。
攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる!
そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる