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環流 虹向

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B.C.

水死

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私と世月くんは朝起きた後、すぐに外へ行きその足でドッグカフェに来ていたわんちゃんと数時間戯れた。

そこにはだいふくに似ているわんちゃんはいなかったけれど、世月くんは満足そうな様子で久しぶりの校外学習を楽しみ次は泳ぎたいと要望されたので私は近場のスポーツ用品店で水着を買ってそのまま世月くんの住むマンションにあるプールに入る事にした。

世月「パツパツじゃん。」

奏乃「大人だから。」

世月「じゃあ、俺はまだ子供だねー。」

と、世月くんは初めての水着にはしゃいでいるのかゴムをパチンと鳴らし、メイクを落とそうとしていた私の手を引いてプールに直行しようとする。

奏乃「待って。シャワー浴びないと。」

世月「なんで?」

奏乃「汚れを落とすため。」

世月「今から水に入るのに?」

奏乃「みんなで使う場所だから。」

世月「誰もいないけど。」

そう言いながらも世月くんは私の言う通りシャワーに浴び、汚れを流してくれたので私はプールに顔をつけないようにして世月くんに泳ぎを教える。

奏乃「…9、10。はい、顔上げて。」

世月「これ、何回すんの?バタフライしたい。」

世月くんは水に一切抵抗がないのか、私が軽く手を引きながら泳がせるだけなのを不服そうにする。

奏乃「私、バタフライなんか出来ないよ。」

世月「大人なのに?」

奏乃「大人がみんななんでも出来る人だったら大企業は成り立たないよ。」

世月「大企業作ったのは大人じゃん。」

奏乃「だけど、1人だけじゃ大企業は作れないよ。」

世月「じゃあ社長が偉そうにしてる理由は?」

奏乃「創設者だから?」

世月「起業したら偉くなんだ。じゃあ俺も社長になろー。」

と、世月くんは私の手から離れ、くるりと体を回転させると水面に体を浮かして気持ちよさそうに漂う。

私は世月くんの頭が壁にぶつからないように頂点に立って一緒に温水プールを楽しんでいるとふと疑問が浮かぶ。

心臓が弱い人ってプールに入っていいんだっけ…?

走ったりする激しい運動がダメだからいつも日向先生とラジオ体操をしてるんだろうけど、プールってどうなんだろう…。

本当はお願いされた時にすぐ調べないといけなかった事に今更気付き、世月くんの様子を伺おうとすぐ下を見るとさっきまでいた世月くんがいなくなっていてプールには私1人しかいない。

奏乃「…世月くん?」

私は世月くんが神隠しにあったのかと思うほど、何も音をさせずにいなくなってしまったので立ち尽くしたまま焦っていると自分の足元から少し大きな気泡が浮かんできた。

その気泡の生みの親を見つけ、私はプールの底に静かに沈んでいった世月くんに手を伸ばすけど、自分からは手を掴んでくれなかった。

私はずっと無反応の世月くんを見て焦り、汚れをつけたままの顔も一緒にプールの中へ潜り世月くんを顔から抱き上げる。

すると、世月くんは少し苦しそうに軽く咳払いをしてさっきまで取り入れられなかった酸素を自分の肺へ送る。

奏乃「なんで潜ったの?」

世月「生まれ変わりの儀式。」

奏乃「なにそれ?」

私の焦った気持ちをひと蹴りする世月くんの回答に私は思わず眉を寄せていると、プールサイドの扉が開く音が聞こえて2人同時に振り返る。

世月「…なんでいるの?」

と、世月くんはプール脇まで無表情で歩いてくる日向先生に敵意むき出しの目線を送る。

葵「世月くんの先生だから。今日分の勉強しないといけないから上がっておいで。」

そう言いながら日向先生は片手を世月くんに差し出し、片手を背中に隠している。

世月「やだ。まだ習ってないことある。」

葵「習い事は全部僕が教えてあげる約束でしょ。それともこのボンクラに勉強教えてもらうの?」

…ボンクラ。

私は思い当たることがあり過ぎて、言葉のナイフで貧血になりかけていると世月くんが明け方の時のように手を握ってくれた。

世月「どっちが上手に潜水できるかで決める。だからひまたんもプール入って。」

と、世月くんは私の手を引きながらプールの中心へゆっくりと後ろ歩きで歩いていく。

葵「分かったから。中心に行くほど深いんだから溺れないでよ。」

そう言いながら日向先生はため息をつき、背後に隠していた何かを見せないようこちらに背を向けながらスーツを脱ぐ。

世月「…さっきの儀式やるから。奏乃が最初ね。」

世月くんは私の耳元で息だけで言葉を発し、日向先生には儀式のことを内緒にするそう。

奏乃「分かった。日向先生のためにも頑張る。」

世月「うん。」

私は少し鼓動が早くなる心臓のせいでいつもの潜水時間が短くなってしまいそうなのを少し冷えてきた体で感じながら、そっと波を打たせてそばに来る日向先生にこれから生まれ変わってもらうために普段の仕事以上に気を引き締めた。


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