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環流 虹向

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A.D.

聖母

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花火大会に来るのが初めての世月くんは出店に目を輝かせて私の手を無邪気に引っ張る。

けれど、その手首にはまだ私が選んだ首輪をつけているので私も外さずにつけたまま花火大会がある会場に来たけれど、回りの視線が痛い。

そういえば私っていつも他人から嫌悪の目でしか見られてなかったことを思い出し、世月くんの歩くスピードについていけてなくなるとその異変に気づいた世月くんが振り返った。

世月「足、痛いの?」

奏乃「ううん。人が多くて歩きにくかっただけ。」

私は世月くんと手を繋ぎ直し、歩幅を合わせてもらっていると少し遠くから懐かしい人たちがやってきた。

奏乃「…お母さん。」

私はお父さんと弟の間でいつも通り幸せそうにしているお母さんを見てつい声が出てしまう。

世月「ん?お母さん?」

と、世月くんが私の声に反応し、私の視線の先を見ようとしたので私は咄嗟に手で目隠しをして見られないようにする。

世月「なに?奏乃のお母さん見てみたい。」

奏乃「だめ…。」

世月「なんで?」

奏乃「メデューサだから。」

私は自分の心の中だけで言っていたお母さんのあだ名を口にすると、世月くんは私の手を力づくで外し私のお母さんを人混みの中から探す。

世月「蛇被った奴なんかいないけど。」

奏乃「そういうことじゃなくて…」

私はその場から離れようと世月くんの手を掴み、一歩足を出すと同時に前を見るともう一生会うことがないと思っていた家族が私たちの目の前にいた。

母「久しぶり、奏乃。」

と、お母さんはいつまで経っても私が1人でいられないことを目で確認すると、とても気分が悪くなったらしく黒目を小さくして睨んでくる。

奏乃「みんな元気そうでよかった。…行こ。」

私は世月くんの手を引っ張ってお母さんの視界から外れようとしたけれど、世月くんは全く動こうとしてくれない。

世月「こんばんは、青葉さんにお守りをしてもらってるニシジマ マナトです。」

と、世月くんは嘘の名前で自己紹介すると私のお母さんに握手を求めるように手を伸ばす。

それを見て私はお母さんに世月くんまで取られないように手を引こうとすると、それよりも先に握手されてしまった。

母「奏乃がお守り…。」

そう呟くとお母さんは今の私を嬲るように頭のてっぺんから足の先まで見てくる。

母「生まれてから一度も役に立ったことのないあなたが人1人のお守りなんて出来るの?」

いつもの台詞。

いつもの笑顔。

いつもの家族。

私がお母さんに何を言われても、ずっとそばにいる家族は黙って聞いてるだけ。

というより、そう思ってるから口出しなんかしないんだろう。

だからいつも家ではひとりぼっち。

みんなが楽しそうに会話していても、私の言葉は聞こえない。

ずっといないものとして扱われてきたけれど、世間体だけで大人までならせてもらったのは気まぐれな神様の救いの手。

だから就職して、一人暮らしをして、初めて友達も恋人も出来たのに…。

育てられた環境がみんなと違いすぎてみんなの“同じ”に染まりきれなかった。

だからあの動画もただのホームビデオ感覚で了承してしまった。

好きな人と愛し合う時間を動画で収めただけなのに、みんなと似た人間になりたかったのに、私も家族というものを一度くらい味わいたかったのに、なんで邪魔するの。

世月「ばーんっ。」

初めて私が世月くんの前で泣いてしまっていると、世月くんはいつのまにかお母さんの手から離れていてその手で拳銃を模倣し、お母さんの頭めがけて打った。

母「…なに?」

世月「死ね。」

と、世月くんが呟くと周りの人混みにいた客が3人飛び出してきてお母さんの身柄を拘束し、何か隠し持っている布を首元に押し当てた。

すると、そばにいたお父さんと弟がお母さんを助けるために体を動かした瞬間、世月くんの銃口の向きが変わる。

世月「ばーん、ばんっ。お前ら全員壊す。」

世月くんの指先から放たれた見えない弾丸で動きを止めた2人に命中すると、人混みからまた飛び出してきた客が2人を拘束した。

世月「2人はモルモット。ババァは家畜。」

世月くんがそう指示すると逃げようとするお母さんたちを布の中にある何かで気絶させた人たちは、周りに変な疑いをかけられないよう3人を酔っ払いの介抱をするようにどこかへ連れて行ってしまった。

世月「奏乃は俺のお母さん。誰がなんと言おうと俺が言ったことは絶対。」

そう言って世月くんは頬に落ちる私の涙を手で拭き取ってくれる。

世月「俺はお母さんと結婚する。これも絶対。」

と、世月くんは私の時間を奪うだけではなく、心も体も未来も奪う宣言をして自分の唇を私のおでこに当てた。

世月「他の男に寄り道するのもあと4年だけ。せいぜい独身生活楽しんで。」

世月くんは自信満々な顔をして鼻で笑う。

その顔が私にとってとても安心してしまう顔なのは世月くんのご機嫌がピークなのを知れるからだけではなく、双葉3兄弟で唯一その顔をしてくれるのが世月くんだけだからかもしれない。

奏乃「結婚相手を選ぶのはお互いの気持ちだよ。」

私はそんな顔をしてくれる世月くんが好きという気持ちが新しく増えたことを1人で感じ、毎年家族で予約していた指定席に今年は世月くん2人で向かった。


環流 虹向/UNDEAD・L・L・IVE
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