てんしとおコタ

環流 虹向

文字の大きさ
上 下
19 / 25
12/28

20:00

しおりを挟む
風喜の家に泊まるのは今日で最終日。

だから爽太も呼んで、ある程度切りがいいところまで冬休みの宿題を終えて風喜がわざわざ1人で借りてきたあのホラー映画を見る。

僕は1番見られたら面倒臭い人たちと一緒に映画を見進めているけれど、2人は茶化すこともなくただ物語に集中してくれていてやっぱり僕が思っていたよりも嫌な奴じゃないと分かった。

爽太「琥太がイケメンなのは知ってたけど、子役やってんの知らなかった。」

風喜「ふぅも今日知ったの。てか、こーたんハマり役過ぎない?ずっと鳥肌立ってる。」

と言って、風喜は腕に出来た鳥肌を僕に見せてきた。

琥太郎「ハマり役っていうか…、ハマらないとダメじゃん。」

爽太「かっけぇ…。色々調べたけど他にも色々やってるよな?」

琥太郎「…仕事が貰えればやってた。」

風喜「今はないの?」

琥太郎「うん…。僕の年齢で僕より演技上手い人なんかたくさんいるし、僕が向こうの期待を越えられてないから。」

僕は初めて自分の思ったことを素直な言葉で伝えると、2人はとても驚いた表情をしてお互いの顔を見合わせた。

爽太「…けど、何にもなれてない無名の俺たちより琥太はすごいと思う。」

琥太郎「…2人はレギュラー落ちたことないじゃん。」

風喜「うちの学校、強豪校でもないじゃん。しかも地区大会の予選敗退は当たり前だし。」

琥太郎「でも、選ばれること自体に意味があると思うよ。」

僕は声が掛からなくなってからお父さんに内緒で何度もオーディションに行ったけど、見事にダメで自分が誰にも必要とされてないと感じてからだんだんと自我がなくなって、いつしかいじめに加担して自分のストレス発散に成績が学年トップで男女共に人気があった日向を攻撃してしまった。

けれど、そんなのほんの一瞬しか気が紛れなくて今更になって後悔している。

だから入学当時から淡い恋心を抱いてたとしても、こんな僕が日向を好きでいる資格はない。

…でも。

どうしても、その気持ちは時間が経つことに増していって、この間の白い息のように吐き捨てて空気に溶かして消すことは出来なくて自分がどうすればいいのか分からない。

風喜「ふぅは今のこーたんがTVとか映画館で映ってるとこ見てみたい。」

爽太「うん。同じく。」

風喜「この映画を見る前までは稼ぎ頭として働かされてるのかなって思ってたけど、本気でこーたんがやってならちゃんと応援するよ。」

僕が思っていた“仮の友達像”の2人はもう消えていて、今はただ本当の友達として僕の夢を応援してくれるいい人になっていた。

だから僕はこの2人の声援も自分の力にして明日から始める短編映画の撮影に気合いを入れた。


環流 虹向/てんしとおコタ
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

愛する貴方の心から消えた私は…

矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。 周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。  …彼は絶対に生きている。 そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。 だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。 「すまない、君を愛せない」 そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。 *設定はゆるいです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます

おぜいくと
恋愛
「あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます。さようなら」 そう書き残してエアリーはいなくなった…… 緑豊かな高原地帯にあるデニスミール王国の王子ロイスは、来月にエアリーと結婚式を挙げる予定だった。エアリーは隣国アーランドの王女で、元々は政略結婚が目的で引き合わされたのだが、誰にでも平等に接するエアリーの姿勢や穢れを知らない澄んだ目に俺は惹かれた。俺はエアリーに素直な気持ちを伝え、王家に代々伝わる指輪を渡した。エアリーはとても喜んでくれた。俺は早めにエアリーを呼び寄せた。デニスミールでの暮らしに慣れてほしかったからだ。初めは人見知りを発揮していたエアリーだったが、次第に打ち解けていった。 そう思っていたのに。 エアリーは突然姿を消した。俺が渡した指輪を置いて…… ※ストーリーは、ロイスとエアリーそれぞれの視点で交互に進みます。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

アルバートの屈辱

プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。 『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。

五歳の時から、側にいた

田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。 それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。 グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。 前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

処理中です...