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9:先触れの無い客
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悪事千里を走るとはよく言ったもの。
国王陛下への目通りを願い出て3日目に王宮から日取りを知らせる使者が来た。
通常であれば余程の国家有事でない限り返事が1週間は待たされるものだ。3日目で返事が来た上に面会の日は2日後。場所は国王陛下の執務室だと言う。
子爵に過ぎない我が家に対し破格の対応である。
こんなに早い日程が決まったのは間違いなくバレリオ様とプリシラ様の姿が高位貴族のご夫人方に見られてしまったのが原因だ。
国王陛下もレンドン侯爵家の農作物を切り離せないのと同じようにマルス家は手放せない。リディアお姉様が隣国に嫁ぐ際にマルス家も続いて出国するのではないかとも考えていたようでマルス家には非公式に何度か「出国をしないように」と国王陛下直々に御出でになったほどだ。
ジャスミンお姉様もカエラお姉様もこの国の男性に嫁いでいるからそんな事は考えてもいないのだが、想定外は何処にでも転がっているもの。公には頭を下げる事は出来なくても自らが出向き、頭を下げれば臣下としては頼みを聞き入れる他に術はない。己の使い方をよく判っている国王陛下だ。
かたや…3日と空けずにレンドン侯爵家に出向いていた私が訪れなくてもバレリオ様からは何の音沙汰もない。侯爵家の当主夫人としての学習は既に修了しているのだから行かなくても問題はないが、結局はそれだけの関係だったのだろう。
過去は私はバレリオ様に会いたくて通っていただけのことだ。
尤もそれがあったから、手持無沙汰な私にもレンドン侯爵は領地経営を教えてくれていたのだ。だからこそ2回目、3回目の人生で1人で領地経営を行えたに過ぎない。
スブレ子爵とはあの場だけだったが、他の代官を委任されている者達とはその時に知り合った。今回は彼らと関わる事もない。
プリシラ様が何日王都に滞在されるのかは知らないが、仲良くやってくれればいい。
吹っ切れればこうも気持ちが違うものなのだと改めて自分に驚く。
何故過去は続いたのか。
きっと3回目で2人の子供を見たから今回は踏ん切りがついたのかも知れない。
登城の日、カエラお姉様の夫であるエルドゥ様が来て下さった。
母の支度が整うまで父とエルドゥ様と3人で今日の申し合わせをする。
エルドゥ様は荒廃した領地でも収益が見込める土地にした経験を有しているため今回は「経験者」として助言をしてもらうのだ。私や現侯爵が存命の間は何とかできたとしても、子供の代となればそうもいかない。
――何より、私とバレリオ様との間に子が出来た事はない――
過去の人生。1度目は早々に廃家となったが2度目、3度目のバレリオ様はプリシラ様の事しか頭になく領地経営は私に一任されていた。彼がした事は金を私用に使う事だけだ。
今回は「婚約破棄」「婚約解消」と言う話は匂わせるだけ。
物理的に距離を取ろうと画策する私はこの国にはいない予定だ。
「どうぞ、お好きに愛を深めてついでに子供を」と考えている。今ならプリシラ様はスブレ子爵令嬢だ。貴族同士なのだから婚前交渉で多少は叩かれるだろうが愛し合う2人が結ばれるのだから何の問題もない。円満に婚約もレンドン侯爵家有責で解消となるだろう。
「待たせちゃったわね。あら?ルディ。水色も良いわね。良く似合ってるわ」
お母様は深い蒼。青ではなく蒼だ。見ようによっては濃紺にも黒にも見える。
国王陛下、王妃殿下に無言で「不快」を示すためである。
「では、参りましょうか」
「そうだな。フレア、手を」
「あら?エド君じゃないの?」
「お義母上。ここはお義父上の顔を立ててください」
チラっと父を見る母。差し出した手に母の手が添えられると嬉しそうな顔をする。
そう、私もこんな夫婦になりたかっただけ。
その為に婚約して14年と言う月日を捧げてきた。
両親と共に馬車に乗り込もうとした時だ。
門番がこちらに向かって声をあげながら走ってくる姿が見えた。
「何かあったのかしら?」
「外門の錆びつきなら直させたはずなんだが」
「僕が来た時は何もありませんでしたよ?むしろあのギギギという音がなかったのが寂しかったくらいですが」
急いでいたのか、門番の中でも一番若い門番が息も絶え絶えにお父様の元に駆けてきた。
「何事だ?外門が外れたのか?」
「いえ、門ではなく先触れの無い客です」
「客?あぁダメだ。今日の行き先は王宮、国王陛下が優先だ。帰って貰ってくれ」
「それが、レンドン侯爵子息なんですっ」
<< はっ? >>
耳に聞こえてくるのは門番の息遣いのみ。私達は無言で顔を見合わせた。
国王陛下への目通りを願い出て3日目に王宮から日取りを知らせる使者が来た。
通常であれば余程の国家有事でない限り返事が1週間は待たされるものだ。3日目で返事が来た上に面会の日は2日後。場所は国王陛下の執務室だと言う。
子爵に過ぎない我が家に対し破格の対応である。
こんなに早い日程が決まったのは間違いなくバレリオ様とプリシラ様の姿が高位貴族のご夫人方に見られてしまったのが原因だ。
国王陛下もレンドン侯爵家の農作物を切り離せないのと同じようにマルス家は手放せない。リディアお姉様が隣国に嫁ぐ際にマルス家も続いて出国するのではないかとも考えていたようでマルス家には非公式に何度か「出国をしないように」と国王陛下直々に御出でになったほどだ。
ジャスミンお姉様もカエラお姉様もこの国の男性に嫁いでいるからそんな事は考えてもいないのだが、想定外は何処にでも転がっているもの。公には頭を下げる事は出来なくても自らが出向き、頭を下げれば臣下としては頼みを聞き入れる他に術はない。己の使い方をよく判っている国王陛下だ。
かたや…3日と空けずにレンドン侯爵家に出向いていた私が訪れなくてもバレリオ様からは何の音沙汰もない。侯爵家の当主夫人としての学習は既に修了しているのだから行かなくても問題はないが、結局はそれだけの関係だったのだろう。
過去は私はバレリオ様に会いたくて通っていただけのことだ。
尤もそれがあったから、手持無沙汰な私にもレンドン侯爵は領地経営を教えてくれていたのだ。だからこそ2回目、3回目の人生で1人で領地経営を行えたに過ぎない。
スブレ子爵とはあの場だけだったが、他の代官を委任されている者達とはその時に知り合った。今回は彼らと関わる事もない。
プリシラ様が何日王都に滞在されるのかは知らないが、仲良くやってくれればいい。
吹っ切れればこうも気持ちが違うものなのだと改めて自分に驚く。
何故過去は続いたのか。
きっと3回目で2人の子供を見たから今回は踏ん切りがついたのかも知れない。
登城の日、カエラお姉様の夫であるエルドゥ様が来て下さった。
母の支度が整うまで父とエルドゥ様と3人で今日の申し合わせをする。
エルドゥ様は荒廃した領地でも収益が見込める土地にした経験を有しているため今回は「経験者」として助言をしてもらうのだ。私や現侯爵が存命の間は何とかできたとしても、子供の代となればそうもいかない。
――何より、私とバレリオ様との間に子が出来た事はない――
過去の人生。1度目は早々に廃家となったが2度目、3度目のバレリオ様はプリシラ様の事しか頭になく領地経営は私に一任されていた。彼がした事は金を私用に使う事だけだ。
今回は「婚約破棄」「婚約解消」と言う話は匂わせるだけ。
物理的に距離を取ろうと画策する私はこの国にはいない予定だ。
「どうぞ、お好きに愛を深めてついでに子供を」と考えている。今ならプリシラ様はスブレ子爵令嬢だ。貴族同士なのだから婚前交渉で多少は叩かれるだろうが愛し合う2人が結ばれるのだから何の問題もない。円満に婚約もレンドン侯爵家有責で解消となるだろう。
「待たせちゃったわね。あら?ルディ。水色も良いわね。良く似合ってるわ」
お母様は深い蒼。青ではなく蒼だ。見ようによっては濃紺にも黒にも見える。
国王陛下、王妃殿下に無言で「不快」を示すためである。
「では、参りましょうか」
「そうだな。フレア、手を」
「あら?エド君じゃないの?」
「お義母上。ここはお義父上の顔を立ててください」
チラっと父を見る母。差し出した手に母の手が添えられると嬉しそうな顔をする。
そう、私もこんな夫婦になりたかっただけ。
その為に婚約して14年と言う月日を捧げてきた。
両親と共に馬車に乗り込もうとした時だ。
門番がこちらに向かって声をあげながら走ってくる姿が見えた。
「何かあったのかしら?」
「外門の錆びつきなら直させたはずなんだが」
「僕が来た時は何もありませんでしたよ?むしろあのギギギという音がなかったのが寂しかったくらいですが」
急いでいたのか、門番の中でも一番若い門番が息も絶え絶えにお父様の元に駆けてきた。
「何事だ?外門が外れたのか?」
「いえ、門ではなく先触れの無い客です」
「客?あぁダメだ。今日の行き先は王宮、国王陛下が優先だ。帰って貰ってくれ」
「それが、レンドン侯爵子息なんですっ」
<< はっ? >>
耳に聞こえてくるのは門番の息遣いのみ。私達は無言で顔を見合わせた。
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