もしも貴女が愛せるならば、

cyaru

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愚かな第一王子

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第一王子のルセリックが王妃との間に出来るまで5年間国王には子が出来なかった。
王妃を召し上げた後、3年以上経過しても懐妊の兆しが見えない場合は側妃を召し上げる事が出来る。勿論「出来る」だけで強制ではない。
臣籍降下をした王弟や王妹に子が出来れば、その子供に王位を継承させれば良いだけである。

隣国に嫁いだ王女に子を渡せという事は外交問題もあるため簡単ではないが、数年で子が出来ずとも大抵の継承問題は解決できる問題である。

この国では王位に付くのに男女の区別はない。
大事なのは継承順位とされていて、出生順である。
3人の側妃を迎え何時までも引き延ばせず尻に火がついた王妃は避妊を中止したのだ。

そう、5年間子が出来なかったのは国王に問題があったわけでもなく、王妃が避妊をしていたのだ。経口避妊薬を服用し月のものを調整しながら閨事をしていれば妊娠する確率はグッと下がる。
王妃としての仕事は多忙で妊娠をしても継続できるか判らない。体を壊してしまえば元の木阿弥である。数年は蜜月を感じながらも執務や政務について自身を慣れさせるための自己防衛でもあった。

側妃を召し上げる少し前には国王の弟や妹も次々に婚姻をし、間者を忍ばせていた。


ヴィアトリーチェの母が産気づいたと聞いた王妃は典医の反対を押し切って陣痛の誘発作用のある薬を飲んだ。実のところ王妃は臨月ではなく9カ月目に入った所での出産となった。
様子を伺いつつも無事懐妊出来たとなれば継承権の第一位を他に譲る事は出来なかった。

ルセリックが一番最初に産声をあげたが、継承順位の第二位であるヴィアトリーチェは遅れる事3日でこの世に生を受けた。その後も僅か半年の間に側妃の3人も、王弟、王妹も出産をしたため、たった1年の間に継承順位は8番目までを数えるようになった。
その後、弟妹も含め王位継承順位は17番まで付いた。


国を統べる為には学ばねばならない事は多く、王太子という次の継承者を早々に立てないのは理由があった。全ての継承者に同等に与えられる教育は第一王子であろうと臣籍降下した家の子女であろうと内容は同じである。
その先は禁書と呼ばれる王家の秘密が書かれた物から、それぞれが読み解かねばならない。
禁書の内容は一定人数は知っているものの、門外不出。口外する事は許されていない。
過去に王子に告げてしまった王妃は処刑をされている。

例え我が子であっても、王座を狙うのであれば見守らねばならず内容を伝えたり、行動を戒める事は出来なかった。

神殿は王家と同等の力を持っており、継承権を持つ者の婚姻については双方の許しが必要だった。許しなく婚姻をした場合は継承権は剥奪されるし、婚姻前に子が出来てしまった場合も同様に継承権は剥奪される。
王位は何事もなければ25年ごとに次の世代に引き渡されていく。


禁書を読み解くにあたって、ルセリック以外の継承者は人間不信に陥りかけた。
古代文字で書かれた禁書はまさに禁書と呼ばれるに相応しく、ヴィアトリーチェはそれを読み解いた時、数日部屋から出られなかった。
次に読み解いたのは別の公爵家に臣籍降下をした王弟の娘、スティリアだった。
続いて第三王子、第一王女と読み解き、ヴィアトリーチェとルセリック以外は継承権を放棄した。


ヴィアトリーチェの継承権は第二位だが、未だ禁書を読み解けていないルセリックが国王となる事はおそらくない。ソフィーナに何か吹き込まれるかも知れないが、取るに足らぬ事。自ら女王となる事を決意し、次の世代に遺恨を残す事になる忌まわしい慣習を自身の代で最後にすべく動き出した。




「ルセリック、そろそろ卒業だが城での学問はもう履修しているのか」

父である国王が夕食の際にルセリックに問うた。
それ以上は深入りして聞く事は禁じられているため、食事を共にしているルセリックの実弟、実妹にあたる王子や王女、そして側妃を母に持つ王子や王女もピンと気を張りつめて次の言葉を聞き漏らさぬようにと聞き耳を立てている。

「大丈夫です。私は継承者の中でも最年長、順位も1位ですから勉学は抜かりなく」
「そうか。ならばよかった。儂もあと2年で退位だからどうかと思ってな」

王妃が避妊をしていた事もあって、ルセリックの懐妊が判ったのは結婚して4年目である。
在位5年目でルセリックが誕生し、現在18歳。在位が23年目となった国王はあと2年で退位する。他の王子や王女が懐疑的な視線を送るが、国王も王妃も我が子であるルセリックの言葉を信用する以外にない。

男爵令嬢に入れあげている事は知っているが、子を作ればどうなるかくらいはルセリックも禁書以前の教育で良く理解をしている筈だと思うしかなかった。

ルセリックもその辺りは熟知しており、神殿の許可が出ていない以上婚姻関係にないソフィーナには避妊薬を毎日服用させて月のものはコントロールしていた。


王妃となるには高位令嬢が相応しいとされているが、厳しい淑女教育を幼少期から受けている事や、外国語などについてもある程度家庭教師から学んでいるため、なれ易いというだけで、平民でも問題はない。
要は、その婚姻を「神殿」が認めるかどうか。完璧でも全く出来ていなくても神殿が「可」とすれば婚姻は出来るし「否」とすれば婚姻は出来ない。

最も、臣籍降下などではなく王籍や貴族籍を放棄すればその限りではない。



父の国王には大丈夫だと言ったものの、ルセリックは焦っていた。
事前の横並びな教育はもう履修していて終わっているのは間違いない。
問題はその後の禁書が全く読めていない事である。禁書を読むには古代文字を理解せねばならず古代文字については禁呪ともされているため、教えてくれる講師もいない。

膨大な王立図書の中から手掛かりを読み解き、それを以て王宮内にある禁書庫で持ち出し禁止の禁書を読まねばならないのだ。

「なぁ、リノベル。禁書の事を教えてくれないか?」

側妃の第二子であるリノベル王女を食事室の帰りに呼び止めて聞いてみるが「さぁ?」と首を傾げる。以前は菓子やアクセサリーを買ってやればある程度の情報は流してくれたが、ここ半年はにべもない。

実妹となるジョゼリン王女にも聞いてみるが「さっぱり判らないからわたくしは継承権を放棄したのです」と冷たくあしらわれてしまう。

ルセリック以外は全員読み解いているのだが、口外すれば処刑が待っているとなれば教える事など出来ない。仮に数億目の前に積まれたとしても、自らにつけられている「影」には容赦なく報告をされてしまう。
墓場まで持って行かねばならない秘密をどうしてこの愚か者に教えねばならないのか。


国王の退位まであと2年を切った今、情勢はルクセル公爵家のヴィアトリーチェにほぼ傾いていた。ルセリックもそれは判っている。このままでは王位継承者の第一位と第二位が婚姻となるが、実権はヴィアトリーチェに握られてしまう。そうなればソフィーナを妃として迎え入れる事が出来なくなってしまうだろう。
側妃を迎え入れる事は了承しても、側妃を選定する権利はヴィアトリーチェに委ねられるからだ。
間違いなくヴィアトリーチェはソフィーナを選ばない。

禁書を読み解けていないルセリックは知らなかった。

ヴィアトリーチェは側妃としてソフィーナをのではなくのだという事を。
そしてその原因を作っているのが誰なのかという事を。
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