桃色幼馴染と煙気王子様

環流 虹向

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Hot Time

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「おー、とと丸。ヒノキのいい匂いするな。」

と、タオル1枚の葉星が俺の肩を鷲掴みして胸に鼻を埋める。

結心「これならしばらくらぶ子の気持ちも落ち着く…、よな?」

そう言って葉星は言葉が聞こえないはずの俺に話しかけるように首を傾げる。

結心「…やっぱ、ただのぬいぐるみ…だよな。」

…まあ、そうだな。

そう伝えたいけれど、愛はいないし、愛の前でそんなことは言えない。

結心「とと丸。俺がクズ箱にぶち込まれたら愛はどう思うかな。」

なんの話だよ。
というより、俺よりでかい男がクズ箱に入れるわけないだろ。

俺がそう口にするけれど、葉星の耳にはやっぱり届いてないようでとても長い沈黙が流れる。

結心「…俺がいなくなったらきっと信者の8割は死ぬだろうし、父さんはニーナを連れて海外へ高飛び。また愛が1人になる。いや…、とと丸がいるか…。」

そんな独り言を言う葉星の顔はいつになく真剣な表情で、なにかに追い詰められている雰囲気を感じる。

結心「お前が“普通”の幼馴染だったら、こんな悩むことなく俺は消えてたんだけどな。なんであんたはウサギのぬいぐるみになっちゃったんだよ。」

…そんなこと言われても。

あの日、愛が自分を追い詰めすぎて息もまともに出来なくなっていたから、ずっと抱きしめられていたぬいぐるみを使って思い出を生きさせることが精一杯で今日まで来ちゃったんだよな。

ただただあの家に残る愛が心配で一緒にいたけど、もう少しで大人になる愛に俺は必要ない存在にならないといけない。

けど、10年以上一緒にいる幼馴染だからそんな簡単には手放してくれないし、死んでも一緒と海の中で言われてしまった。

そんな愛に思い出だけの俺は何もしてあげられない。

だからよく分からない存在の葉星といるのも黙って見ていたっていうのに、葉星は今後の愛も俺に任せようとしてるのか…。

結心「人類全員幸せになる日なんて来ないのにクソジジィが残してった遺言を信じるバカしかいねぇ。」

と、葉星は俺を膝の上に乗せて涙を溜め込んだ目をしながら俺の耳を撫でる。

結心「それを利用して父さんは金を荒稼ぎ、信者の女を食い散らかしてめんどくさくなったら裏山にいる野生化させた野良犬に食わせんだ。」

葉星は絶対的に口にしてはいけないことを愛としか喋れない俺に吐いていく。

結心「このサウナだって、俺の体液を塩にするためだけに作られたんだ。しかも、それをみんな知ってて買うんだ。『息吹きの結晶』って10gも入ってない小瓶に20万だ。バカだろ?」

そう言って葉星は顔に流れ始めた汗をそばに置いていた吸収性の良さそうなタオルで拭き、しっかり仕事をしていく。

結心「俺が生まれた時はただの人間だったのに、父さんが母さんを殺してから神様になった。そんな半端もんの神の息吹きなんかご利益ないだろうよ…。」

葉星が拭いたばっかりの顔をまたタオルに埋め、しばらく黙っているとサウナ室の扉がノックされた。

「ハーベン様、蓮華浄水れんげじょうすいとお蚕紙かいこしです。」

結心「…置いとけ。」

「扉脇の棚上に置かせて頂きました。」

そう言って向こう側にいた人は小さい足音を立てて何処かに行ってしまった。

結心「あと、3時間。一緒に水抜きしような。」

葉星はすでに疲れている顔を作り笑顔にしてから俺に向け、結晶の元がたくさん拭き取られた布とさっきの人間が持ってきた道具と交換してたくさんの体液と愚痴を溢れさせた。

だけど葉星の呼吸はいつもより浅く、そばに凛先生や愛がいないことが心配で俺は無い心臓の不整脈を感じながらそばに居続けた。


環流 虹向/桃色幼馴染と煙気王子様
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