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部活終わりに寄ったチチ婆の店で軽く腹を満たし、駅の方へ向かっていると風喜が帰り道の商店街にある電気屋の前で足を止め、TVを見始めた。
爽太「行くぞー。今日は母ちゃんに怒られる。」
風喜「これって“ブラックサンタ”だよね?」
と、風喜は自分が舐めていた棒キャンディーでTVを指し、半身電車に向かおうとしてた僕たちに聞いてきたので僕は爽太と一緒にTVに映るニュースを見てみる。
そのニュースは10年前のクリスマスにあった通り魔殺人事件を振り返っているニュースで、僕は初めてその事件を知った。
爽太「あー…、なんか女優が役に入り込んじゃってあたおかになったやつか。」
風喜「あ!それそれ。兄ちゃんがその女優のファンだったみたいで写真見せてもらったんだけど、えぐい美人なんだよ。絶世の美女ってやつ。」
そう言いながら風喜は携帯でその女優さんの写真を僕たちに見せてくれた。
爽太「やべぇ…。彫刻像かよ…。」
琥太郎「…ブラックサンタって映画かなんかのタイトル?」
風喜「ドラマなんだけど、タイトルは“聖女の行進”でブラックサンタはその女優の艶々だったブラックロングヘアからきてる。クリスマスに放映するつもりだったけど、その事件があったから急遽お蔵入りになって。」
…まあ、そうか。
そんな事件の引き金になってしまったものを放映したらTV局自体がなくなるかもしれないくらい大ごとになるかもしれないもんな。
琥太郎「その女優の名前は?」
風喜「雲母河 こはくさんって人。だいぶ有名な人だからこーたんは知ってるかも。」
琥太郎「初めて聞いた。今度調べてDVD借りてみようかな。」
爽太「琥太って本当に映画とか好きよなー。」
いつものように他愛のない会話をして家に帰った僕はまた腹が減ってきたのでコタツを作ってから家にある袋麺を鍋で湯がいていると、いつもは夜勤のはずのお父さんが帰ってきた。
琥太郎「おかえり。ラーメン食べる?」
父「ただいま。しょうゆだったら食べる。」
琥太郎「はーい。」
僕はお父さんが好きなしょうゆラーメンしか常備していないので、そのまま一緒に湯がいているとお父さんはリビングのコタツで温まり始めた。
その背中が少し小さく見えて痩せてしまったのかと思った僕は、ネギと卵のみにするつもりだったラーメンにまだ2週間以上保つチャーシューを入れてテーブルに置き、自分もコタツに入る。
父「今入ってるやつでいいか?」
琥太郎「うん。多分、アラジン。」
僕がそう言うと父さんは軽く頷き、リモコンでTVをつけてビデオテープを巻き戻し最初から映画を見始めた。
そのゆったりとした時間が久しぶりで、今日がクリスマスだったらいいのにと思いながらいつもより少し豪華だったラーメンを食べ終えた。
父「ご馳走さま。」
琥太郎「うん。…あのさ、お父さんってクリスマスは仕事?」
父「…まあな。」
…そっか。
まあ、忙しいよね…。
そう思っているとお父さんは自分のカバンを漁りだし、財布を取り出した。
その仕草が嫌で僕はふと思い出した女優を話題に出すことにした。
琥太郎「ね、ねえ。雲母河って女優さん知ってる?今日、学校の友達に…」
父「おい。」
と、父さんはコタツの下でクリスマス用のポチ袋にお金を包む手を止めて、低い声で脅すように僕の言葉を止めた。
父「その人のこと、どこまで知ってる?」
琥太郎「え…、事件起こしたってニュースでやってたの見ただけだけど…。」
父「どこでそのニュースを見たんだ。このTVは繋げてないから見れないはずだぞ。」
なぜかお父さんは怒った時と同じ顔で僕を睨めつける。
その目に僕は喉を締め上げられる気がしてうまく声が出せなくなってしまう。
父「ネット記事か?それとも友達の家か?ニュースはデマしか流れないから見るなってあれだけ言ってもまだ分からないのか!?」
琥太郎「ちょ、ちょっと…、落ち着いてよ…。たまたま商店街の電気屋にあったTVで見ただけだって。」
父「だから無用に出歩くなって言ってるだろ。家だけで過ごせば…。」
と、お父さんは言葉を濁し、ため息をついた。
お父さんは自分自身TV業界の人間なのに僕にはTV番組を一切見せない。
映画、ドラマ、アニメ、そういう映像化されたDVDやビデオは見ていいという不思議な教育方針で、家のTV全てを回線に繋げていないので元からニュースやバラエティさえも見れなくなっている。
僕はそれでも別に困ったことはなかったけれど、今日みたいにみんなが知っているものを知らないことが多いのが中学生になってからの悩みで、たまに爽太や風喜の家に泊まらせてもらった時にはこっそり見ているけどそんなに悪影響なさそうなのにと思ってしまった。
だから気を緩めて口走ってしまった事件の話題にお父さんはキレてしまったんだろう。
琥太郎「…ごめん。携帯には動画アプリとか入れてないから。」
僕は携帯だけのアプリを見せてお父さんを安心させようとしたけれど、お父さんは無言で立ち上がり僕の部屋に行って僕が貯金をして買ったPCを開いた。
琥太郎「や、やめてよ!」
父「… やめろって言う理由がこの中にあるのか?」
と、お父さんはパスワード画面が開かれたPCを叩きながら僕を睨む。
父「2年生になってお前はたるんだ。成績は落ちて、サッカー部では補欠で、警察に補導までされた。学園生活に集中出来ていないってことだよな?」
琥太郎「してるって!けど、勉強は追いつけないし、みんな僕より運動出来るし…」
父「出来るようになるために練習があるんだろうが!」
バコン!とお父さんはPCをグーで殴り、立ち上がって僕を上から蔑むように見てくる。
父「予習練習復習、誰でも出来ることを毎日やらないお前は何をやってるんだ。」
琥太郎「…何もやってないよ。」
父「嘘をつくな!」
父さんは僕を壁に叩きつけ、肩を潰すように握りしめた。
父「24時間。その時間を全て規則正しく使わなければ歯車が狂うんだ。お前はあの学校で最終学歴の大学を卒業し、大手銀行員になって、無垢な女と結婚する。それだけでいいんだ。」
…それだけ。
それだけがどれだけ夢物語でも、お父さんはそう言う。
父「夢も妄想も追うな。現実を歩け。今いる道から逸れるな。」
そう言ってお父さんは僕のPCを没収して自室へ行ってしまった。
僕はまた唯一の肉親に自分を否定され、誰の前でも流せない涙を枕になすりつけたまま眠りに落ちた。
環流 虹向/てんしとおコタ
爽太「行くぞー。今日は母ちゃんに怒られる。」
風喜「これって“ブラックサンタ”だよね?」
と、風喜は自分が舐めていた棒キャンディーでTVを指し、半身電車に向かおうとしてた僕たちに聞いてきたので僕は爽太と一緒にTVに映るニュースを見てみる。
そのニュースは10年前のクリスマスにあった通り魔殺人事件を振り返っているニュースで、僕は初めてその事件を知った。
爽太「あー…、なんか女優が役に入り込んじゃってあたおかになったやつか。」
風喜「あ!それそれ。兄ちゃんがその女優のファンだったみたいで写真見せてもらったんだけど、えぐい美人なんだよ。絶世の美女ってやつ。」
そう言いながら風喜は携帯でその女優さんの写真を僕たちに見せてくれた。
爽太「やべぇ…。彫刻像かよ…。」
琥太郎「…ブラックサンタって映画かなんかのタイトル?」
風喜「ドラマなんだけど、タイトルは“聖女の行進”でブラックサンタはその女優の艶々だったブラックロングヘアからきてる。クリスマスに放映するつもりだったけど、その事件があったから急遽お蔵入りになって。」
…まあ、そうか。
そんな事件の引き金になってしまったものを放映したらTV局自体がなくなるかもしれないくらい大ごとになるかもしれないもんな。
琥太郎「その女優の名前は?」
風喜「雲母河 こはくさんって人。だいぶ有名な人だからこーたんは知ってるかも。」
琥太郎「初めて聞いた。今度調べてDVD借りてみようかな。」
爽太「琥太って本当に映画とか好きよなー。」
いつものように他愛のない会話をして家に帰った僕はまた腹が減ってきたのでコタツを作ってから家にある袋麺を鍋で湯がいていると、いつもは夜勤のはずのお父さんが帰ってきた。
琥太郎「おかえり。ラーメン食べる?」
父「ただいま。しょうゆだったら食べる。」
琥太郎「はーい。」
僕はお父さんが好きなしょうゆラーメンしか常備していないので、そのまま一緒に湯がいているとお父さんはリビングのコタツで温まり始めた。
その背中が少し小さく見えて痩せてしまったのかと思った僕は、ネギと卵のみにするつもりだったラーメンにまだ2週間以上保つチャーシューを入れてテーブルに置き、自分もコタツに入る。
父「今入ってるやつでいいか?」
琥太郎「うん。多分、アラジン。」
僕がそう言うと父さんは軽く頷き、リモコンでTVをつけてビデオテープを巻き戻し最初から映画を見始めた。
そのゆったりとした時間が久しぶりで、今日がクリスマスだったらいいのにと思いながらいつもより少し豪華だったラーメンを食べ終えた。
父「ご馳走さま。」
琥太郎「うん。…あのさ、お父さんってクリスマスは仕事?」
父「…まあな。」
…そっか。
まあ、忙しいよね…。
そう思っているとお父さんは自分のカバンを漁りだし、財布を取り出した。
その仕草が嫌で僕はふと思い出した女優を話題に出すことにした。
琥太郎「ね、ねえ。雲母河って女優さん知ってる?今日、学校の友達に…」
父「おい。」
と、父さんはコタツの下でクリスマス用のポチ袋にお金を包む手を止めて、低い声で脅すように僕の言葉を止めた。
父「その人のこと、どこまで知ってる?」
琥太郎「え…、事件起こしたってニュースでやってたの見ただけだけど…。」
父「どこでそのニュースを見たんだ。このTVは繋げてないから見れないはずだぞ。」
なぜかお父さんは怒った時と同じ顔で僕を睨めつける。
その目に僕は喉を締め上げられる気がしてうまく声が出せなくなってしまう。
父「ネット記事か?それとも友達の家か?ニュースはデマしか流れないから見るなってあれだけ言ってもまだ分からないのか!?」
琥太郎「ちょ、ちょっと…、落ち着いてよ…。たまたま商店街の電気屋にあったTVで見ただけだって。」
父「だから無用に出歩くなって言ってるだろ。家だけで過ごせば…。」
と、お父さんは言葉を濁し、ため息をついた。
お父さんは自分自身TV業界の人間なのに僕にはTV番組を一切見せない。
映画、ドラマ、アニメ、そういう映像化されたDVDやビデオは見ていいという不思議な教育方針で、家のTV全てを回線に繋げていないので元からニュースやバラエティさえも見れなくなっている。
僕はそれでも別に困ったことはなかったけれど、今日みたいにみんなが知っているものを知らないことが多いのが中学生になってからの悩みで、たまに爽太や風喜の家に泊まらせてもらった時にはこっそり見ているけどそんなに悪影響なさそうなのにと思ってしまった。
だから気を緩めて口走ってしまった事件の話題にお父さんはキレてしまったんだろう。
琥太郎「…ごめん。携帯には動画アプリとか入れてないから。」
僕は携帯だけのアプリを見せてお父さんを安心させようとしたけれど、お父さんは無言で立ち上がり僕の部屋に行って僕が貯金をして買ったPCを開いた。
琥太郎「や、やめてよ!」
父「… やめろって言う理由がこの中にあるのか?」
と、お父さんはパスワード画面が開かれたPCを叩きながら僕を睨む。
父「2年生になってお前はたるんだ。成績は落ちて、サッカー部では補欠で、警察に補導までされた。学園生活に集中出来ていないってことだよな?」
琥太郎「してるって!けど、勉強は追いつけないし、みんな僕より運動出来るし…」
父「出来るようになるために練習があるんだろうが!」
バコン!とお父さんはPCをグーで殴り、立ち上がって僕を上から蔑むように見てくる。
父「予習練習復習、誰でも出来ることを毎日やらないお前は何をやってるんだ。」
琥太郎「…何もやってないよ。」
父「嘘をつくな!」
父さんは僕を壁に叩きつけ、肩を潰すように握りしめた。
父「24時間。その時間を全て規則正しく使わなければ歯車が狂うんだ。お前はあの学校で最終学歴の大学を卒業し、大手銀行員になって、無垢な女と結婚する。それだけでいいんだ。」
…それだけ。
それだけがどれだけ夢物語でも、お父さんはそう言う。
父「夢も妄想も追うな。現実を歩け。今いる道から逸れるな。」
そう言ってお父さんは僕のPCを没収して自室へ行ってしまった。
僕はまた唯一の肉親に自分を否定され、誰の前でも流せない涙を枕になすりつけたまま眠りに落ちた。
環流 虹向/てんしとおコタ
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