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最終章☆それぞれの立ち位置(22話)
ライアル伯爵家の財政事情
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架空、創作の話です。現実世界と混同しないようご注意ください。
この章は最終章となりますので第一章から第四章のインシュアの保険販売とは読んだ時の受け取り方(感じ方)が変わるかも知れません。
中間にあるライアル伯爵家日記に近いと思って頂いて構いません。
架空、創作の話です。現実世界と混同しないようご注意ください。
◇~◇~◇
ライアル伯爵家では当主のライアル伯爵とその実子であり息子であるベンジャーがまさに一触即発の状態で睨みあいを続けていた。
予期せぬ負傷で頭部を縫合する事になったライアル伯爵の抜糸を終えた医師と助手が2人を避ける様にして部屋から出て行くとベンジャーは父、ライアル伯爵の元にツカツカと歩み寄った。
原因は2つあった。
元々ライアル伯爵家はそんなに裕福な家ではなかった。没落寸前とまでは言わないが樽や桶などの何かを入れる容器を木材伐採から製品加工販売を生業としていたのである。
日用品の中で平民であったとしてもいくつかは必要になるし加工する時のツタを染色したりして若い子向けに販売が伸びた事もある。定期的に買い替えが必要だった商品なのでそれなりに最低限の需要はあった。
しかし金物の製品やガラス製品が安価で売られるようになってくると売り上げも落ち込んだ。そこに外国からプラ製品が持ち込まれ爆発的なヒット商品となった。日用品として桶や樽を買うものはさらに少なくなって多くの在庫を抱えた。
――爵位を返上して、田舎でのんびり暮らそうか――
強欲なライアル伯爵でもそう思った時期があった。
父から爵位は継いだしベンジャーという息子も生まれた。夫人は第二子をとせがむが経済的な困窮からこの上子供が増えればどうなるか。なので子供はベンジャー以外には作る気になれず1人病院に行き、パイプカットをしてもらったのだ。その事は今も夫人は知らない。
いよいよ腹を括る時が来た。
ライアル伯爵は帳簿を見て天を仰いだ。4カ月後の手形が落ちなければ商売はもうできない。
今ある財産をもって夜逃げを考えた。手形が不渡りになれば2回目である。債権者が押し寄せて来て爵位を返上した金くらいでは事が足らない。
しかし、夫人には言い出せなかった。幼いベンジャーとお手玉遊びをするのを見て悩む日々。
そんな時だった。流行病が国内を席巻したのだ。
突然高熱を出し、呼吸が出来なくなったものが続出した。
医者も最初はベンジャーの打撲程度でも往診に来てくれていたが手が回らないと来なくなった。
ある日、屋敷の前で見るからに発熱している平民の男が「水を飲ませてくれ」と言って来た。市井にある井戸の水で感染するとデマが広まっていて、貴族の飲む水なら安心だと言うのだ。
ライアル伯爵はどうせ沢山あるのだからと桶いっぱいに水を汲んで男に飲ませた。
数日水も飲めなかったと男は感謝し、1時間程すると自分の足で歩いていなくなった。
それを見ていた他の平民も水をくれと言った。
その平民も一目で発熱していると判る。早く立ち去って欲しくて男の飲んだ桶の残りを与えた。するとその平民も1時間ほどするとフラフラしていたのに少しマシな状態で歩いて何処かに居なくなった。
そこからである。
――ライアル伯爵家の水は病気が治る――
誰が言ったかは定かではないがそんな噂が広がり、屋敷の前は人の群れで溢れかえった
そしてライアル伯爵は【高効能水】を売り出したのだ。
水だけなら8万ベル。但しこの桶に浸透した成分がなければ効果が薄い。桶は2万ベル。
今まで500ベルで卸していた桶だが、これが飛ぶように売れた。
平民でも買えた解熱剤も手に入らなくなり、解熱剤の1回分は王宮で働く文官の2年の年収に匹敵する額にまで高騰していたのだ。それに比べればかなり安い。
在庫の桶や樽は腐るほどあるのだ。桶を抱えて水だけ売ってくれと言う者にはこう言った。
――もう成分は溶けだしているので、ただの水になるがそれで良いか――
客は水だけでは効果がないのなら意味がないと新しい桶も買うしかないのだ。
抱えて帰るのも辛い量だったが零れた水に人が群がるほどだった。
ライアル伯爵は桶を売り切った後は入れ物がなくては意味がない触れ込みだったので廃材を使って手のひらサイズのコップのような入れ物を作り販売を再開した。
全盛期は【高効能水】180ccを20万ベルで売っていた。
当時は発症すれば致死率80%と言われたのだ。
【罹患する前なら予防薬として。発症したら治療薬として。あなたの気持ちを穏かにする高効能水】
そんな触れ込みで毎日数十億を売りあげた。噂は噂を呼んでシャボーン国以外の国からも多くの商人が来て『あるだけ全部』と買い取っていった事もある。
学院に初等科から入って卒業し文官になった者の初任給が手取り13万ベルほどだった事からどれだけ高価な物だったかが伺い知れる。
そんな暴利のような金額でも飛ぶように売れたのだ。購入者の中には領地を売った金全てで購入した貴族もいるし、娘や息子を娼館に売って金を作った者もいる。
【高効能水】に効果があるか。それは誰にもわからない。
ただ一つ言えるのは、入れ物は確かに木材を利用ししっかり作られたものだが、水はライアル伯爵家にある池の水である。地下水が湧き出ていて水の色合いや匂いなどは少し離れた所にある湖と同じだった。
当然煮沸などしていない。沈殿物がある事もあったがライアル伯爵はこう言った。
――よく掻き混ぜて飲まないと意味がない――
流行病の特効薬などなく10年以上経った今でも治療法、予防法は確立されていない。
ただ患者は年間に発症する者が両手で足りるほどで直ぐに隔離されて少なくとも半年は専用の施設で治療を受けるからか蔓延には至っていない。
だから【高効能水】を今、購入する者はいない。それによって財政が赤字に転落しているのだ。
以前に行っていた樽や桶の生産はもうとっくにやめている。入れ物はプラ容器にしたのだ。
――充分に成分をしみ込ませているので効果抜群--
だが、誰も買わない。
ライアル伯爵家はそうやって莫大な財産を築いたが、同時に樹齢何百年という木々があった山は全て木々を伐採し桶を作る材料として使ったため、木がなくなった山は次々に売り飛ばした。
今は植林すらされておらず土が剥き出しになっている。
そのうちの一つが先日崖崩れを起こした山である。子爵家が仕方なく買い取った理由は、山はなんだかんだで手を入れねば崩落を起こす事がある。
ライアル伯爵は【高効能水】をお得容量の樽。桶ではなく樽で3つ買ってくれるなら山もつけると子爵に言ったのだ。山は要らないと子爵は言ったが「なら水は売らない」と言われ山付きで買ったのだ。
はげた山は売り飛ばし管理の必要もなくなった。しかし肝心の【高効能水】は売れない。
所謂、【品のない成金】でもあるライアル伯爵家の内装は今でもそれだけで財産である。
全面金箔の部屋もあるし、格子天井の宗教画は教会にあるものよりも立派である。
通常に使っている馬車は国王陛下が乗る馬車よりも高価な仕様で、特別仕様になれば屋敷が幾つも買える。
ただ、間違ってはいけない。買う時は高価だが年数が経ち中古となった今、半額で買い取ってくれるかと言えば否である。そこまで豪華な馬車はどこも必要としないのだ。
夫人の散財も激しく、【珍しい】【一点もの】と言われれば誰よりも多く札束を積んで商人から宝石を買い漁った。半分以上はクズ石はガラス玉、そこそこでもキュービックジルコニアなのだ。
だが、所詮は成金。本物との見分け方など知らない。輝いている、大きい。それが夫人の基準だ。
それに輪をかけてメイサの散財である。
収入がもう12、13年ない状態で散財をしていれば、どんなに莫大な財産であろうと目減りする。
ベンジャーが憤慨をしている【1つ目の理由】は支払いの督促についてである。
仕事場に借金取りが来たと督促状を叩きつけた。
ヨハンのデビュタントを明日に控えてはいるが、ライアル伯爵家に支払える金はないのだ。
「金は何とかする。心配するな」
ライアル伯爵はそう言って夫人の部屋に行き、寝台で寝ている夫人をちらりと見て大量にある宝石箱の幾つかを使用人に渡し買取店に向かわせた。
持ち込んだ全ての宝石を売ってもベンジャーが叩きつけた督促状の額には及ばない。
結局使用人は屋敷に戻り報告する。
ライアル伯爵は今度は目覚めている夫人の【私のものよ!触らないで!】という声を背中に聞きながら全ての宝石箱を持ち出し売るように指示をした。
成金になりたての頃の宝飾品だけは高値で買い取って貰えたと札束の入ったカバンを抱えて使用人が戻ってきた。これで他の支払いも出来ると思ったが、執事に金の入ったカバンを「預かります」と押さえられてしまった。
10日後に使用人達への給料の支払い日が迫っていたからだった。
そして執事は言った。
「王宮からの返事は来ておりません」
ライアル伯爵はさらに肩を落とし、ベンジャーは激昂した。
この章は最終章となりますので第一章から第四章のインシュアの保険販売とは読んだ時の受け取り方(感じ方)が変わるかも知れません。
中間にあるライアル伯爵家日記に近いと思って頂いて構いません。
架空、創作の話です。現実世界と混同しないようご注意ください。
◇~◇~◇
ライアル伯爵家では当主のライアル伯爵とその実子であり息子であるベンジャーがまさに一触即発の状態で睨みあいを続けていた。
予期せぬ負傷で頭部を縫合する事になったライアル伯爵の抜糸を終えた医師と助手が2人を避ける様にして部屋から出て行くとベンジャーは父、ライアル伯爵の元にツカツカと歩み寄った。
原因は2つあった。
元々ライアル伯爵家はそんなに裕福な家ではなかった。没落寸前とまでは言わないが樽や桶などの何かを入れる容器を木材伐採から製品加工販売を生業としていたのである。
日用品の中で平民であったとしてもいくつかは必要になるし加工する時のツタを染色したりして若い子向けに販売が伸びた事もある。定期的に買い替えが必要だった商品なのでそれなりに最低限の需要はあった。
しかし金物の製品やガラス製品が安価で売られるようになってくると売り上げも落ち込んだ。そこに外国からプラ製品が持ち込まれ爆発的なヒット商品となった。日用品として桶や樽を買うものはさらに少なくなって多くの在庫を抱えた。
――爵位を返上して、田舎でのんびり暮らそうか――
強欲なライアル伯爵でもそう思った時期があった。
父から爵位は継いだしベンジャーという息子も生まれた。夫人は第二子をとせがむが経済的な困窮からこの上子供が増えればどうなるか。なので子供はベンジャー以外には作る気になれず1人病院に行き、パイプカットをしてもらったのだ。その事は今も夫人は知らない。
いよいよ腹を括る時が来た。
ライアル伯爵は帳簿を見て天を仰いだ。4カ月後の手形が落ちなければ商売はもうできない。
今ある財産をもって夜逃げを考えた。手形が不渡りになれば2回目である。債権者が押し寄せて来て爵位を返上した金くらいでは事が足らない。
しかし、夫人には言い出せなかった。幼いベンジャーとお手玉遊びをするのを見て悩む日々。
そんな時だった。流行病が国内を席巻したのだ。
突然高熱を出し、呼吸が出来なくなったものが続出した。
医者も最初はベンジャーの打撲程度でも往診に来てくれていたが手が回らないと来なくなった。
ある日、屋敷の前で見るからに発熱している平民の男が「水を飲ませてくれ」と言って来た。市井にある井戸の水で感染するとデマが広まっていて、貴族の飲む水なら安心だと言うのだ。
ライアル伯爵はどうせ沢山あるのだからと桶いっぱいに水を汲んで男に飲ませた。
数日水も飲めなかったと男は感謝し、1時間程すると自分の足で歩いていなくなった。
それを見ていた他の平民も水をくれと言った。
その平民も一目で発熱していると判る。早く立ち去って欲しくて男の飲んだ桶の残りを与えた。するとその平民も1時間ほどするとフラフラしていたのに少しマシな状態で歩いて何処かに居なくなった。
そこからである。
――ライアル伯爵家の水は病気が治る――
誰が言ったかは定かではないがそんな噂が広がり、屋敷の前は人の群れで溢れかえった
そしてライアル伯爵は【高効能水】を売り出したのだ。
水だけなら8万ベル。但しこの桶に浸透した成分がなければ効果が薄い。桶は2万ベル。
今まで500ベルで卸していた桶だが、これが飛ぶように売れた。
平民でも買えた解熱剤も手に入らなくなり、解熱剤の1回分は王宮で働く文官の2年の年収に匹敵する額にまで高騰していたのだ。それに比べればかなり安い。
在庫の桶や樽は腐るほどあるのだ。桶を抱えて水だけ売ってくれと言う者にはこう言った。
――もう成分は溶けだしているので、ただの水になるがそれで良いか――
客は水だけでは効果がないのなら意味がないと新しい桶も買うしかないのだ。
抱えて帰るのも辛い量だったが零れた水に人が群がるほどだった。
ライアル伯爵は桶を売り切った後は入れ物がなくては意味がない触れ込みだったので廃材を使って手のひらサイズのコップのような入れ物を作り販売を再開した。
全盛期は【高効能水】180ccを20万ベルで売っていた。
当時は発症すれば致死率80%と言われたのだ。
【罹患する前なら予防薬として。発症したら治療薬として。あなたの気持ちを穏かにする高効能水】
そんな触れ込みで毎日数十億を売りあげた。噂は噂を呼んでシャボーン国以外の国からも多くの商人が来て『あるだけ全部』と買い取っていった事もある。
学院に初等科から入って卒業し文官になった者の初任給が手取り13万ベルほどだった事からどれだけ高価な物だったかが伺い知れる。
そんな暴利のような金額でも飛ぶように売れたのだ。購入者の中には領地を売った金全てで購入した貴族もいるし、娘や息子を娼館に売って金を作った者もいる。
【高効能水】に効果があるか。それは誰にもわからない。
ただ一つ言えるのは、入れ物は確かに木材を利用ししっかり作られたものだが、水はライアル伯爵家にある池の水である。地下水が湧き出ていて水の色合いや匂いなどは少し離れた所にある湖と同じだった。
当然煮沸などしていない。沈殿物がある事もあったがライアル伯爵はこう言った。
――よく掻き混ぜて飲まないと意味がない――
流行病の特効薬などなく10年以上経った今でも治療法、予防法は確立されていない。
ただ患者は年間に発症する者が両手で足りるほどで直ぐに隔離されて少なくとも半年は専用の施設で治療を受けるからか蔓延には至っていない。
だから【高効能水】を今、購入する者はいない。それによって財政が赤字に転落しているのだ。
以前に行っていた樽や桶の生産はもうとっくにやめている。入れ物はプラ容器にしたのだ。
――充分に成分をしみ込ませているので効果抜群--
だが、誰も買わない。
ライアル伯爵家はそうやって莫大な財産を築いたが、同時に樹齢何百年という木々があった山は全て木々を伐採し桶を作る材料として使ったため、木がなくなった山は次々に売り飛ばした。
今は植林すらされておらず土が剥き出しになっている。
そのうちの一つが先日崖崩れを起こした山である。子爵家が仕方なく買い取った理由は、山はなんだかんだで手を入れねば崩落を起こす事がある。
ライアル伯爵は【高効能水】をお得容量の樽。桶ではなく樽で3つ買ってくれるなら山もつけると子爵に言ったのだ。山は要らないと子爵は言ったが「なら水は売らない」と言われ山付きで買ったのだ。
はげた山は売り飛ばし管理の必要もなくなった。しかし肝心の【高効能水】は売れない。
所謂、【品のない成金】でもあるライアル伯爵家の内装は今でもそれだけで財産である。
全面金箔の部屋もあるし、格子天井の宗教画は教会にあるものよりも立派である。
通常に使っている馬車は国王陛下が乗る馬車よりも高価な仕様で、特別仕様になれば屋敷が幾つも買える。
ただ、間違ってはいけない。買う時は高価だが年数が経ち中古となった今、半額で買い取ってくれるかと言えば否である。そこまで豪華な馬車はどこも必要としないのだ。
夫人の散財も激しく、【珍しい】【一点もの】と言われれば誰よりも多く札束を積んで商人から宝石を買い漁った。半分以上はクズ石はガラス玉、そこそこでもキュービックジルコニアなのだ。
だが、所詮は成金。本物との見分け方など知らない。輝いている、大きい。それが夫人の基準だ。
それに輪をかけてメイサの散財である。
収入がもう12、13年ない状態で散財をしていれば、どんなに莫大な財産であろうと目減りする。
ベンジャーが憤慨をしている【1つ目の理由】は支払いの督促についてである。
仕事場に借金取りが来たと督促状を叩きつけた。
ヨハンのデビュタントを明日に控えてはいるが、ライアル伯爵家に支払える金はないのだ。
「金は何とかする。心配するな」
ライアル伯爵はそう言って夫人の部屋に行き、寝台で寝ている夫人をちらりと見て大量にある宝石箱の幾つかを使用人に渡し買取店に向かわせた。
持ち込んだ全ての宝石を売ってもベンジャーが叩きつけた督促状の額には及ばない。
結局使用人は屋敷に戻り報告する。
ライアル伯爵は今度は目覚めている夫人の【私のものよ!触らないで!】という声を背中に聞きながら全ての宝石箱を持ち出し売るように指示をした。
成金になりたての頃の宝飾品だけは高値で買い取って貰えたと札束の入ったカバンを抱えて使用人が戻ってきた。これで他の支払いも出来ると思ったが、執事に金の入ったカバンを「預かります」と押さえられてしまった。
10日後に使用人達への給料の支払い日が迫っていたからだった。
そして執事は言った。
「王宮からの返事は来ておりません」
ライアル伯爵はさらに肩を落とし、ベンジャーは激昂した。
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