追放されましたが、私は幸せなのでご心配なく。

cyaru

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第27話  王都に到着

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王都に到着をしたのは4日前だったが、様相のすっかり変わってしまった王都にウェルシェスは胸を痛めた。

活気のあった商店街は少ない物資をめぐって怒号が飛び交い、ウェルシェスが側妃をしていた時にも物乞いはいたけれど、地べたに座り通行人に施しを受けるだけだったのに今では走って来る馬車を危険を顧みず飛び出して停車をさせて「恵んでくれ」と馬車の壁を叩き続ける。

中にいるのは貴族で、その場を凌ぐために窓を少しあけて硬貨を放り投げる。投げられた硬貨に向かって馬車から物乞いが離れたすきに馬を走らせてその場から立ち去る。これが王都の日常の風景になってしまっていた。

「馬車があったら大変な事になってたな」

「そうね」

まさか歩いて王都入りするとは騎士たちも思っていなかったのだろう。顔と名前を知っている程度の騎士とすれ違ったけれどウェルシェスは田舎から出て来た娘風、ベールジアンも旅人の装いなので全く気付かれなかった。

「変装してるわけじゃないのにな。どんだけ見た目で判断してたんだろうな」

「そうね。直ぐに見つかるかと思ったけど拍子抜けだわ」

それらしい服装になればすぐに見つかってしまうだろうが「まさか?」と思う装いなら案外気が付かれる事もなくウェルシェスはプリンガ―伯爵家に到着した。

「まさか…本当にウェリーなのか」

「ウェリー…私のウェリー!!」

元気であることはバハニーズからの知らせで聞いてはいただろうが、実際に目の前に現れたウェルシェスに両親は感涙で抱きしめるのが精一杯。

屋敷には箝口令が布かれウェルシェスは久しぶりの実家を満喫した。
勿論ベールジアンを紹介するのも忘れない。

両親に紹介する前に既に関係は夫婦となっていたが、書面上はまだ独身。家長であるプリンガ―伯爵の許可がなければ貴族である以上正式な結婚とは認めて貰えないからである。

叱られるかと思ったがプリンガ―伯爵夫妻はベールジアンを温かく迎えた。
プリンガ―伯爵夫妻にしてみれば意に添わぬ側妃としての召し上げでお手付きが一度もないにしても出戻りには違いがなく、単に貴族同士の離縁ならいざ知らず相手は国王。

次の縁は諦めていた。次の縁を諦めるという事はウェルシェスには生涯独身で過ごすか、神に嫁いだとして修道院に入るしかないと思っていたのだから「夫」だ、「結婚を許してくれ」と言われれば賛成の1択しかない。

欲を言うとすれば…美丈夫かと言われれば「うーん」と思ってしまう点だけ。しかしそれもウェルシェスに一蹴された。

「お父様?お父様もだけど、男性は見た目では御座いませんの。包容力と中身が勝負なのです」

「そ、そうか…え?」

プリンガ―伯爵は褒められているのか貶されているのか微妙に解らなくなった。
しかし、ウェルシェスの笑顔には絆される。


「お父様、農機具も届きましたわ。ありがとう」

「良いんだよ。存分に使ってくれ。今のところ最新機種だ。ただ来年には他国に勉強に行かせている者が戻るからまた農機具も改良をするがな」

「そうなのね。それで…代金なんだけど…」

ちらりとベールジアンを見るとベールジアンは「自分に任せろ」と頷いた。

「申し訳ありません。恥ずかしい話、お支払い出来るほど貯えもないので直ぐには用意できないのですが必ずお支払いをしますので、待って頂けませんか」

ぺこりと頭を下げたベールジアンとウェルシェスだったが、プリンガ―伯爵は直ぐに返事を返した。

「待つ訳がないだろう!これは結婚祝いだ。支払いも何もないんだから待つ必要もない!それに息子なんだ。堅苦しい話し方はしなくていい。ここは君の実家でもある、そう考えてくれたら私たちはもっと嬉しくなる」


楽しいひと時を過ごし3日目の夜。プリンガ―伯爵家に客がやってきた。
まさかの客人にウェルシェスは目を丸くして驚いた。

やってきたのはレブレス王国の王太子だったのである。


「殿下、ご無沙汰をしております」

「ウェリー。また会えて嬉しいよ。今回の事は残念だったが国王の呼びかけで王都に戻ってきたのかい?」

「いいえ、王都で探されているとは夢にも思わず。ハネース王国の叔母から事の次第を聞き及ぶに至りました」

「そうか。我が国としては正直ウェリーの帰京はどうでもいいんだ。カーティス王には謝罪をされたところでウチの重鎮がはい、そうですかと振り上げた拳を下ろすとも思えない。だが、どこかで落としどころは付けねばならない」

「そうですよね…でも私をご指名されたと」

「うん。だって王都追放だから戻って来るわけがないと思ったからね」

「え?そういう理由で?」

――戻って来て損したじゃない!――

ウェルシェスはまたもや淑女の仮面はどこかに落として来てしまったらしい。
すっかり顔はジト目になってレブレス王国の王太子を細い目で見てしまった。
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