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第29話 大口の取引先を得る
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レブレス王国の王太子と話が纏まり、国難は1つ取り去ったと言えるだろう。
「言っておくけど、国境はまだ封鎖をしていないからね?こっちだって期日より前に事を起こせば宣戦布告と捉えられても仕方ないから、そこはちゃんと守ってるよ?」
「でも流通が滞っていますよ?」
「妙な噂が流れれば商人も交易を控える。それだけの事だよ」
言い訳がましい王太子だったが、それも事実。
荷車や馬を奪われるようなことが一大事と商人たちが自主規制をしてしまう事は多々ある。
今回の事は情報を他国に握られてしまい、それを打ち消すだけの力も無くなっている王家や議会に問題がある。
一番の原因はライラを許しているカーティスだろう。その次がカーティスの所業を隠れ蓑にして甘い汁を吸う議会や一部の貴族。もうマルスグレット王国は腐敗をしてしまっていて、膿を出し切らないとまた同じことが起こってしまう。
「血に頼りすぎればこうなる。歴史は何度もそれを証明しているのに。残念なことだね」
――殿下に言われなくても!――
ぷんぷんと怒るウェルシェスだったが、ついでだ。
この先、レブレス王国の王太子と面会する事など早々あるはずもない。
早速ウェルシェスは気を取り直して売り込みを始めた。
「殿下、今ならなんですけどもタビュレン子爵領産の羊毛が定価の8割で卸すことが可能ですがどういたします?」
キョトンとした王太子だったが、腹を抱えて大声で笑いだした。
「アーッハッハ。ここで商売する?するんだ?アーッハッハ」
「笑い事では御座いません。こちとら売れなければ死活問題ですからね。今ならとっておきの培土も先行予約を承っておりますわ。先着順なので早い者勝ちとも申しますが」
「ブワッハッハ。それってさ、私は何人目?」
「お1人目ですよ?何か?」
「アーッハッハ。参った。参ったよ。ウェリーにはホントにもう上手く転がされちゃうよね。ここで先行予約って!!アーッハッハ。いいよ。取り敢えず羊毛は5トンで培土も5トンでいいかな?」
「え…そんなに?足りるかしら」
ベールジアンはウェルシェスに囁いた。
「羊毛はいける。でも培土は無理だな」
笑われてしまったけれど、ハネース王国の叔母に続き、大口の取引先を得たウェルシェス。
年間取引で羊毛は5トンと培土は1トンの契約を結んだのだった。
★~★
ウェルシェスがレブレス王国の王太子と話を付けたその日の夜、プリンガ―伯爵家の夕食では明日、兄のベルドーマンがカーティスの元に行く事も話し合われた。
「マルスグレット王国はもう末期だ。先がない」
メインデッシュを頬張りながらプリンガ―伯爵は誰に言うともなく声を出した。
プリンガ―伯爵家もウェルシェスが王都追放をされてただ静観をしていたわけではない。
ウェルシェスに直接連絡を取ろうとすれば監視されているのは解っていたので居場所が突き止められてしまう。運よく冬季だったので直接ではなくカムフラージュをしつつの迂回で連絡は取れた。
ただ監視はウェルシェスの居場所についてだったので、日常的に行っている事業については目を付けられる事もなかった。
まともな商売をしていれば如何にマルスグレット王国に先がないかは手に取るように解るもの。ベルドーマンは他国に留学の経験もあり、民衆が王家を崇める事を心の拠り所とするのなら、王家から発言権、権力を取り上げ本当のお飾りとして置き、実際の政務は民衆から成る議会が行う立憲君主制として国を立て直すために有志を集めていた。
民衆から選ばれた議員からなる議会であれば甘い汁を吸うヤカラも排除が出来る。
ただそのためにはカーティスには国王としての地位をそのままにせねばならない。
カーティスに残るのはお飾りとしての国王の地位のみ。
今の贅沢に慣れたカーティスには厳しいものとなる。
そして2人の側妃も廃妃となり、保証金を渡して王城を去らせる。
お飾りで良いのだからカーティスの妃としてライラを置く。
散財をしていたが、持っている全ての財産を国民に戻すことにせねばならない。
「そんな案を飲むかしら。無理だと思うけど」
「そうでなければ公開処刑されてもおかしくないんだ。命大事なら飲むさ」
「でも模範的な生き方をさせるんでしょう?」
「恐ろしく健康的な生活だな。一番鶏が鳴く前に起きて月が空の真上に来るまで寝られない。祈りを捧げる以外には議会決定したことへの署名が仕事だな。食事のメニューは囚人よりは良いと思えば乗り切れるさ」
貴族牢に押し込まれた囚人なら肉も魚もワインもつくが「ここまで質素な生活をしています」「貴方たちのために祈っています」と見せねばならないので、黴たパンでも贅沢品になるのも仕方のないこと。
朝も4時前に起きて、就寝は深夜の0時過ぎ。祈りを捧げるのに贅沢は不要で湯殿は湯と言われても言葉の上の話で、汗は欲の塊とされるので毎日体に流すのは季節を問わず水。体調不良など考慮もされないのだから夏ならまだしも冬は地獄だろう。それが死ぬまで続く。睡眠不足で考える事も放棄せねば気が狂うかも知れない。
カーティスがその案を飲み、今の議会が解散をしない限りレブレス王国の王太子との話は秘匿される。あとの無い話を彼らが飲むのか。
ベルドーマンは「飲むしかないよね」とワインを飲み干した。
「言っておくけど、国境はまだ封鎖をしていないからね?こっちだって期日より前に事を起こせば宣戦布告と捉えられても仕方ないから、そこはちゃんと守ってるよ?」
「でも流通が滞っていますよ?」
「妙な噂が流れれば商人も交易を控える。それだけの事だよ」
言い訳がましい王太子だったが、それも事実。
荷車や馬を奪われるようなことが一大事と商人たちが自主規制をしてしまう事は多々ある。
今回の事は情報を他国に握られてしまい、それを打ち消すだけの力も無くなっている王家や議会に問題がある。
一番の原因はライラを許しているカーティスだろう。その次がカーティスの所業を隠れ蓑にして甘い汁を吸う議会や一部の貴族。もうマルスグレット王国は腐敗をしてしまっていて、膿を出し切らないとまた同じことが起こってしまう。
「血に頼りすぎればこうなる。歴史は何度もそれを証明しているのに。残念なことだね」
――殿下に言われなくても!――
ぷんぷんと怒るウェルシェスだったが、ついでだ。
この先、レブレス王国の王太子と面会する事など早々あるはずもない。
早速ウェルシェスは気を取り直して売り込みを始めた。
「殿下、今ならなんですけどもタビュレン子爵領産の羊毛が定価の8割で卸すことが可能ですがどういたします?」
キョトンとした王太子だったが、腹を抱えて大声で笑いだした。
「アーッハッハ。ここで商売する?するんだ?アーッハッハ」
「笑い事では御座いません。こちとら売れなければ死活問題ですからね。今ならとっておきの培土も先行予約を承っておりますわ。先着順なので早い者勝ちとも申しますが」
「ブワッハッハ。それってさ、私は何人目?」
「お1人目ですよ?何か?」
「アーッハッハ。参った。参ったよ。ウェリーにはホントにもう上手く転がされちゃうよね。ここで先行予約って!!アーッハッハ。いいよ。取り敢えず羊毛は5トンで培土も5トンでいいかな?」
「え…そんなに?足りるかしら」
ベールジアンはウェルシェスに囁いた。
「羊毛はいける。でも培土は無理だな」
笑われてしまったけれど、ハネース王国の叔母に続き、大口の取引先を得たウェルシェス。
年間取引で羊毛は5トンと培土は1トンの契約を結んだのだった。
★~★
ウェルシェスがレブレス王国の王太子と話を付けたその日の夜、プリンガ―伯爵家の夕食では明日、兄のベルドーマンがカーティスの元に行く事も話し合われた。
「マルスグレット王国はもう末期だ。先がない」
メインデッシュを頬張りながらプリンガ―伯爵は誰に言うともなく声を出した。
プリンガ―伯爵家もウェルシェスが王都追放をされてただ静観をしていたわけではない。
ウェルシェスに直接連絡を取ろうとすれば監視されているのは解っていたので居場所が突き止められてしまう。運よく冬季だったので直接ではなくカムフラージュをしつつの迂回で連絡は取れた。
ただ監視はウェルシェスの居場所についてだったので、日常的に行っている事業については目を付けられる事もなかった。
まともな商売をしていれば如何にマルスグレット王国に先がないかは手に取るように解るもの。ベルドーマンは他国に留学の経験もあり、民衆が王家を崇める事を心の拠り所とするのなら、王家から発言権、権力を取り上げ本当のお飾りとして置き、実際の政務は民衆から成る議会が行う立憲君主制として国を立て直すために有志を集めていた。
民衆から選ばれた議員からなる議会であれば甘い汁を吸うヤカラも排除が出来る。
ただそのためにはカーティスには国王としての地位をそのままにせねばならない。
カーティスに残るのはお飾りとしての国王の地位のみ。
今の贅沢に慣れたカーティスには厳しいものとなる。
そして2人の側妃も廃妃となり、保証金を渡して王城を去らせる。
お飾りで良いのだからカーティスの妃としてライラを置く。
散財をしていたが、持っている全ての財産を国民に戻すことにせねばならない。
「そんな案を飲むかしら。無理だと思うけど」
「そうでなければ公開処刑されてもおかしくないんだ。命大事なら飲むさ」
「でも模範的な生き方をさせるんでしょう?」
「恐ろしく健康的な生活だな。一番鶏が鳴く前に起きて月が空の真上に来るまで寝られない。祈りを捧げる以外には議会決定したことへの署名が仕事だな。食事のメニューは囚人よりは良いと思えば乗り切れるさ」
貴族牢に押し込まれた囚人なら肉も魚もワインもつくが「ここまで質素な生活をしています」「貴方たちのために祈っています」と見せねばならないので、黴たパンでも贅沢品になるのも仕方のないこと。
朝も4時前に起きて、就寝は深夜の0時過ぎ。祈りを捧げるのに贅沢は不要で湯殿は湯と言われても言葉の上の話で、汗は欲の塊とされるので毎日体に流すのは季節を問わず水。体調不良など考慮もされないのだから夏ならまだしも冬は地獄だろう。それが死ぬまで続く。睡眠不足で考える事も放棄せねば気が狂うかも知れない。
カーティスがその案を飲み、今の議会が解散をしない限りレブレス王国の王太子との話は秘匿される。あとの無い話を彼らが飲むのか。
ベルドーマンは「飲むしかないよね」とワインを飲み干した。
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