UNDEAD・L・L・IVE

環流 虹向

文字の大きさ
上 下
14 / 36
B.C.

思死

しおりを挟む
中学生の男の子1人と成人女性1人、そんな2人の息の根をあっという間に潰してしまいそうな筋張った腕に乗った細くも硬そうな筋肉が体格では勝てないと物語ってくる。

葵「で?潜水は端から泳いで息が続く長さで勝負?」

と、パンツ1枚の日向先生は少し喧嘩腰で世月くんだけに目線を合わせる。

世月「違う。俺が上げるまで続ける。」

葵「へー…。どっちが先?」

世月「奏乃が先。」

葵「意外。僕が最初だと思ってた。」

日向先生は自分だけ沈められると思っていたらしく少し驚いた顔をして、私に先手を快く譲った。

世月「力抜いて。床に着くくらい体が落ちたら俺が引き上げる。」

葵「そんなんでいいの?」

世月「信頼関係があるなら手間も時間もかからない。」

葵「なるほどね。」

世月「奏乃、行くよ。」

と、世月くんは私の真横に立ち、そっと首の後ろと胸上に手を置いた。

奏乃「…うん。大丈夫。」

私は息を整えてから世月くんと一度目を合わせて、手の上に絶対の信頼を置く。

世月「いってらっしゃい。」

世月くんの声を最後に私は水中の世界へ背中から落ち、ゆっくりと世月くんの手からも離れて底へと体を墜落させる。

けれど、世月くんはすぐに助け出してはくれない。

きっと早過ぎても日向先生の信用が得られないからだろう。

そう思いながら私は久しぶりに訪れた1人の空間に漂っていると、思い出の痛みが左腕から全身に駆け抜ける。

その拍子に私はあと30秒以上は余裕で耐えられていたはずの酸素が私の口と鼻から漏れ出し、単体で上空へ行ってしまう。

けれど、私はもがくことも浮き上がることも出来ないほど思い出に押しつぶされていると、酸素が手になって私の体を適材の場所へ引き戻してくれた。

世月「おかえり。」

私は世月くんの声を聞いて気持ちが落ち着き、そのまま息が整うまで抱きついていると世月くんは不思議そうな顔をして私の顔を覗いた。

世月「本当は苦手なの?」

奏乃「…すこしね。」

さっきまでどこかに行っていた記憶がこんな大切な瞬間に戻ってくるとは思わず私は自分自身の体の震えを少し感じていると、世月くんの片腕が腰に回りプールの中だったけれどお姫様抱っこをしてプールの縁まで運んでくれた。

世月「ここで待ってて。」

そう言って世月くんは日向先生の元へ戻り、私には聞こえない声で話し始めた。

けれど、いつもの穏やかな会話をしているようには聞こえない低い音で2人は笑顔なしで話すのできっと喧嘩してるんだろう。

そう思っていると、日向先生は世月くんの手を自分から首に持っていき、水の上で横になってどんどん沈んでいく。

だんだんとぷくぷく弾ける泡が時間が立つことに多くなり、一度大きな泡が出ても世月くんは日向先生を引き上げるどころか押さえる事をやめない。

奏乃「…世月くん、もう少しで2分過ぎるよ。」

私は体感で感じた時間を世月くんに教えるけれど、世月くんはこちらに背を向けたまま無反応で体を微動だにしない。

奏乃「生まれ変わる前に死んじゃうよ。」

どうしてもいてもたってもいられなくなった私はプールに飛び込んで世月くんの腕を引くと、その手にはなにもなくまだ日向先生がプールの底で儀式をしていた。

奏乃「その足どかさないと日向先生死んじゃうよ。」

世月くんの不機嫌を表す足で踏みつけられてる日向先生は少し歪む顔で私と目を合わせて焦りを募らしてくる。

世月「死んじゃえばいいよ。」

奏乃「ダメだよ。友達なんでしょ?」

世月「友達が友達殺すのっておかしいじゃん。これは仕返し。」

奏乃「仕返しなんてしても意味ないよ。仕返ししても死んじゃったから戻ってこないよ。」

世月「こいつは戻ってこなくていいのに毎日戻ってくるよ。」

と、世月くんは少し喉を絞めながら言葉を吐いた。

奏乃「…今殺すよりも、もっと嫌なことしよ?」

私は目が赤い世月くんと視線を合わせ、理想のお母さんに近づくためにまだ思いついてない案を口走ってみる。

世月「どんなこと?」

奏乃「日向先生のこれからの反応を見て選択肢を絞ろうかなって思ってる。」

そう私が言うと、世月くんは勢いよく日向先生を底から上げてプールの水面に打ち上げた。

葵「あー…ぁ、死ねたかと思った。」

と、日向先生は少し咳をしながら呼吸を整え、世月くんの肩を抱く。

葵「バタフライでもバタ足でもなんでも教えるよ。今度からは水泳も授業に入れよっか。」

そう言いながら日向先生は世月くんを連れてプールから上がろうとする。

それを見て私は2人よりも早くプールサイドに上がり、すぐそばに置かれたスーツの中から小さな注射を見つける。

すると日向先生は一瞬体で驚き、世月くんを先にプールサイドに上がらせてから自分も上がろうとしたので私はそのまま日向先生の手の甲に針を置いてみる。

葵「…危ないですよ?」

奏乃「世月くんの先生はこれから私です。」

私がそう言うと日向先生はみるみると怒りに満ちた顔を浮かべ、睨んできた。

奏乃「私は保護者、あなたはただの他人。生きる世界が違うんです。」

私は日向先生の手の甲に注射針を刺し、指で薬を入れ込もうとすると日向先生は注射が刺さったまま手を引き抜き針も抜いた。

葵「…世月くんは僕のことそんなに嫌い?」

と、日向先生は私の後ろにいる世月くんに話しかけた。

すると、世月くんは私の肩を引いてプールサイドから離れさせ、自分の体をプールに投げ出すようにしゃがみ込んだ。

世月「初めて遊んだ時に俺のおやつだったイチゴひとつを奪った時から嫌いだった。」

世月くんがそう言うと日向先生は少し申し訳なさそうで悲しそうな乾いた笑いをころころと落とし、だんだんとプールの中心へ向かっていってしまう。

葵「お詫びのプリン、気に入らなかったかな。」

世月「俺はあのお星様のイチゴが食べたかった。」

葵「…きにいらなかったかぁ。」

と、残念そうに呟くと日向先生はプールの中心で体を浮かせた。

葵「僕はもうちょっと泳いでいくから、世月くんは先に部屋行ってお兄さん呼んでおいてくれない?」

世月「…いいよ。」

葵「うん、ありがとう。じゃあね。」

それから数時間、日が落ちて街のざわめきも落ち着いてきたはずの都会の道路にキラキラ光る赤いライトが2、3台世月くんが住むマンションの麓にやってきた。

それから少しマンション内も落ち着きがない空気感が漂っていたけれど、玄関の扉を閉めてしまえば分からない。

だから私は今日も世月くんの体を作っていく食事を普段通り作った。


環流 虹向/UNDEAD・L・L・IVE
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【R18完結】エリートビジネスマンの裏の顔

白波瀬 綾音
恋愛
御社のエース、危険人物すぎます​─​──​。 私、高瀬緋莉(27)は、思いを寄せていた業界最大手の同業他社勤務のエリート営業マン檜垣瑤太(30)に執着され、軟禁されてしまう。 同じチームの後輩、石橋蓮(25)が異変に気付くが…… この生活に果たして救いはあるのか。 ※サムネにAI生成画像を使用しています

【R18】ドS上司とヤンデレイケメンに毎晩種付けされた結果、泥沼三角関係に堕ちました。

雪村 里帆
恋愛
お陰様でHOT女性向けランキング31位、人気ランキング132位の記録達成※雪村里帆、性欲旺盛なアラサーOL。ブラック企業から転職した先の会社でドS歳下上司の宮野孝司と出会い、彼の事を考えながら毎晩自慰に耽る。ある日、中学時代に里帆に告白してきた同級生のイケメン・桜庭亮が里帆の部署に異動してきて…⁉︎ドキドキハラハラ淫猥不埒な雪村里帆のめまぐるしい二重恋愛生活が始まる…!優柔不断でドMな里帆は、ドS上司とヤンデレイケメンのどちらを選ぶのか…⁉︎ ——もしも恋愛ドラマの濡れ場シーンがカット無しで放映されたら?という妄想も込めて執筆しました。長編です。 ※連載当時のものです。

[R18] 激しめエロつめあわせ♡

ねねこ
恋愛
短編のエロを色々と。 激しくて濃厚なの多め♡ 苦手な人はお気をつけくださいませ♡

マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました

東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。 攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる! そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

ヤンデレ幼馴染が帰ってきたので大人しく溺愛されます

下菊みこと
恋愛
私はブーゼ・ターフェルルンデ。侯爵令嬢。公爵令息で幼馴染、婚約者のベゼッセンハイト・ザンクトゥアーリウムにうっとおしいほど溺愛されています。ここ数年はハイトが留学に行ってくれていたのでやっと離れられて落ち着いていたのですが、とうとうハイトが帰ってきてしまいました。まあ、仕方がないので大人しく溺愛されておきます。

婚約破棄目当てで行きずりの人と一晩過ごしたら、何故か隣で婚約者が眠ってた……

木野ダック
恋愛
メティシアは婚約者ーー第二王子・ユリウスの女たらし振りに頭を悩ませていた。舞踏会では自分を差し置いて他の令嬢とばかり踊っているし、彼の隣に女性がいなかったことがない。メティシアが話し掛けようとしたって、ユリウスは平等にとメティシアを後回しにするのである。メティシアは暫くの間、耐えていた。例え、他の男と関わるなと理不尽な言い付けをされたとしても我慢をしていた。けれど、ユリウスが楽しそうに踊り狂う中飛ばしてきたウインクにより、メティシアの堪忍袋の緒が切れた。もう無理!そうだ、婚約破棄しよう!とはいえ相手は王族だ。そう簡単には婚約破棄できまい。ならばーー貞操を捨ててやろう!そんなわけで、メティシアはユリウスとの婚約破棄目当てに仮面舞踏会へ、行きずりの相手と一晩を共にするのであった。けど、あれ?なんで貴方が隣にいるの⁉︎

【R18】散らされて

月島れいわ
恋愛
風邪を引いて寝ていた夜。 いきなり黒い袋を頭に被せられ四肢を拘束された。 抵抗する間もなく躰を開かされた鞠花。 絶望の果てに待っていたのは更なる絶望だった……

処理中です...