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第二章☆境界線(5話)
代襲相続
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架空、創作の話です。現実世界と混同しないようご注意ください。
◇~◇~◇
フェオン未亡人から差し出された封筒に入っていたのは【王家】の透かしが入った用紙だった。勿論白紙ではない。額面を書いてない小切手のような物を王家が送りつけてきたら間違いなく「黒い影」を感じるだろう。
白紙の小切手と拾得物で騎士団に届けた手形に夢を見てはいけない。
「俺なら一千万って書くな!」
「たったそれだけか?俺なら1億だな。いや10億?」
そんな夢を見るのはいいが、実際に起こればそれは不労所得となって税金の申告が必要である。それまで扶養家族を満喫していれば、所得税を払うだけでなく他人からなので贈与税も発生する。
そして忘れた頃にやって来る住民税。その頃になると扶養から外れた事を示す国民健康保険の掛け金の支払額にビックリして二度見、三度見したところに国民年金の納付書も届くのだ。
ふってわいた見た事もない親戚をブッチするのは簡単だが、官公庁から金の事で逃げる事は先ず無理だ。
白紙の小切手など突き返すに限る。
手形は額面が1兆であろうと意味がない。このうちの2割、いや1割でもいいな~なんて謝礼を期待する者は愚か者である。手形を拾っても【ありがとう♡】と感謝をされ、ちょっとした菓子折りが限界である。
小切手や現金と違って手形には額面が幾らであろうと【謝礼金】の計算根拠になる数字は書かれていないのだ。
期日までに当座預金口座に金がなければ不渡り。会社は2回目で倒産する。
そんな負の意味も持つ手形など拾って喜ぶのは落とした者だけだ。
金にしようと裏書をすればとんでもない災いが自分に降りかかってくる事も忘れてはいけない。
借金の保証人、連帯保証人と同レベルで危険なのが手形の裏書なのだ。
ヘタすると額面がとんでもない額面の時が多いだけに手形の裏書がスリルを味わえるワースト1かも知れない。
まぁ、自分の名前はホイホイ書くなという事である。
長くなった。申し訳ない。
フェオン未亡人が差し出した書類は数枚あるが、受取人が3人なだけで内容は同じである。
①【王都南西区東西234番街北通り1丁目51番地8号丙】
②【王都南西区東西234番街北通り1丁目1】
「なるほど。この土地の隣地境界線と道路境界線を確認して欲しいという事のようですね。差出人が官公庁になっているので都市計画の中に入っているんでしょう。あの辺りは道路幅を広げて馬車を片側2車線の4車線化して第二種低層住居専用地域に指定すると7カ月前に告示をされていました。異議のある者についての申し立て期間ももう終わっていますから同意とみなされたのでしょう」
書類はその土地を確認して欲しいというものだった。
差出人は間違いなく官公庁のもので、担当者のサインもその上司のサインもあった。
何処かで見た文字だな?と思えば2人ともインシュアのご契約者様である。
だからといってこの2人に何かをしてもらうつもりはないし、そんな事をすれば威力業務妨害と言われかねない。いや官公庁の人間なのでこの書面の件であれば公務執行妨害である。
暴力行為に訴えるものは意外に少ない。シャボーン国でも安価で見られる簡易劇団の劇で騎士団に殴りかかったり、カウンターの向こうにいる文官の胸ぐらを掴んだりだからと誤認している者がいるが、実は【仕事を邪魔したら】なのである。契約者様の業務を邪魔するなどとんでもない話だ。
どちらも3年以下の懲役または50万ベル以下の罰金となっているが正直どっちも嫌である。
「同意も何もそんな土地知らないわ」
「そうですねぇ…先々代、つまり亡くなったご主人のお父様から家督を譲られる際に土地などの不動産、絵画や馬車などの動産、有価証券を含む金融資産についてのお話は聞かれていますか?」
「えぇ。爵位と侯爵邸のある土地と離れも使用人住居棟も全ての建物を含む家屋、附属するもの、侯爵領については夫が相続とあったわね。夫の妹も金融資産と別荘を相続したわ」
「と、いう事はご主人様が相続をされた時は…まだ大伯父様は生きていたという事ですね。こうやって息子さん達に話が来ているという事は代襲相続になっているという事です。代襲相続であれば大伯父様は貴族籍は抜けておらず確認できる結婚歴もなく子供もいなかった。ご主人が生きておられる時に亡くなったのであればご主人が相続人になっていたのですけど、知らぬうちに大伯父様が亡くなり、相続人を調べたら権利を持つフェオン未亡人の御主人も亡くなられていた。なので直系である息子さんに話が来たのです。境界線確認の書面の日付も3か月以内になっていますので亡くなった事を知り得た日または相続権が発生している事を知った日から3か月以内に…に該当しますので相続を放棄する事が出来る期間です」
「そうね…弁護士さんもそう言ってたわ。またはが若しくはじゃなくて胸を撫でおろしたわ」
「ご主人が生きていて相続をされた場合は、この土地の権利はご主人が亡くなった時点で配偶者であるフェオン未亡人にも発生しましたが、この書類を見る限り、先に亡くなったのが御主人ですから‥‥面倒ですね。相続放棄をしましたか?」
「相続放棄については息子3人もそんな土地要らないっていうから手続きをさせている最中にそれが届いたの。弁護士に聞いたら確認には行かなくていいっていうけど本当かしら」
「本当です。確認に行けばその土地の所有権を主張する事になります。道路に面していない土地はありませんから必ずそこには役人がいて目の前で確認の署名をします。なので相続放棄の申請は取り下げられるでしょう。なので確認には行かない方が良いのではなく、相続放棄する意思が固いのであれば行かない!です。」
「そうね。そうなのね。ありがとう助かるわ」
「代襲相続を放棄すると息子さんのお子様には相続権は発生しませんのでご安心ください」
「良かったわ。もうどうなる事かと思ったの。あんな壊れかけた廃屋もそのままだし外塀なんか傾いてるの。堀にはボウフラが沸いているし。良かった。これで相続放棄が認められたら安心して眠れるわ」
インシュアの眉がピクリと動く。
今、フェオン未亡人は何と言った?頭の中で反復する。
「ダメですわ。危険すぎます。まだ災いがすぐそこで燻っています」
「そうね、まだ手続き中だもの、気を抜けないわ」
インシュアは持ってきたカバンから少し前に売りだしを始めた商品のパンフレットを手に取った。
「フェオン未亡人、こちらをご覧くださいませ」
◇~◇~◇
フェオン未亡人から差し出された封筒に入っていたのは【王家】の透かしが入った用紙だった。勿論白紙ではない。額面を書いてない小切手のような物を王家が送りつけてきたら間違いなく「黒い影」を感じるだろう。
白紙の小切手と拾得物で騎士団に届けた手形に夢を見てはいけない。
「俺なら一千万って書くな!」
「たったそれだけか?俺なら1億だな。いや10億?」
そんな夢を見るのはいいが、実際に起こればそれは不労所得となって税金の申告が必要である。それまで扶養家族を満喫していれば、所得税を払うだけでなく他人からなので贈与税も発生する。
そして忘れた頃にやって来る住民税。その頃になると扶養から外れた事を示す国民健康保険の掛け金の支払額にビックリして二度見、三度見したところに国民年金の納付書も届くのだ。
ふってわいた見た事もない親戚をブッチするのは簡単だが、官公庁から金の事で逃げる事は先ず無理だ。
白紙の小切手など突き返すに限る。
手形は額面が1兆であろうと意味がない。このうちの2割、いや1割でもいいな~なんて謝礼を期待する者は愚か者である。手形を拾っても【ありがとう♡】と感謝をされ、ちょっとした菓子折りが限界である。
小切手や現金と違って手形には額面が幾らであろうと【謝礼金】の計算根拠になる数字は書かれていないのだ。
期日までに当座預金口座に金がなければ不渡り。会社は2回目で倒産する。
そんな負の意味も持つ手形など拾って喜ぶのは落とした者だけだ。
金にしようと裏書をすればとんでもない災いが自分に降りかかってくる事も忘れてはいけない。
借金の保証人、連帯保証人と同レベルで危険なのが手形の裏書なのだ。
ヘタすると額面がとんでもない額面の時が多いだけに手形の裏書がスリルを味わえるワースト1かも知れない。
まぁ、自分の名前はホイホイ書くなという事である。
長くなった。申し訳ない。
フェオン未亡人が差し出した書類は数枚あるが、受取人が3人なだけで内容は同じである。
①【王都南西区東西234番街北通り1丁目51番地8号丙】
②【王都南西区東西234番街北通り1丁目1】
「なるほど。この土地の隣地境界線と道路境界線を確認して欲しいという事のようですね。差出人が官公庁になっているので都市計画の中に入っているんでしょう。あの辺りは道路幅を広げて馬車を片側2車線の4車線化して第二種低層住居専用地域に指定すると7カ月前に告示をされていました。異議のある者についての申し立て期間ももう終わっていますから同意とみなされたのでしょう」
書類はその土地を確認して欲しいというものだった。
差出人は間違いなく官公庁のもので、担当者のサインもその上司のサインもあった。
何処かで見た文字だな?と思えば2人ともインシュアのご契約者様である。
だからといってこの2人に何かをしてもらうつもりはないし、そんな事をすれば威力業務妨害と言われかねない。いや官公庁の人間なのでこの書面の件であれば公務執行妨害である。
暴力行為に訴えるものは意外に少ない。シャボーン国でも安価で見られる簡易劇団の劇で騎士団に殴りかかったり、カウンターの向こうにいる文官の胸ぐらを掴んだりだからと誤認している者がいるが、実は【仕事を邪魔したら】なのである。契約者様の業務を邪魔するなどとんでもない話だ。
どちらも3年以下の懲役または50万ベル以下の罰金となっているが正直どっちも嫌である。
「同意も何もそんな土地知らないわ」
「そうですねぇ…先々代、つまり亡くなったご主人のお父様から家督を譲られる際に土地などの不動産、絵画や馬車などの動産、有価証券を含む金融資産についてのお話は聞かれていますか?」
「えぇ。爵位と侯爵邸のある土地と離れも使用人住居棟も全ての建物を含む家屋、附属するもの、侯爵領については夫が相続とあったわね。夫の妹も金融資産と別荘を相続したわ」
「と、いう事はご主人様が相続をされた時は…まだ大伯父様は生きていたという事ですね。こうやって息子さん達に話が来ているという事は代襲相続になっているという事です。代襲相続であれば大伯父様は貴族籍は抜けておらず確認できる結婚歴もなく子供もいなかった。ご主人が生きておられる時に亡くなったのであればご主人が相続人になっていたのですけど、知らぬうちに大伯父様が亡くなり、相続人を調べたら権利を持つフェオン未亡人の御主人も亡くなられていた。なので直系である息子さんに話が来たのです。境界線確認の書面の日付も3か月以内になっていますので亡くなった事を知り得た日または相続権が発生している事を知った日から3か月以内に…に該当しますので相続を放棄する事が出来る期間です」
「そうね…弁護士さんもそう言ってたわ。またはが若しくはじゃなくて胸を撫でおろしたわ」
「ご主人が生きていて相続をされた場合は、この土地の権利はご主人が亡くなった時点で配偶者であるフェオン未亡人にも発生しましたが、この書類を見る限り、先に亡くなったのが御主人ですから‥‥面倒ですね。相続放棄をしましたか?」
「相続放棄については息子3人もそんな土地要らないっていうから手続きをさせている最中にそれが届いたの。弁護士に聞いたら確認には行かなくていいっていうけど本当かしら」
「本当です。確認に行けばその土地の所有権を主張する事になります。道路に面していない土地はありませんから必ずそこには役人がいて目の前で確認の署名をします。なので相続放棄の申請は取り下げられるでしょう。なので確認には行かない方が良いのではなく、相続放棄する意思が固いのであれば行かない!です。」
「そうね。そうなのね。ありがとう助かるわ」
「代襲相続を放棄すると息子さんのお子様には相続権は発生しませんのでご安心ください」
「良かったわ。もうどうなる事かと思ったの。あんな壊れかけた廃屋もそのままだし外塀なんか傾いてるの。堀にはボウフラが沸いているし。良かった。これで相続放棄が認められたら安心して眠れるわ」
インシュアの眉がピクリと動く。
今、フェオン未亡人は何と言った?頭の中で反復する。
「ダメですわ。危険すぎます。まだ災いがすぐそこで燻っています」
「そうね、まだ手続き中だもの、気を抜けないわ」
インシュアは持ってきたカバンから少し前に売りだしを始めた商品のパンフレットを手に取った。
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