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4:2度目の人生
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☆~☆2度目の人生☆~☆
茶器をソーサーに置いた時、2度目の人生は始まった。
プリシラ様の声は耳に突き刺すような痛みを伴い記憶を更に呼び起こした。
私の心の中に芽生えた思いは、醜くて汚いドロドロしたものだった。
記憶を辿り、バレリオ様が領地に視察に行くという情報を聞くたびに同行するとごねた。
「いい加減になさい!それで侯爵夫人となれると思っているの!」
ただの我儘な女に成り下がった私をバレリオ様のお母様は許さなかった。
「もう一度講師を呼んでおいたわ」
「そんな…もう全て修了しております。それよりもバレリオ様と領地に行かせてくださいませ」
私の頼みが聞き入れられる事はなかった。
再教育が必要だと言われ、否が応にも引き離される。
1度目の人生と同じ。いや、それ以上にバレリオ様はプリシラ様との逢瀬に励まれたのだ。
私が出来る事は、心が引き裂かれる思いを耐えて見て見ぬふりをする事だけだった。
結婚式まであと1カ月と迫った日。
やはりバレリオ様は「結婚できない」と仰った。
――あぁ、同じだ――
何故と問えば「リシェを愛している」と言うのだろうと思うと吐きそうになった。
他の女性に寝取られたなど言えるはずがない。
けれど、このままではまた結婚式で惨めな思いをする事になると、私はバレリオ様のお母様にだけ相談をした。やっとこの時、バレリオ様のお母様は「女の直感」だろうと曖昧な位置づけで私の「駄々」を理解し謝罪をした。
「再教育をするのは貴女ではなく息子だった」
その言葉に安堵して良いのかも私は判らなかった。
ただ、これでプリシラ様から奪い返せたと浅はかにも思ってしまった。
罰だとしてレンドン侯爵はスブレ子爵を代官から解任。一家を放逐した。
やっとバレリオ様との結婚を妨害する者がいなくなったという思いと同じくらいに私は惨めな花嫁にはなりたくない思いが強かった。バレリオ様と結婚式を挙げた時、私は心から安堵した。
しかし結婚生活は初日から破綻していた。
「スブレ子爵家が放逐をされたのはお前のせいだ」と罵られ、バレリオ様は初夜を放棄した。そしてプリシラ様の居場所を突き止めるのだと外出をする事が多くなった。
私は愚かだった。
バレリオ様が留守の間、侯爵家を切り盛りし繁栄をさせればバレリオ様も目を覚ましてくれる。バレリオ様をずっと思い、支えているのだと判って貰えればプリシラ様が現れる前のように、2人で語り合う日が来る。そう信じて疑わなかった。
過労が重なり意識を失うまで領地に薬草を茂らせても労いの言葉一つない。儲けた金は全てプリシラ様一家を捜索する資金につぎ込まれていく。
結婚して27年目。プリシラ様は既に他の男性と結婚し子供もいる事が判った。
これでやっと私を見てくれる。そんな期待はあっさりと否定された。
バレリオ様は「贖罪だ」と言ってプリシラ様一家に金を与え始めたのだ。
プリシラ様と結婚をした男性が亡くなるとバレリオ様はプリシラ様の家に転がり込み、二度と侯爵家に戻る事はなかった。
2度目の人生が終焉を迎えるその日までバレリオ様が私の寝室で夜を明かす事は一度もなかった。それだけではない。初夜での言葉以外、朝の挨拶すらバレリオ様の口から私に向けられる事はなかったのだ。
バレリオ様が亡くなった事をプリシラ様が知らせてきた。
残った侯爵家の財産はバレリオ様の血を一滴も引いていないけれどプリシラ様の子供に譲渡するという遺言を持って。
当主の遺言は絶対の権限を持つ。
プリシラ様は子爵という爵位は既に無く、平民となっている。平民は当主にはなれない。子を授かる行為すらなかった私に子供はいない。結果的にレンドン侯爵家は爵位を王家に返上し、土地などを売りに出した。
法に則り、妻としての最低限の財産は渡されたが私には失望が残っただけだった。
2度目の人生。私は失意の中、人生を閉じた。
茶器をソーサーに置いた時、2度目の人生は始まった。
プリシラ様の声は耳に突き刺すような痛みを伴い記憶を更に呼び起こした。
私の心の中に芽生えた思いは、醜くて汚いドロドロしたものだった。
記憶を辿り、バレリオ様が領地に視察に行くという情報を聞くたびに同行するとごねた。
「いい加減になさい!それで侯爵夫人となれると思っているの!」
ただの我儘な女に成り下がった私をバレリオ様のお母様は許さなかった。
「もう一度講師を呼んでおいたわ」
「そんな…もう全て修了しております。それよりもバレリオ様と領地に行かせてくださいませ」
私の頼みが聞き入れられる事はなかった。
再教育が必要だと言われ、否が応にも引き離される。
1度目の人生と同じ。いや、それ以上にバレリオ様はプリシラ様との逢瀬に励まれたのだ。
私が出来る事は、心が引き裂かれる思いを耐えて見て見ぬふりをする事だけだった。
結婚式まであと1カ月と迫った日。
やはりバレリオ様は「結婚できない」と仰った。
――あぁ、同じだ――
何故と問えば「リシェを愛している」と言うのだろうと思うと吐きそうになった。
他の女性に寝取られたなど言えるはずがない。
けれど、このままではまた結婚式で惨めな思いをする事になると、私はバレリオ様のお母様にだけ相談をした。やっとこの時、バレリオ様のお母様は「女の直感」だろうと曖昧な位置づけで私の「駄々」を理解し謝罪をした。
「再教育をするのは貴女ではなく息子だった」
その言葉に安堵して良いのかも私は判らなかった。
ただ、これでプリシラ様から奪い返せたと浅はかにも思ってしまった。
罰だとしてレンドン侯爵はスブレ子爵を代官から解任。一家を放逐した。
やっとバレリオ様との結婚を妨害する者がいなくなったという思いと同じくらいに私は惨めな花嫁にはなりたくない思いが強かった。バレリオ様と結婚式を挙げた時、私は心から安堵した。
しかし結婚生活は初日から破綻していた。
「スブレ子爵家が放逐をされたのはお前のせいだ」と罵られ、バレリオ様は初夜を放棄した。そしてプリシラ様の居場所を突き止めるのだと外出をする事が多くなった。
私は愚かだった。
バレリオ様が留守の間、侯爵家を切り盛りし繁栄をさせればバレリオ様も目を覚ましてくれる。バレリオ様をずっと思い、支えているのだと判って貰えればプリシラ様が現れる前のように、2人で語り合う日が来る。そう信じて疑わなかった。
過労が重なり意識を失うまで領地に薬草を茂らせても労いの言葉一つない。儲けた金は全てプリシラ様一家を捜索する資金につぎ込まれていく。
結婚して27年目。プリシラ様は既に他の男性と結婚し子供もいる事が判った。
これでやっと私を見てくれる。そんな期待はあっさりと否定された。
バレリオ様は「贖罪だ」と言ってプリシラ様一家に金を与え始めたのだ。
プリシラ様と結婚をした男性が亡くなるとバレリオ様はプリシラ様の家に転がり込み、二度と侯爵家に戻る事はなかった。
2度目の人生が終焉を迎えるその日までバレリオ様が私の寝室で夜を明かす事は一度もなかった。それだけではない。初夜での言葉以外、朝の挨拶すらバレリオ様の口から私に向けられる事はなかったのだ。
バレリオ様が亡くなった事をプリシラ様が知らせてきた。
残った侯爵家の財産はバレリオ様の血を一滴も引いていないけれどプリシラ様の子供に譲渡するという遺言を持って。
当主の遺言は絶対の権限を持つ。
プリシラ様は子爵という爵位は既に無く、平民となっている。平民は当主にはなれない。子を授かる行為すらなかった私に子供はいない。結果的にレンドン侯爵家は爵位を王家に返上し、土地などを売りに出した。
法に則り、妻としての最低限の財産は渡されたが私には失望が残っただけだった。
2度目の人生。私は失意の中、人生を閉じた。
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