てんしとおコタ

環流 虹向

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「嫌です。」

日向は瑠愛さんに何度頼まれても、僕との撮影に断固拒否する。

瑠愛「お願いだよー…。天ちゃんの腕が1番しっくりくる細さなんだよ…?」

日向「…ムダ毛あるし、…ちょっと傷あるし。」

ムダ毛なんか気にしなくてもいいのに。

その恥ずかしい気持ちって僕に少し好意があるからと思いたいけど、日向は照れる様子もなくとても嫌そうに断り続ける。

日向「…あの、ちょっと2人だけで話してもいいですか?」

と、しまいには日向は僕を部屋から追いだし、暇をしている悠さんの元へ追い払った。

悠「生ハム食べる?」

琥太郎「…ちょっと頂きます。」

僕は全部を拒否された気分になり、今唯一僕を受け入れてくれた悠さんの隣に座って静かな時間を過ごす。

悠「撮影どう?順調?」

琥太郎「ペースはいい方です。」

悠「よかった。せっかく撮ったならコンテストとか出したいもんね。」

琥太郎「まあ…、ウェブとかに流すと親に見つかっちゃうんで。」

悠「琥太くんの親御さんはあんまり応援してくれないんだ?」

と、悠さんはフォークで器用に生ハムを取り、クラッカーと一緒に食べる。

琥太郎「はい…。父親がTV業界で働いてるからかもしれないです…。」

悠「あー…、色々見ちゃってって感じかな。」

琥太郎「多分ですけど…。」

悠「理由は言ってくれないの?」

琥太郎「頭ごなしにダメって言うだけなので…。この間も衣装とPCを喧嘩になった時に壊されたけど謝りもしてくれませんでした。」

悠「ひどいね。PCは直りそう?」

琥太郎「買い替えっぽいんですよね…。データ、全部飛んでました。」

僕がそう正直に話すと悠さんは大きなため息をついて、持っていたフォークを置いた。

悠「自分のやりたいことを押さつけられるといずれ反動で自分のことも傷つけ始めるから、今みたいに内緒でもやりたいと思える限り続けていこうね。」

と、悠さんは少し僕のそばに寄って瑠愛さんがしてくれるように優しく抱きしめてくれた。

悠「親はただ自分を生んだ人なだけだから言うことを聞かなくったっていいよ。琥太くんの人生は琥太くんが思い描くように作ればいいよ。」

琥太郎「…ありがとうございます。」

悠「うん。だから元気出してね。」

悠さんは僕がいつもの調子ではないことを雰囲気で読み取っていたのか、僕を静かに励まして温もりと優しさをくれた。

こういう人が自分の母親としていてくれたらどんなに良かっただろうと僕は悠さんを抱きしめ返しながら考えていると、リビングの扉が開いた。

瑠愛「あー…、浮気だぁ…。」

と、瑠愛さんは僕たちを見て拗ねた顔をしながらオープンキッチンに向かう。

悠「琥太くん、いい匂いだから。」

そう言って悠さんは突然僕の首元に鼻を這わせて匂いを嗅ぐ。

琥太郎「ち、ちょっと…。」

悠「何の匂い?私も同じ石鹸使いたい。」

と、悠さんは匂いで答えを導き始めてくすぐったくて僕が変な声を出しそうになっていると、その隣に鼻をすする日向が座った。

日向「匂いなんてなくないですか?」

悠「あるよ。なんか甘い感じの。」

日向「本当ですか…?」

日向は僕を嫌ってるはずなのにも関わらず、僕の肩に鼻をつける寸前まで近づき匂いを嗅ぎ始める。

僕はそんな状況に耐えきれなくなり、無理矢理離れて冷蔵庫を漁っている瑠愛さんの元へ逃げた。

瑠愛「俺の悠ちゃん奪わないでください。」

琥太郎「そんなつもりないです…。」

瑠愛「分かってるよ。あの2人はマイペースだから気をつけようね。」

と、瑠愛さんは笑いながら僕を片手でハグして背中を軽く叩くとおつまみを渡してくる。

瑠愛「今日は一旦撮影終わり。あのシーンはもうちょっと後で撮ろう?」

琥太郎「え…、あ、はい。わかりました。」

思ってたより、日向は僕を拒否しているみたい。

やっぱり嫌いな奴と手なんか繋ぎたくないよなと思いながら僕は2人から離れたTV前で瑠愛さんと一緒に映画鑑賞をして芝居の勉強をした。


環流 虹向/てんしとおコタ
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